317話 伝承を求めて
メル達は再び情報を求め町へと繰り出す。
しかし、ばらばらに情報を集めたほうが効率的だと考え、連絡手段があるメルとエスイルは別行動に。
するとメルはリアスと二人っきりになってしまい顔を赤らめてしまうのだった。
酒場に着いたメル達は早速、聞き込みをしようと店主の元へと近づく。
「あら、いらっしゃい」
柔らかい笑みを浮かべた女性の店主はメル達へとそう声をかけ。
「可愛らしいお客さんだね、お酒?」
と聞かれたメルは慌てて両手を前に出す。
「お、お酒じゃなくて……」
まだ幼いとはいえ、酒を飲むことはできる。
だが、メルはどうしても酒の味が好きになれなかった。
すると店主はメル達二人の格好を見てピンと来たのだろう……。
「依頼か! ええと……外の人間にも出せるのは……」
「いや、依頼でもないんだ……」
今度はリアスがそう答えると彼女はいよいよ首を傾げ……。
「食事……かな?」
と聞いてくる。
「じょ、情報と飲み物をお願いします」
「情報? 分かった……それで飲み物は何にするのかな」
情報と言われ、うんうんと頷いた女性はメル達をカウンターへと座るように促す。
「えっと……冷たいのを適当に二つ、お酒以外で」
メルがそう言うと品書きに懐かしい物を見つけた。
「あと、このもちもちを二つ!」
「た、食べるのか?」
もちもちと聞いて一応は食べ物だと判断したのだろう、リアスは先程食事をしたばかりだというのを訴えるような目でメルを見る。
すると、メルは顔を赤くし、机へと視線を降ろしながら……。
「お、美味しいんだよ?」
としたからリアスを見上げるように見る。
微かに揺れる尻尾の音がまだ人の少ない酒場の中に聞こえた。
そんなメルの仕草を見たからだろうか、リアスは何か慌てるように視線をずらし……。
「ま、まぁ……メルが言うんだからおいしいんだろうな……店主さん、俺もそれで頼む」
「はいはい、初々しいね」
店主は二人のやり取りが可愛らしいと思ったのだろう、笑みをより一層深め、冷たい飲み物を持ってくると白く丸い物を網で焼き始めた。
「それで情報ってのは?」
作業をしながらも話は聞いてくれるのだろう、店主は網から目を離さずにメル達に尋ねる。
「あ、ええっと……この辺りで昔からの伝承とかってありますか?」
いや、正しくはある……と言い切れる。
メルはそう思ったが、まずはその伝承を知っている人を探さなければならない。
「伝承?」
「例えば、昔からの守り神とか……そういうのだ」
リアスが付け足すと彼女は考えるそぶりを見せ……。
「そう言えば……ばっちゃんが居た時、ずっとそんな事を言ってたような気がするな……」
「ばっちゃん?」
メルが訪ねると彼女は何処か懐かしそうに……寂しそうに笑い。
「ああ、このもちもちの作り方を教えてくれたばっちゃんだよ。もうこの街には居ないんだ」
その言葉からメルはミケの思い出し目頭が熱くなる。
「そう、ですか……ごめんなさい」
メルが謝ると店主は慌てたように首を振る。
「いや、違う違う。家族で街を出て行っただけできっとどこかで元気にやってるはずだと思うよ」
笑みを浮かべてそういう彼女を見て内心ほっとしたメルはすぐに勝手に不幸な事があったんだと考えたのを悔やむ。
やはり、大好きだった彼女の故郷だからだろう。
「しかし、元気か気になるよ……」
「そうですよね」
ミケお婆ちゃんはいつも元気だったけど……。
メルが知るその老人は沢山の家族に囲まれて笑みを浮かべたまま亡くなった。
しかし、彼女が何度も口にしたことがあったのだ。
最後にもう一度だけで良いから故郷が見たいと……。
それはどうやっても叶える事が出来ない事だった。
それでもミケは最後には幸せだったと口にし息を引き取ったのをメルは覚えている。
「そうそう、それでそのミケばぁ……ああ、これの作り方を教えてくれた人なんだけどね」
「あ、はい! ……はい!?」
メルは聞き覚えのある名前に疑問を浮かべ思わず変な声を上げる。
「どうしたんだ?」
「ああ、うん……何でもない」
顔を見られたわけじゃなく、メルの変化はリアスにだけ分かったようだ。
気にした様子もなく店主は話を続ける。
「その人が言う事には昔この地には大地の精霊を統べる者がいたらしいよ。でも……それが本当かどうかは森族じゃない私には分からない」
「…………それで、その神様の様な精霊は何処に祀ってあるんだ?」
リアスが訪ねると彼女は顔を上げ首をゆっくりと左右に振る。
「ミケばぁの話だと戦争中に双方の攻撃で崩れた場所にあったって……でも祀るって言ったって大層な物じゃないって言ってたよ」
「大層な物じゃない?」
メルが耳を傾けると彼女は頷き……。
「何か、大きなスコップ? 柄の無い使えないものが祀ってあるって……」
「「スコップ?」」
声をそろえて疑問を浮かべる二人、そして柄の無いという情報から想像し……。
「「……あ、ああ……」」
再び声をそろえた。
柄の無いスコップ、見た目だけなら盾のようにも見える。
だが、そうではないという事は確かに土を掘る道具だったのだろう……そして、土掘るという事は何かを植えるためと言えるかもしれない……そうドリアードを連想させたのだ。
「メル、間違いなさそうだな?」
「うん、多分それだよ……」
二人がそう言うと首を傾げつつ店主はたっぷりと蜜が掛かったもちもちを二人の前に置くのだった。




