33話 姉を探して
メル達は姉シュレムを探しに行くために倒れたリアスの護衛を雇おうとした。
しかし、紹介された冒険者は実力不足であり、そう判断したメルは別の人を紹介して欲しいと頼むが酒場の主人は二人以外居ないと言う、そんな時一人の男性……ライノと名乗る男性がメルの声に答えた。
突然の事に驚きつつも、メルは彼に護衛を頼む事にしたのだった。
「シルフ!」
酒場を出てメルはすぐその名を呼ぶ。
その声に答え姿を現したシルフは首を横に振る……
「そんな……」
彼女はそう言いつつも、すぐにそれが当然だ……と気づく。
先程のライノという男性について行かせたようにメルが傍に居れば精霊もその景色や人を判断することが出来る。
それ故に尾行してもらう事も出来、例え目を逸らしたとしてもその前にくっ付いて行けば賢い彼女達はそうそう逸れることは無い。
そして、精霊は例え見えなくとも喜怒哀楽の感情はある程度分かるらしく見張りの真似事は出来るのだ。
だが、逆にメルが見ていない景色は見えない……現在ライノの傍に居るウンディーネも彼が何処に居るかと言うのは大体分っても見る事は出来ないのだ。
つまり、部屋の外に行ってしまったシュレムはシルフ達が見つける事が出来なくても何らおかしくない。
それでも向かわせたのは酒場から出る人を追ってもらえばシュレムの行方が分かるかもしれないと思って思っての事だったが……
『メル……そのね、酒場から誰も出て来てないの』
「……そう、シルフが行った後に酒場から出てないって事はやっぱり、私が探す事を考えて走って行ったんだね……」
シルフの申し訳なさそうな顔を見て間に合わなかった事を実感し、彼女は落胆する。
言葉に気を付けていればシュレムを怒らせずに済んだはずなのに……と……
「行こうか、エスイル……」
治安が悪いって言われてるし……すぐに部屋に戻った方が良いとは思う、でもシュレムが心配だし、私の所為だもん放って置く訳にはいかない。
「うん」
本来ならエスイルも部屋で留守番してもらった方が良いのかもしれない。
しかし、メルはなんか嫌な予感がしてエスイルの手を引き歩く……
『ごめんね、メル……』
「大丈夫、シュレムならきっとすぐに見つかるよ!」
落ち込むシルフにそう告げ――
「シルフ道をしっかり覚えておいてね、帰りに迷っちゃうと大変だから」
いつものようにお願いをした。
夜の街を歩く中、シュレムの姿は見つからない……
もしかして、外に出てしまったのだろうか? 焦りつつもメルは目についた路地へと入っていった。
シュレムと彼女は小さい頃から一緒で姉妹みたいなものだ。
だから、もしかしたらメルが行かないような道の先に隠れてるのかもしれない。
そう思ったから、そこへと入り込んだんだが……
その道の先には思ったより人が多く、何故か女性ばっかりだった。
こんな夜に治安が悪いと言う街で女の人が何でこんな所に? そう首を傾げていると一人の女性がメル達に気が付いて――
「子供がこんな所に来ちゃだめでしょ?」
「へ!?」
メルは女性好きであるシュレムがこの中に居るかもしれないと思っていた所、その女性に目の前に立たれ視界を奪われてしまった。
「迷子? とにかく戻りなさい」
「で、でも……」
女性は同性であるメルから見ても美人で……その美しさに思わず見とれる程だった……
メルはその女性を見て――やっぱりシュレムは此処に居るんじゃないかな? 女の子が大好きだし……と思い女性に遮られた視界の端から覗き込もうとする。
「でも、も、何も無いの!」
――が奥を覗こうとすると何故か視界を塞ぐように動いた女性はそう言うと――
「帰りなさい!!」
怒鳴り声ではないけど、明らかに怒ったような声で帰るように言われてしまった事にメルは困り果て……
「でも、シュレムが……お姉ちゃんが居るかもしれないから……」
……女性へと事情を伝える。
「お姉ちゃん?」
メルが目的を言うと女性は疑問を浮かべ――
「僕達、宿に居て……」
「その、私が怒らせちゃって……どこか行ってしまって、もしかしたらここに居るのかなって……」
しかし、そう言った所で怒っている時にこんな所に来るのだろうか? とメルは思いここには居ないのではないか? という不安を覚えた。
「宿って事は君達は冒険者……って感じではないわね? でもこの街は初めてなの?」
女性の言葉に彼女は頷く、すると何故かため息をついた女性は片手で頭を押さえた。
もしかしたら心当たりがあるのかもしれない、そう期待するメルに告げられたのは――
「良い? ここは普通の女の子や坊やが来る場所じゃないの、勘違いされて買われない内に帰りなさい……それにそのお姉さんというか、今日ここに紛れ込んで来たのは君達だけよ」
「ふ、普通のって……」
と言う言葉でどういう事か聞こうとすると誰かの気配がし、彼女は慌てて振り返る――
そこに居たのは中年の男性だ。
メルと目があった男は驚いた顔をしていて――
「子供とは珍しい……身なりが綺麗だし、紛れ込んだのか?」
とメルの後ろに居る女性へと話しかけた。
「え、ええ……その通りです、その子達はお姉さんを探していたみたいで……」
彼はふむ、っと一言漏らし、メルへ再び目を向け――
「ここは子供の来るような場所じゃない、早く行きなさい」
大勢の女性が居る場所に来た男性……
そして、路地に不自然なまでに居る大勢の女性……メルは一瞬二日前の事を思い出し――
「…………い、行こうエスイル」
「え? う、うん分かったメルお姉ちゃん」
エスイルの腕を掴み歩き出す。
突然腕を引っ張られ驚いたのかエスイルは目を丸くしていたが、メルは無視をし、歩き始める。
ここが何となく何なのか分かってしまったからだ。
それによくよく思い出してみると、以前にクロネコという情報屋に聞いた事もあった……
リラーグにはそう言った場所が無いが、外にはあるから旅をするなら紛れ込まない様にして置けって注意されていたのもだ。
「お嬢さん、もし外から来たのなら助言をしておく」
「……え?」
「この村では外の人間よりも中の人間の方が信用出来ない、そのお姉さんが何処に行ったのか分からないが……仮に信用するならこういった場所の人間の方がまだ温かみがある」
「え? それって……」
メルが彼の方へと向き直ると――彼は奥の方へと歩いて行った……
呆然とする彼女の目の前にはさっきの女性が居て――
「この村では人に聞くより足で探した方が良いって事よ」
と一言だけ残し、彼女も奥へと消えていく……
そうは言われても……と思いつつもメルは言われた通り路地を抜け、歩く――
辺りは暗く、シュレムはもうこの村に居ないのかもしれない。
だが……いくら激怒しても本当にあの姉がメルやエスイルを置いて帰るのかと言う疑問が残る。
いや、それは無い。
一度ついてくると決めたんなら、意地でもついてくる。
メルが知るシュレムという姉はそういう人だ。
「シルフ! お願い皆で村の中を探して……」
『む、無茶だよ、メル!?』
確かに普通なら無茶だ。だが……あくまで普通の探し方ならと言うだけだ。
「ルクスで街を照らすから、私の目で探して――お願い」
幸いメル達が居るのは小さい村だ。
「エスイル、今から飛ぶからしっかり捕まって!」
「え? え?」
やり方は単純だ。
ルクスで明かりを灯し、目で見る。
二つの魔法を同時に操る……それを完璧にこなせる人なんて稀だ――
「我が往く道を照らせ! ルクス」
しかし、メルはユーリの娘でナタリアの孫……
「我らに天かける翼を……エアリアルムーブ!」
三人いた魔法の師匠の内二人には優秀と褒められた実力もある。
なら、なんとかするしかない、そう彼女は意気込み――
「行くよ!」
「う、うわぁぁぁ!?」
――エスイルの身体をしっかりと抱え、空へと飛ぶ。
流石にこれなら村から出てても少しぐらいなら探せるはずだ。
時間的にもそんな遠くには行っていないはず、お願いだから建物の外に居て――!! そう願いながら、彼女は村を見下ろした。
地上に降りた彼女は大分減ってしまった魔力の影響とは別にがっくりと項垂れる。
村中の上を飛び回り、目で探してたもののシルフ達はシュレムの姿を捉える事は無かった……
「シュレムは何処に行ったの……」
一緒に空を飛び回る事になったエスイルも探してくれたと言うのに結局見つからなかった。
そうこうしている内に維持が難しくなって捜索を中断するしかなく、広場に戻ってきたという訳で……
本当に帰ってしまったのか? だが、メルが知るその人はそんな人ではないはずだと彼女は思う――
『メル!!』
メルが項垂れているとシルフの声が響きゆっくりと首を動かすと――
『リアスが、リアスが危ないって! ウンディーネが!!』
「――――ッ!!」
シルフの言葉を聞き私は慌てて立ち上がり、横に居る少年へ声をかける。
「エスイル! 背中に乗って!!」
エスイルも疲れていて手を引っ張って走る訳にはいかない、だが同時に危ないと言うなら残り少ない魔力を使い飛ぶわけにもいかない、そう判断を下したメルは急いで弟にそう告げる。
幸いここは宿屋に近く、メルであれば背負ってでも走れるだろう。
「案内して!!」
彼女はエスイルがしっかり背中にしがみついたのを確認してシルフにいつも通りのお願いをする。
『任せて!』
「エスイル――」
「うん、分かってるしっかり掴まってる」
小さな手に力が入るのを感じつつ、メルはシルフの後を追い夜の村を駆ける。
やっぱり、あの人が何かをしたの? もしそうだとしたらリアスは無抵抗だ……
だが、そうするとメルの中に疑問が残った――何故すぐに襲わなかったのか? シュレムを探してからシルフが焦るまでかなり時間がある。
無抵抗の人間を襲うのにそんなに時間は要らないだろう……そもそも見張りのウンディーネは実際には見る事も止める事も出来ない、しかし、相手も視認することが出来ない。
いや、そもそもそこにメルと通じている精霊が見張っていると考える事が無いだろう――
ましてや、お願いをしてもその要件を忠実にこなしてくれる程、森族と精霊が仲が良いという訳でもないのだ。
召喚をし直接願うか、詠唱をし願えば別だが……同じ瞳を持ち幼い頃から一緒でなければ、メルの様な事はまず出来ないだろう……なら、別の人間か?
「中の人間の方が信用できない……」
確か、少し前に会った男性はそう言ってたはずだ……あの男性が外なのか中なのか分からないが……
……今は急ぐしかない、メルはリアスだけをおいてきた事を後悔しつつ宿への道を急いだ。




