369話 落ち込むお姉さんとフィオの父
「なに? どうせ私なんていても……危険な目に合うだけだよ? だって、皆大怪我だってしたし……私が拾った武器で魔物を倒せたとしても皆、皆痛い目を見ちゃうもん」
ぶつぶつと言い始めた女性にメルはおろおろとしながらも彼女をなだめようとする。
「お、落ち着いてください! あの……街の外まではお願いしたいので……」
そう言うと彼女はじっとメルを見つめる。
メルは笑みを浮かべたままでいると、彼女はようやく少し表情を和らげたがすぐに首を横に振る。
「ど、どうしたんですか?」
「気を使ってくれるのは嬉しい、だけど……ごめんね、わがまま言ちゃったね?」
彼女はそう言うと悲しそうに微笑み。
手を振りその場を去って行ってしまった。
メルはそんな彼女を止めようとしたが今度は何も言えずに見送る事になった。
その理由は――。
「何か外で話声が聞こえると思ったら君だったのか」
そう家の中からフィッツが出てきたのだ。
彼の方へと向き、すぐ顔を女性の方へと向けたが、すでにそこには女性の姿はなく……。
「あ、あれ?」
メルは首を傾げるとフィッツはメルへと問いかけた。
「どうしたんだ?」
「いえ、さっき女性に此処まで連れて来てもらって……」
「女性?」
フィッツはメルの周りを見るが、何処にも女性の姿はない。
それはメルも先ほど分かった事でもあり……。
「さっきまでは居たんですけど、その綺麗な女の人で」
「綺麗な女性? ああ!」
そう言うとフィッツは納得がいったのだろう。
頷き、教えてくれた。
「確かに数日前から滞在しているな、剣の腕がたつんだが、どこか抜けてるんだ……。なぜか宿に剣を忘れるようでな……とはいえ無手でも戦えるみたいで魔物を追っ払ってくれている頼りになる方だ」
「へぇ……そうだったんですか」
メルは感心し、だったらあそこ迄卑屈にならなくてもと思ったが……。
「強い、確かに強いが……急な事に弱くてなぁ……何度か村人が助けた事がある。なんというかお嬢ちゃんと違って何で冒険者なんてやってるのか分からない位だよ」
「え?」
「だから、お嬢ちゃんと戦ったらまず、あの女性は負けるだろうなぁ……」
メルは彼の言葉にそれは無いだろうと顔を引きつらせる。
まだ若い彼女は確かに大人顔負けの実力を持っている。
旅をしている中、成長しさらに力を付けたのも事実だ……しかし、フィッツの話ではあの女性も強いという話だ。
なら、勝てるかどうかは分からない。
そう思うのが当然だろう。
「あの、私はまだ修行中の身ですし……」
「いや、実際にそうだろうよ、事実後ろから魔物が来た時には慌てて武器を振り回した挙句、腰を抜かしたんだからな」
「…………」
確かにそれは冒険者としてどうなのだろうか? メルは顔を引きつらせたまま、何も言えなくなってしまった。
「ところでお嬢ちゃんはなんでここに居るんだ?」
「ああ!! そうでした、あの……干し肉ありがとうございます」
メルは丁寧にお礼を告げる。
そして、申し訳ないと言った表情を浮かべ……。
「フィオさんには失礼な事をしてしまって、ごめんなさいって謝りたいんですが……」
「ああ、気にするな、あいつも反省してるのか帰って来てから落ち込んでたんだお互い様だろう?」
フィッツはそう言うと照れくさそうに笑う。
「それに、お嬢ちゃんには娘を助けてもらったんだ。それくらいは手伝わせてくれ」
「そんな、人を助けるのは冒険者として当然ですよ、私はまだ見習いですけど……」
メルは彼にそう告げる。
すると彼は驚いたような表情を浮かべた。
「どうしたんですか?」
「いや、今時そう言い切れる上に本当に助けてくれる冒険者は珍しいよ」
彼はメルに待つように一言告げ、家の中へと入っていく。
フィオでも連れてくるのだろうか? メルはそう思いつつもその場で待っていた。
ふと窓の方へと目を向けると其処からフィオが顔をのぞかせているのを見つける。
しかし、彼女はすぐに顔を引っ込めてしまった。
そんな彼女に再び嫌な気分を感じていたメルだったが……。
「お嬢ちゃん、待たせたな」
彼は何やら手に持って戻って来た。
「それは?」
「ああ、最近この辺りで取れることが分かったんだ」
何かの種子だろうか?
メルはそれを見て首を傾げた。
「こいつは砕いて入れると良い香りと辛味があるんだ。干し肉だけじゃ飽きてしまうだろう? だからこいつを持って行ってくれ」
「そんな悪いですよ! それに調味料だったら!」
高値で売れる。
メルはそう言いかけたが彼が首を縦に振る事で口を閉ざした。
「そうだ、だからこいつはソーリオスと取引する予定なんだ」
「そ、そうなんですか?」
ソーリオスと言えばメルの曾祖母が居る街の名だ。
そこと取引をすれば自然とリラーグに伝わるだろう。
「ほら遠慮せずに」
フィッツはそう言うと種子を布に包み手渡してくれた。
「ありがとうございます」
メルは改めて礼を告げ、頭を下げる。
そして、その種子を鞄の中へと丁寧にしまった。
「それでは失礼しますね」
メルは彼にそう告げ、いつの間にか窓から顔を出していたフィオを見つけると会釈だけし、その場から去って行く。
目指すのはリラーグだ……なるべく急ぎたいと考えるメルは街の外へと出るのだった。




