342話 不安
リアスはエスイルに取りついた何かが彼を傷つけることはないと考えていた。
しかし、それは首元に近づけたナイフを握る手に力を籠める。
そう、それは条件さえ満たしていればだれでもよかったのだ……。
リアスは手を出せず、それにエスイルをさらわれてしまうのだった。
メルが一人、部屋の中でもやもやとしている時だ……。
『メアルリース……』
名前を呼ばれ彼女は辺りを見回す。
すると、シュレムの眠るベッドの横に半透明な精霊エルフが居た。
「……エルフ?」
メルが彼女の事を呼ぶと慈愛に満ちた笑みを浮かべた精霊は頷き。
『この子の意志を聞いた時、会話をする力だけ籠めました。時間はあまりありません……』
彼女はそう言うと……すぐに言葉を続けた。
『私が貴女を見つけた様に、あの者も貴女の代わりとなる神子となる者を見つけました』
「ミコ?」
メルが繰り返すと彼女は頷き。
そして……。
『水のアクアリム、炎のナウラメギル、草花のナトゥーリッター、名もなき宝石、そして風のヴィルミア……五つの道具、そしてすでに三人の子達は目覚めています……』
「…………」
ミコと言う部分にはこれ以上触れてこない事に不安を感じるメルだったが……彼女の事を気にしていられない程時間が無いのだろうと悟り、大人しく話を聞く。
聞きなれない言葉が出てきたが、恐らく盾と首飾りの事を言っているのだろう。
だが一つだけ気になったのだ。
「ねぇ、氷の宝石は何で名前が無いの?」
単に完成していないから、と言う訳ではないだろう。
グラネージュの生い立ちを知らない訳ではないメルは宝石に名前があってもいいのでは? と考えたのだ。
だが……エルフは少し迷った風に表情を変え。
『それは私がこの世界を作る時、海を作り、火によって大地をつくり、風を吹かせ、草花を植えました……ですが、何度も失敗し、それら全てを凍てつかせ壊すためにその宝石は作られたのです……あの子の手によって』
「あの子? もう一人のエルフって事?」
メルは尋ねると彼女は首をゆっくりと横に振ります。
『あの子は純粋なエルフ……精霊ではありません、私と似た容姿を持ちこの世界のずっと前に最初に生まれた子、私が自らの手で壊すことになった世界の生き残り……私の罪の証です』
「……え?」
その言葉にメルは呆然とした。
それもそうだろう……自分達は世界を壊させないために戦っている。
だが、大昔にはすでに何度か壊されていると言う事を知ったのだ。
それも、メルが信じている方のエルフに告げられたと言うのだから驚かないはずはない。
『何度も、何度も人々は戦争をし、互いに傷つけあいました。ですが、最初の世界は違った……今の様に理性がある訳ではなく、人は魔物と化していました、ただ一人あの子を除いて……そして、私はあの子に力を渡し同じ存在へと変えました』
彼女は悲しそうに話す。
『何度も、何度も失敗を繰り返し、ようやく対話が望める人が生まれ……それが貴女達なのです、ですが同時に今度の人は私達の命を脅かす魔法を生み出しました……そして、互いに傷を負い、これ以上子供達が傷つくのが耐え切れず戦争を止めました……そして現在に至るのです』
彼女の言葉は分からない事ばかりだった。
しかし、一つだけ分かるのはどうやって戦争が終わったか、メルは知らなかったと言う事だ。
エルフ率いる森族、鬼族そして精霊。
それに対し魔族は森族を捉えて精霊魔法を使わせたり、魔法を生み出したりした。
魔法は精霊が怯える程の力だ。
しかし、エルフは止めたと言った。
『疑問ですか? 簡単です……私は誰も傷つかないよう、誰も居ない所をわざと狙い地形を変えたのです……これ以上、不毛な戦をするのであれば人里と言えど容赦はしないと、当時の王は賢く、また民の命を優先したのです』
彼女はそう言うと当時を懐かしむ様に微笑み、その顔は何故か明るんでいるようにも見えた。
メルは不思議に思うが彼女は時間が無い事を思い出したのだろう……。
『とにかく、残る二人の子フラニスとドリアードを起こしてください……あの子達は四人は世界を作る者……貴女ならきっとできます』
「お、起こすって言われても今までどうやったか……私には――」
まだその方法が分からない、いや、方法は分かってはいた。
しかし成功するかは分からない、そうメルは訴えようとしたが……。
『大丈夫……貴女なら……あの人の血を継ぐ子であれば……だからこそ、その剣は――』
そう言い残し、エルフはその場から姿を消した。
「この剣?」
メルは自身の腰にある剣の柄へと手をかける。
そういえば、アクアリムって私の家に伝わる武器なんだよね。
でも、何でエルフの道具が家にあったんだろう?
これって世界を作った道具なんだよね? そんな大事な道具が昔から家にあった。
他の道具は氷の洞窟、フォーグの祠、そして首飾りはルーフ地方に……人の手には渡ってはいたものはあるけど個人の家にあるのは私の家だけ。
「このアクアリムだけ……」
水の精霊を司るそれを持つ理由などメルには一つしか考えられなかった。
「もともと、エルフと家は関係があった?」
メルはそう呟くと、刃抜きどれほどの時が経ったのか分からないが透き通るような刃を見つめるのだった。




