368話 変なお姉さん
道案内を頼んだ女性は綺麗な人だった。
メルは彼女を見ながらシュレムが居なくてよかったと考えていたのだが……。
ふとある事に気が付く。
前に来た時こんな人いたっけ?
小さな村でこれだけ綺麗ならきっと目に付くだろう。
なのにメルの記憶にはない。
「あの……」
メルが再び彼女に声をかけると彼女は笑みを浮かべてメルの方へと向く。
「どうしたの?」
「お姉さんは……この村の人じゃないですよね?」
尋ねてみると彼女は瞼を数回閉じたが、すぐに驚いたような笑みを見せ。
「凄いね! 実はそうなんだよ? お姉さんは旅をしているの」
そう教えてくれた。
しかし、そうなると更に疑問が残る。
どうやって旅をしているのか、という事だ。
目の前の女性は綺麗ではあるが、逆に言えば綺麗すぎる。
魔族なので魔法使いと言う可能性もあるが見える限りでは魔紋も無い。
見えない場所に魔紋があるのかもしれないが、そうだとしても傷一つないのだ。
メルは幼い頃修行で傷を負った事があるが、すぐに母が治してくれた。
しかし、普通の人はそうはいかない。
傷痕は自然に残ってしまうはずだ。
「えっと、どうやって馬車でですか?」
メルが訪ねると彼女は首を横に振る。
「魔法が使えるとか?」
もう一度聞くが彼女は首を横に振るだけだ。
困惑するメルは首を傾げる。
すると女性はころころと可愛らしい笑い方で笑う。
「私はね、剣を使うんだ……珍しい剣なんだけど今は借りている部屋に置いて来てるの」
「……えっと、丸腰じゃ危険なんじゃ? それにいくらこの村の人が良い人だからって外から来た人が盗ることも……」
幾らなんでも無警戒すぎだ。
メルさえもそう思う女性だったが……彼女は考え込むと。
「そ、そうだね! 確かにそうだね! 無手でもなんとかなるからって思ってたけど、盗まれるかもしれないよね?」
「いや、私に……聞かれても……」
今言ったばかりですよ? とも言い切れずメルは引きつった笑みで答えた。
メルは大事な剣の事を心配し女性はそわそわとするかと思ったのだが……。
「じゃぁ、フィッツさんの所に案内するね」
「剣は良いんですか!?」
たった今心配していたばっかりなのに! と思わず口に出そうだったメルだが、続く彼女の言葉にもう何も言わない方が良いとあきらめた。
「盗まれたら盗まれたで仕方ないと思うよ!」
「……………………」
不安そうではなく、あっけらかんと言い切った女性に対しメルはそうですねとも言えず。
ただ、大人しくついて行くのだった。
目的のフィッツの家へと辿り着いたメルは案内をしてくれた女性に対し頭を下げる。
すると女性はにこにこと笑顔を浮かべていた。
「気にしないで」
そういう彼女はその場から去ろうとせず。
「え、えっと……」
メルは思わず困惑をしてしまう。
一体なぜこの人は去ろうとしないのだろうか?
「お姉さん?」
「ん? どうしたの?」
彼女はメルに声をかけられると詰め寄ってくる。
決して長身とは言えないが、詰め寄られると圧迫感を感じメルは思わず一歩後ろへと引いた。
「い、いえ、どうしたのかな? って……」
メルが訪ねると彼女は首を傾げている。
言葉の意味が伝わっていない……そう理解したメルは改めて口にした。
「あの、案内は終わりましたよ? 大事な剣を宿に置いて来ているんですよね?」
すると彼女はうんうんと首を縦に振った。
顔は優し気な笑みが張り付いたままだ。
「私は大丈夫ですから、戻った方が……」
そう言うと彼女はショックを受けたよう奈表情を浮かべる。
メルはますます彼女の行動に疑問を感じ首を傾げていると……。
「だ、大丈夫? だってあなた迷子になるって……!」
彼女の言葉を聞きようやくメルは理解した。
なぜ彼女がここに居座ろうとしていたのか……それはメルを心配してくれての事だった。
そんな優しい彼女に感謝しつつも、本当にもう大丈夫だと確信しているメルは……。
「大丈夫です、もう迷わないですから」
そう告げると今度は瞳に涙を溜め始め、がっくりと項垂れる女性。
メルは予想外の行動にあたふたとしてしまった。
すると……。
「やっぱり、私って頼りにならないんだ……」
そう呟くとふらふらとその場から去って行こうとしている。
その言葉は魔族や天族、鬼族には小さすぎて聞こえないだろう。
だがメルは森族後を継いでおり、その特徴もある。
「ま、待ってください!」
ここまで案内をしてもらって助かったと感じているのは事実であるメルは彼女を慌てて止める。
そして……。
「頼りにならないなんてそんな事無いです!」
そう言い切ると彼女は暗い顔のまま振り返り……。
「そんな訳ないよ、剣術が優れててもよく転ぶし、剣を忘れるし、お財布忘れるし、今回だって仲間に忘れられてここに残ってたし……」
「……………」
彼女は小さな声で呟きながら大きく溜息をつく。
「皆いつも言うから……、お前のせいで危険な目に遭ったって頼りにならない前衛だって」
彼女はずっとそう言われてきたのだろう、メルが思わず黙っているとそれを返事と取ったのか、彼女は再び大きな溜息をつくとトボトボと歩いて行った。
「ま、待ってください!?」
だが、流石にその様子の女性を放って置く事は出来ないとメルは声をかけ彼女を止めるのだった。




