344話 捕らわれたメル
メルはエスイルを探しに一人町の中へと出て行ってしまった。
だが、彼女は迷子になりやすい。
当然迷ってしまい……挙句、それに気が付かずに男たちに襲われてしまうのだった。
「そうそう、大人しくしてたらすぐに済むからさ」
にやにやと嫌らしい笑みを浮かべながらそういう男達。
しかし、メルは何も答えられ無かった……。
また、捕まったと言う事よりもエスイルが神子と言うのに選ばれ、連れ攫われた。
その事の方が衝撃だったのだ。
「まだガキだが旨そうだ」
男の一人は動かなくなったメルへと向け手を伸ばす。
だが……それは途中で止まった。
「あん?」
何かを見つけたらしい男、メルはようやく疑問に思い彼の方へと向く。
すると彼はメルの後ろの方へと目を向けていた。
だが、振り返る事の出来ないメルには何も分からない。
彼女はもしかしたらリアス達が助けに来てくれたのかも? と考えるが――。
「メルお姉ちゃんを離せ!」
その声は聞き覚えがあり、尚且つ今一番望んでいた者の声だった。
「エスイル!!」
メルが彼の名を呼ぶとくぐもった声が聞こえ、メルは解放される。
だが、それにメルは驚いた。
エスイルが助けてくれたのは間違いないだろう。
だが、エスイルが精霊魔法も無しに大人と渡り合えるだろうか?
詠唱は確かに聞こえなかった。
「お……お前! 何をしやがった!!」
目の前の男が叫ぶ。
メルはゆっくりと、首を後ろへと向けた。
そこには倒れている男が一人。
白目をむいていて口からなにか泡立つ物をブクブクと吐いていた。
「エス……イル……?」
メルは少年の名を呼ぶ。
彼はその場に立ち瞳からは怪しい光が見えた。
その手にはナイフが一つ……。
そのナイフもまた怪しく光っている。
「何って……メルお姉ちゃんを虐めたから」
ころころと笑う少年はナイフを見せびらかすようにする。
その様子に男だけではなく、メルもゾッとした。
メルと違いエスイルは森族らしい混血だ。
力も弱く、精霊魔法に頼る。
剣等を握った事も無い……なのに今はナイフを手にして人を傷つけたのだ。
「……だ、だれ?」
メルはエスイルではない! そう思い尋ねるも少年は首を傾げるだけだった。
答えが来ない事にメルは――。
「エスイルは何処……?」
と尋ねるが、それに対してもエスイルは眉をひそめ首を傾げるだけだ。
「僕は僕だよ?」
そうは言うが普段の彼からは想像もつかない程異様な雰囲気を纏っている。
正気ではない事は確かだ。
いや、そもそもエスイルではない! そうメルは感じた。
確かにエスイルそっくりだ。
声も、仕草も……だが、エスイルは優しい少年……人を傷つけるなんて事は絶対にしないだろう。
「違う……あなたは誰?」
魔法で変身しているんだ。
そう判断したメルはそれを睨む。
だが……彼はきょとんとした顔の後、暫くし……。
「あははははは! なるほどね、信じたくないんだ……」
少年は高笑いをする。
だが、ひとしきり笑った所でふぅ……と言い。
「こ、このガキ! お前何をしたのか分かってるのか!!」
その笑い声で正気に戻ったのだろうもう一人の男がエスイルへと掴みかかろうとしていた。
だが……。
「うるさいなぁ……」
一瞬、ナイフを突きつけると男は痙攣し、大きな音を立てその場に倒れた。
メルは何が起きたのか分からなかった。
するとエスイルは……。
「これ、凄いでしょ? メルお姉ちゃんを苦しめた道具の元になった奴なんだよ」
いつもと変わらない笑みを浮かべエスイルはそんな事を言った。
そんな彼を見て――。
「エスイルと同じ格好で、声で酷いしたり言ったり事をしないで……」
声を震わせながらそう言った。
だが――。
「僕が魔法で変身された偽物って言いたいんでしょ? でもさ、そんな事無理だってメルお姉ちゃんも気が付いてるでしょ?」
「それは……」
分かっていた。
ユーリでなくてはそれは出来ない。
だが……。
「なんで、何があったの?」
彼がエスイルな訳が無い、そう思いつつメルは尋ねる。
あまりにも突然すぎる……。
「…………僕は知ってるんだ、魔族がメルお姉ちゃんに酷い事をしたのを……それに、考えてみてよ、何人かは生き残れるんだよ? 邪魔ものは消して、最初から始めればいい」
にっこりと笑う少年。
だが、メルはそれに対し首を横に振った。
「それじゃ駄目だよ! だってだって!!」
「でも、この世界は汚いよ? 僕を人質に取ってメルお姉ちゃんを殺そうとした人もいる、なのになんでメルお姉ちゃんも駄目だって言うの?」
エスイルが寂しそうに呟く。
するとメルは疑問に思った。
「私……も……?」
その言葉は誰かも同じ事を言ったと言う事だ。
エスイルがおかしくなったのはメル達が帰ってから……つまり、ライノもと言う事だろうか?
「折角破壊の精霊なんてすごい名前を持ってるのに、あの子は否定したんだ」
その言葉を聞きメルはようやく何故部屋に宝石があったのかを理解した。
「僕がどんなに頼んでも、嫌だって……ケルムさんは死なないのにね」
「フアル……」
そう、氷の精霊であるフアルは今のエスイルを否定した。
彼女もまた精霊である事から嘘はつけない。
人間達と関わる事でなにかが変わったのだろう……。
「だからさ、置いて来たんだ……後で聞いたら僕だけいれば十分だって言われたからね」
「エスイル……」
ころころと笑う少年は何処か寂しげだった。
もうメルの知る彼ではないのだろうか? メルは呆然としつつ彼を見つめ……名を呼ぶのだった。




