353話 試練へ
試練の入り口は見つかった。
だが、どうやら人数が足りないようだ。
困るメル達の元へと現れたのはシュレムだった……。
一度は敵かと思い警戒するも、彼女本人であることは間違いないようだ。
「シュレム……」
メルも彼女の姿を見てほっと息をついた。
いつもと何も変わらない姉の姿がそこにはあった。
「それで……」
だが、シュレムは不安そうな顔へと変え辺りを見回す。
「エスイルは何処だ?」
その言葉には誰も答えることが出来なかった。
だんまりとしてしまうその空間の中、彼女は呆然とする。
「お、おい……メル達までエスイルは敵になったんだ……なんて言わないよな?」
「俺達は……って事は聞いて来てるんだな?」
リアスは彼女へと尋ねると彼女はその顔を歪める。
「じょ、冗談はよせよ? オレだって怒るぞ?」
「冗談じゃないわ……ただ、敵と言い切るにはちょっと違うと思うけどね」
ライノの言葉に彼女はすがり付くような反応を見せた。
「そ、そうだよな! エスイルは敵なんかじゃ――」
「エスイルは攫われたの……でも、その内エスイルはその感情を殺されると思う」
だが、メルは自身の考えをその場にいる仲間達に伝える。
「何を言って……」
「今はエスイルの意志が残ってるだけど、その内それが消えてエスイルの姿をしたエルフになる。きっとエスイルにもある魔力が狙いなんだと思う」
彼女はそう言うと……深いため息をつく。
「そうなったらきっと、もうエスイルは戻ってこない」
目を伏せ、瞳の奥が熱くなる感覚を感じた。
だが、泣いている暇なんてない。
今は……やらなければいけない事があるのだ。
「そうなる前に……精霊の道具を手に入れないと!!」
メルはそう言うと地下に続く階段を見下ろす。
リアスとライノも頷きそちらの方へと目を向け……。
一人シュレムだけは首を傾げた。
「道具? 道具ならもう……」
「あれは今私達の手元にないの、手に入れるには私がレライの前の国……その血を受け継いでるって証明しなきゃ」
メルはそう言うと階段へと足を踏み出した。
「ま、待てって……そういやロクの爺さんはどうした? ここにいるって聞いたぞ?」
そんなメルを止めるかのように腕を掴んだシュレム。
メルは彼女の腕を振り払うかのように力を籠めると……。
「エスイルを助ける為に少しでも急ぎたいの! それにロク爺なら外にいたよ……」
外にいた……だが、それらしき姿は見当たらなかっただろう。
当然だ彼は死んだのだから……。
では何故メルがそう口にしたのか? それは簡単な理由だった。
ロク爺の墓は入口のすぐ近くにあるのだ。
だから、そこに眠いっている彼を外にいたと言ったのだ。
「ん?」
だがシュレムはその事にすぐには気が付かなかった。
かと言ってメルの言いたい事を良く分からないな? で済ますつもりのない彼女は……メルのその寂しそうな表情からようやく答えに行きついたのだろう。
「誰が……やったんだ?」
「分からないわ……ただ私やリアスちゃんの知る毒ではなかった事は確かなの」
ライノは心底悔しそうに呟く……それもそうだろう。
彼は薬師……無名ではあるもの腕は確かなのだから。
不名誉と思っても無理はない……。
「……それでも、私達は……証明しなきゃ」
メルは階段から目を離さずに繰り返す。
そんな彼女を見てシュレムは大きく溜息をついた。
「シュレム?」
リアスは彼女の名前を呼ぶ。
するとシュレムはメルへと優しい声をかける……。
「メル、こんな時ぐらい泣いても良いんだぞ?」
「………………」
旅の中、メルは泣かないよう努力してきた。
しかし、それでも目頭が熱くなる事は何度もあった……。
だが、声をあげて泣いた事は無い。
メルはゆっくりとシュレムの顔を見上げる。
「今は駄目」
しかし、彼女へとそう告げると奥から込み上げてくるその感情を抑え込んだ。
今泣いてしまえば、きっと自分の心は折れてしまうだろう。
そうなればきっと……この先試練を受けるなんて事は出来ないだろう。
メルはそうしてはいけないと自身で思い、改めて階段へと足を踏み出した。
「メル……」
それは辛そうな背中だっただろう、優しい少女は……自分の為に、自分の家族の為に泣く事を選ばず。
この世界の為に……前へと進む事を決めている。
「シュレム、とにかく助かったよ……メルが崩れないよう、支えよう」
リアスはそういうとメルの後を追う。
「そうね、ほら……行くわよ?」
ライノもまた彼女の前へと割り込み階段を降りて行った。
シュレムは地下へと続く階段を降りる仲間達を見て…………いや、メルを見て……。
「……無理してるな」
そう呟くと彼女もまた階段を降りるのだった。
カツン、カツン、カツンと鳴り響く階段を降りる音。
彼女達が一歩また一歩と進むと周りにあるマジックアイテムは光を帯び道を照らしてくれた。
どうやら魔法を使う必要はなさそうだ……。
メルは壁、天井、そして階段に何かないかを注意深く観察する。
試練と言うからにはきっと何かがあるだろう……。
「あれ?」
階段を降り切るとメルは目の前に光が広がっていない事に気が付く。
「我が行く道を照らせ……ルクス」
覇気のない声で魔法を唱えた彼女はルクスの光でそこを照らす。
すると一つの石板が目の前にあるのに気が付いた……。
「何か書いてあるみたいだな?」
リアスは警戒しつつも石板へと近づく……。
「試練を受けしものフラニスに導かれ?」
そして、そこに書いてある言葉に首を傾げるのだった。




