310話 孤児院
メルとリアスはたがいに見つめあい、そして口づけを交わす。
思わずしてしまったその時、エスイルの声が聞こえ、二人は驚いてしまった。
少年は見ていないと口にするが……。
メルとリアスは気恥ずかしさといつかライノが言い出すのでは? と心配しつつ前へと進む。
しかし、彼が夜の事を言う事は無く、また魔物の数も少なく、彼女達は順調に孤児院へと近づいて行く……。
そして……。
「あれが孤児院……かな?」
目の前に見えてきたのはなんと言ったら良いのだろう? ボロボロの家。
いや、言えと言っていいのだろうか?
壁は隙間だらけ、屋根にも隙間がちらほらと見え、本当に人が住んでいるのだろうか?
そんな疑問を浮かべる場所だった。
だが、メル達の疑問に答えるかのように中から現れたのは小さな子供達。
彼らは家から出るなり外を走り始めた。
「どうやらゴブリンはまだ来てない様だな」
リアスは辺りを確認し、そう呟くと近くにあった林の方へと目を向けた。
「隠れるならあそこが良い、警戒しておかないとな」
「そうだね……僕もそう思う!」
リアスの判断にエスイルも頷く……勿論メルも同意見だ。
「……確かに、他の土地より豊かそうね?」
そして、ライノは周りを確認し、しゃがみ込むと草を手に取った。
「これ、薬草の一種よ、枯れた土地にはまず生えないわ」
「じゃ、此処に精霊の道具があるって訳か!」
シュレムは意気込むと孤児院の方へと歩き出し、メル達も慌てて追いかける。
すると当然子供達は近づいて来るメル達に気が付き……。
「だ、だれ?」
警戒している様だ。
それもそうだろう、突然武器を持った数人が近づいて来るのだから怖いに決まってる。
メルはそう考え、笑みを浮かべると……同時に……。
「エルフの道具をよこ――」
「シュレム!?」
要らぬ言葉が出てきた事に慌てメルはシュレムの口をふさぐ。
「馬鹿余計な事を言うな!?」
リアスもメルと同じ考えだったのだろうシュレムをたしなめると彼女はリアスを睨み。
「この方が早いだろ?」
「そもそもここにあって孤児院の持ち物かなんて分からないよ!?」
メルは小声でシュレムにそう伝えると、彼女は数秒固まった後……。
「あ、ああ! そうか、そうだな! 流石メル俺の嫁だ!」
と納得するのだった。
いつも通りの彼女の言葉に一同は乾いた笑いを発する。
すると、子供たちは怖い人達だとは思わなくなったのだろう……。
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんのお嫁さんなの?」
と素朴な疑問を浮かべメルは慌ててそれを否定するように首を振る。
「ち、違うよ!? この人は私のお姉ちゃんみたいな人」
「――なっ!?」
「ちがうの?」
ショックを受けるシュレムとは別に可愛らしく小首を傾げる少年少女達。
「それよりもここの管理者さんって何処かな? 私達ちょっとお話がしたくて来たんだけど……」
「シスター?」
しかし、管理者の事を尋ねると途端に表情を曇らせ……。
「えっと、シスターに何の用?」
「やっぱり悪いこと考えてるの?」
と不安がる。
そんな子供たちに対し、年の近いエスイルは……。
「違うよ! メルお姉ちゃんはただ話を聞きに来ただけなんだ。それに……伝えておかなきゃいけない事もある!」
そう口にした。
エスイルは敢えて言葉には出さなかったが、伝える事とはゴブリンの事で……。
それを唯一疑問に思った女性は……。
「伝える事? ……ああ! そうかゴ――」
「「|ちょ!? シュレムちゃん!?《馬鹿!? シュレム!!》」」
その魔物の名前を口に出す寸前でリアスとライノに止められ、口をふさがれた彼女はもごもごという音を発する。
「あはは……」
メルは二人が止めてくれたことに安堵しつつも乾いた笑い声を上げ……すぐに子供達に向き直るとゆっくりと尻尾を揺らした。
「そのシスターって人と会うのお願いできないかな?」
子供達は互いに目を合わせ暫く考えた後。
「お姉ちゃんたちはきっと悪い人じゃないだろうけど……」
「もしそうだとしたら、何をしようと無駄だからね!」
メルは男の子二人がそう言うのを見て、小さな騎士のようだと思い、二人の頭を撫でる。
「分かった、でも大丈夫だから……ね?」
メルに頭を撫でられた二人の少年は頬を赤らめつつ、家の中へと入っていく……そして――。
「シスター! お、お客さんだよ!」
と家の中から声が聞こえると其処から出てきたのは細目の若い女性。
彼女はメル達を見つけるとゆっくりと近づいて来て……。
「あらこんな所にお客さんだなんて珍しい」
「こ、こんにちは……」
シスターと言う名前の通り、彼女は法衣を身に着けている。
何処かの神様を信仰でもしているのだろうか?
うん……これはきっとあの男の子達このシスターの事大好きなんだね。
メルはそんな事をぼんやり考えていると……。
「例え子供相手であっても、私達をここから追い出したいというのでしたら、五体満足で帰らせませんよ、四肢一本ずつもいで差し上げます」
「「「「「………………………………………………………………はい?」」」」」
メル達五人は奇跡とも言っても良いだろう、その息はぴったりであり、目の前の清楚な雰囲気を纏う女性の口から出た言葉に疑問を浮かべる。
「あら? その耳は飾りでしたかしら? そんな物千切り取ってしまえば良いのに……聞こえなかったのでしたら特別にもう一度、肉塊にして魔物の餌にしますわよ?」
「ちょ!? お嬢さん? さっきより酷くなってないかしら?」
ライノは引きつった顔のまま女性に尋ねると女性は細い目を開き、まるで……いや完全に見下すような顔でライノに向かい。
「気持ち悪い言葉遣いですわね、貴方……男なのに女になりたいの? ああ、気分が悪くなってきました」
その言葉を聞くなり、ライノはぴしりと固まり、額はぴくぴくとしはじめた。
それを見てメルはマズイと思ったのだろう慌てて彼へとしがみつくのだが……。
「……おい、お前……人の事馬鹿にしてんじゃねぇぞ?」
悲しくもメルの必死の行動は無駄に終わり、ライノの口調は変わる。
「誰が女だ!! アタシは男だよ! この格好も言葉遣いも好きだからしているに過ぎないんだよ!!」
「ますます、気持ち悪い……」
吐き気を催すような仕草にライノはますます怒ったのだろう、彼女へと近づく。
「ぁああ!?」
「ラ、ライノさん落ち着いて!?」
それでもメルは必死に止めようとし、この場をどうにかしなくては……と考えた彼女は……。
「ゴ、ゴゴゴブリン! ゴブリンがもしかしたらここに来るかもしれないんです! えと聞きたい事もあって来たんですけど……まずはそっちの方のお話を!!」
シスターの警戒をまず解かなくては……そう判断したメルは子供達の前で魔物の名前を叫ぶのは気が引けたのだが、そうも言っていられず言葉にする。
すると……。
「……ゴブリン?」
シスターは再び瞼を閉じ、暫く考えた後……。
「あら、私ったら……ごめんなさい、勘違いをしてたみたいだわ……貴方の方もごめんなさい、言葉使いも格好もとてもすてきよ?」
と手のひらを返すのだった。




