341話 狙われたエスイル
心配するメルのため、エスイルを探しに向かったリアス。
だが、大通りに彼の姿はなかった。
疑問に思ったリアスは屋根の上から探すのだが、なぜか入らないと言っていた裏路地に入り込んでいた。
彼の元へと向かうとリアスはエスイルに襲われ、いや……彼を乗っ取った何かに襲われる。
果たして、それの正体は? 目的はなんだろうか?
エスイルを盾に取り、去る事を要求してきた何か。
だが、リアスはそれをはっきりと拒否した。
その理由は簡単だ。
もし、リアス達を倒す為であれば、今この場で騒ぎ、喚けば人が来るだろう。
そうなれば子供へ暴行しようとしたという事でリアスは捕まる。
当然困惑するメル達を一人一人と倒していけばいい。
だが、そんな事をせずに去って行こうとした。
つまり、相手の目的は……。
「お前はエスイルを連れて行くのが目的だ……なら、その身体を傷つける事は出来ないだろ?」
そう、リアス達を倒すことは目的ではないと気が付いた彼は武器を構えた。
ここで気絶をさせて連れて帰れば良い。
その後に戻るかは心配だが、メルが居るんだ……きっと何とかなる。
魔法の事はメルに聞けば良いと自分に言い聞かせたリアス。
対し、目を丸め驚いた様子のエスイルは。
「勘の良い……ですが、勘違いをしないでください」
そう言ったそれは首にあてたナイフを握る手に力を入れる。
「――なっ!?」
予想外の行動にリアスは驚き思わず前へ一歩踏み出ると。
「動くな――! それ以上動くのでしたら、この者の命はありません」
エスイルを傷つけるはずがない。
そう考えていたリアスは歯ぎしりを立てながら一歩後ろへと下がり……相手を睨む。
「それで良い、では……そのまま後ろへと下がりなさい」
相手はエスイルを狙い攫おうという訳ではなく、誰でも良いが其処にエスイルが居るから攫おうとしているのだ。
それに気が付いたリアスは――。
下手に動けば、エスイルが殺される。
くそ! このままじゃ……どうすれば良い?
どうにかしてエスイルを助ける術を――と考えるが、相手がナイフを持っている以上何も出来ない。
下手に近づけばその幼い首に無情にもナイフは突き刺さるだろう。
「賢明な判断だ……私は誰でも良いのです。条件を満たしてさえいれば誰でも」
にやりと笑う正体不明の敵にリアスは――。
「条件だって……?」
彼の言葉を繰り返すとニヤリと笑ったそれは――。
「そう、条件……」
それだけを残し後ろへと一歩下がる。
逃げる時に隙を見つけたらすぐにでも走れる距離を保とうとするリアスだが、一歩でも前に動こうと素振りを見せるとナイフを持つ手に力が入るのが分かり、後ろへと下がらざるを得ない。
そして……。
「だが、それを貴方達に伝える理由はありません」
そう口にしたそれは……リアスの前から去って行くのだった。
リアスは慌てて後を追いかけるが、その先には人がにぎわっており……すでにエスイルの姿を探すのは困難になっていた。
「くそっ!!」
リアスは屋根の上へと昇り辺りを見回すが、少年の姿は何処にもない。
子供の足だ、そんな遠くに入っていないはずだと言うのに……。
「どこだ! エスイル――っ!!」
仲間の名を叫ぶ彼の声は、街の中に虚しく響いたのだった。
一方、メルはシバの寝泊まりの許可をもらうため、ライノとシバが出掛けた部屋の中をうろうろとしていた。
エスイルが心配なのは勿論だったが……それを更に不安がらせる物が机の上にあった。
それは氷の精霊を司る宝石。
エスイルが持っていたはずの物だ。
だが、その持ち主はベッドの上にそれを置き、その場を去って行った。
「――――」
メルはそれを手に取り、考える。
何故エスイルは大事な道具を置いて行ったのだろう?
ただの散歩だから……と思えば不思議ではない。
だが、その道具がどれほど大事かエスイルには分からないなんて事は無いだろう。
何より精霊との絆の証でもある。
だと言うのに、エスイルがそれを置いて行くのだろうか?
「シレーヌ!」
メルは水の精霊に声をかける。
すると、水色の髪を持つ可愛らしい精霊は悲しそうな顔を浮かべ首を横に振った。
『あの子達から何も聞けません、何を聞いても……答えてくれなくて……』
多の精霊から、個の精霊へと成長したシレーヌはメルが頼りにする仲間の一人だ。
「答えてくれないって、シレーヌは分からないの?」
だが、元々は多の精霊。
同じ感覚を持っているのだろう、同じ意思を持っているのだろう……そう思っていた。
しかし――。
『分かりません……私は仲間じゃないって……』
ぽろぽろと大粒の涙のような物を流すシレーヌを見てメルは慌てふためく。
そして、疑問に思う……仲間ではない、とはどういう意味だろうか?
精霊は大勢いるが一個の意思を持ち、共有していたはずだ。
だからこそ、それぞれが感じた事は皆が感じる事。
「…………でも、シレーヌは力を得たから、それからはずれた?」
メルはそう思いつつも、だからと言って他の精霊がシレーヌを仲間じゃないと言う理由にはならないと考えた。
事実、属性が違うウンディーネとフラニスが仲が悪い、仲間ではないなんて事は無いからだ。
「どういうことなの……それに……」
メルは手に持った宝石へと視線を落とし……。
何なの? なんか……凄く不安だよ。
その胸にもやもやとした不安を抱えるのだった。




