340話 エスイルを追って
一人で出かける気でいるエスイルを心配し、メルはついて行こうとした。
しかし、それを遠慮するエスイル。
だが、メルは食い掛り、無理やりにでも一緒に行こうとした。
そんな時、メルはエスイルに初めて怒鳴られてしまい……。
ショックを受けてしまうのだった。
エスイルを追ったリアス。
時間の差はあったとはいえ、子供の足だ。
追いつけない訳が無い。
彼はそう思っていた……だが、いざ城の外へと出てみると……。
「エスイルの奴……どこに行ったんだ?」
何処にも見当たらない。
ならば高い所からと彼は手頃な樽を見つけるとそれを足場に家の屋根へと昇っていく。
勿論目立つ訳にはいかない、しかし、彼は手慣れているのだろう誰にも気づかれる事無く上っていった。
屋根の上でキョロキョロとエスイルの姿を探すリアス。
すると――。
「――居た!」
彼を見つけてリアスは見つからないはずだと考えた。
何故なら彼は大通りではなく路地裏に入り込んでいたからだ。
メルとの話ではそう言った場所に入らない。
そう約束していたはずだ。
「何であんな所に」
リアスは一人呟くと、再び気付かれないように注意しながら地上へと戻る。
そして、エスイルを見つけた路地裏へと向かった。
何があるか分からない……もしばれた時はエスイルにメルや自分が怒られるだろうがそれでも構うものか。
そんな風に考えつつリアスは路地裏を進む。
するとエスイルは先程見かけた場所から一歩も動かずに立っていた。
声をかけようそう思った時。
「――っ!!」
リアスはただならない気配を感じ思わず身を隠した。
同時に――。
「誰?」
エスイルの声が聞こえる。
しかし、エスイルではない気がした。
「――――」
返答に答えずにいるとエスイルは誰かと話し始める。
会話の内容は一切聞き取れなかった。
いや、そもそも人が使う言語ではない。
精霊語か?
リアスはそう考えるも誰と話しているか確認することが出来なかった。
いや、逃げる事すら危ないと感じていたのだ。
だからこそ気が付けなかったのだろう。
「――あれぇ……? リアスお兄ちゃん、どうしてここに居るの?」
「――――っ!?」
ぬっと彼の前に顔を見せた少年は目を見開き、だがその瞳に光は無い。
しかし、口元だけは不気味なまでに笑みを浮かべている。
普通ではない。
いや、寧ろこれはエスイルではない。
リアスはそう判断し飛び跳ねるようにその場から動く同時にエスイルも動き――。
「あー避けられた」
先程までリアスが居た場所に短剣を突き立てていた。
エスイルは武器を持っていなかったはずだ。
なのになぜ? 疑問に思うリアスはすぐに答えに行きついた。
その武器に見覚えがあったのだ。
いやむしろ見間違えるはずがない。
エスイルが俺の武器を盗んで殺そうとしてきた!?
なんで、エスイルがそんなことを……いや、誰だ……? 誰だコイツ……。
エスイルではないエスイルの姿をした何か。
偽物なんかではないのは理解出来た。
声も容姿もそっくりに変えるなんて事は不可能だ。
つまり、誰かがエスイルの意志を乗っ取っている。
そんな魔法があるのか? いや、待て確か……確かあの時……。
リアスの脳裏に浮かんだのはメルが捕らわれた時の事だ。
あの時のメルは普通じゃなかった……もし、同じ事が起きているとしたら……。
あれはエスイルじゃない?
ゆらりと揺れるエスイルの瞳は濁っており。
その目は何を捉えているのだろうか? 服装、見た目……そして声。
全部同じだ。
「リアスお兄ちゃん……避けないでよ」
「馬鹿言うな……そんなものに刺されたらただじゃ済まない……」
リアスの言葉を聞いているのか、それとも聞こえていないのか、分からないがエスイルはニヤリと笑い。
「殺せないでしょ?」
そう口にするとケタケタと笑い始めた。
不気味な笑い方でリアスは目の前に居るのがエスイルではないと感じた。
そう……先ほど考えた誰かの意志がエスイルを乗っ取っているというのを信じるしかない。
だが、どんな魔法だ? ましてや乗っ取るだけじゃない。
エスイルの記憶を読み取ってる? それとも俺達の関係を知っているのか?
何の目的で? 俺達が誰かに恨みを買ったのか? それはあるかもしれないが……知ってる奴の中にこんな芸当出来るやつは居ない。
ましてや、なんの意味がある?
エスイルが一人で出かけた所を狙って襲った? いや、そもそも誰かが一人で行動するのを?
駄目だ! 訳が分からない!!
いくら考えようがリアスは理解できずにいた。
そして……。
「まぁいいや……」
ひとしきり不気味な笑い声をあげたエスイルはナイフを片手に持ったまま、歩き始めた。
リアスとは正反対の方向にだ。
「ま、待て! エスイルを何処に連れて行くつもりだ!!」
彼は焦りそんな事を口にしたが、半分以上はカマをかけたのだ。
相手を操る魔法……そんなものが存在するはずがない。
だが、そう決めつけるのは危険だ。
そう判断し口にしたのだが……。
「ほう……少しは頭が回りますか……」
エスイルの声のままそれはそう口にし……ゆっくりと首へとナイフを近づける。
「面倒なので……人質と言う事でその場からゆっくりと後ろへと歩いて行きなさい」
先程とは違う口調でリアスは命令をされた。
だが……彼は――。
「それは出来ないな……エスイルは俺達の仲間だ」
一歩も後ろへと動く気配を見せなかった。




