307話 エルフへの疑問
ゴブリンに対しメルの攻撃は空を切る。
当たらないわけではなく、わざとそうしたのだ。
疑問に思う仲間たちにそう伝え、自分へと攻撃が集まるように仕向けたメルは……。
母ユーリから受け継いだ合成魔法を使いゴブリンを一掃する。
しかし、その後は無茶をしたことで怒られてしまうのだった。
「……あの、皆……」
怒られる。
そう思いつつメルはおずおずと手を上げる。
だが、彼女の方を見ている今しかないのだ……もし振り返って荷車を見られてしまえばすぐにばれてしまう。
「どうしたの?」
「その……肥やしが……」
申し訳なさそうにメルは耳と尻尾を丸めて指をさす。
「へ? うわぁ!? も、燃えて!?」
肥やしは勢い良く燃えており……。
メルは仲間達からの視線にさらに身を縮ませる。
「はぁ、行きましょう」
「はい……」
しゅんとしつつメルは立ち上がると仲間たちの後をついていく……。
それからしばらくしメル達がゴブリンと対峙した場所から少し離れた場所。
ふと、リアスは足を止めた。
「どうしたの?」
無茶と肥やしの件で怒られたからだろう、少し涙目のメルはリアスへと問う。
すると彼は首を傾げ……。
「妙だと思わないか?」
「何がだよ?」
彼の質問にシュレムは怪訝な表情を浮かべた。
事実メルもなにが妙なのか分からなかったのだ。
「ゴブリンの事?」
唯一思い浮かんだのはそれだけだったが、リアスはゆっくりと首を振る。
「いや、メルの剣も俺の剣もエルフの道具……それに、これから向かう先にもきっとあるはずだ」
「う、うん……」
急に何を言っているのだろうか? メルは疑問に思いつつ頷くと……。
「そ、そうか! 確かお母さんが……」
だが、リアスの疑問に気が付いたエスイルは声を上げ、メルは弟の方へと目を向けると。
「何か分かるの?」
「道具は里の外に滅多に出る事は無いって言ってた!」
確かに彼の母クルムはそう言っていた。
だが……。
「アクアリムはうちの家宝みたいだし昔に渡されたんじゃ? それに……あれ? でもなんでリアスの剣は……」
そう、リアスはエルフと出会ったとは言っていた。
そして剣を託されたとも……。
だが、それならば何故クルムは里から道具はあまり持ち出されないなどと言ったのだろうか?
もしかするとクルムさんが知らない道具? アクアリムに関しては昔ご先祖様が貰ったみたいだし……知らなくてもおかしくはない。
だとすると、他にもアクアリムみたいに授けた道具がある?
ううん、そうだったらなんでリアスの武器はエルフから?
もしかして……エルフが直接管理してる道具があってそれを……。
「メルちゃん?」
「ううん……えっと、分からない、分からないけど……精霊である以上エルフは嘘をつけないはず……だからきっと、この大陸のどこかには道具はある」
メルがそう言うとリアスは頷き……。
「ああ、それは分かってる。だけど……なんか妙じゃないか? 何故精霊そのものを強める道具を隠してた? それを使えば戦争の時も……」
「…………え?」
リアスの言わんとしている事、その事に気が付いたメルはふと考える。
確かに妙だ。
精霊は強くなれる、なら戦争でもその力は発揮できたはずだ。
なのに、それを使わなかった理由はあるのだろうか?
「……それはなんでだろう?」
考えても分からない事だった。
だが、はっきりしている事は一つある。
「今は何かを考えるより、先に進んだ方が良いと思うの」
そう、行動に起こさないままでは何も分からないという事だ。
「あ、ああ……それは分かってる」
リアスは頷き答えると、すぐに考えるそぶりを見せ……。
「それでも、気になるんだ」
と不安そうな顔を浮かべる。
確かに彼の不安も分かる、だがそれで足を止めている訳にはいかないというのも事実だ。
対策は考えた、しかしリアスがここまで心配した事があっただろうか?
「リアス?」
「エルフは何がしたい? メルは精霊が嘘をつかないと言っているよな? それは分かる、シルフ達には随分と助けられたしな。だけど、エルフもそうだとは限らないんじゃないか?」
「どういう事だよ? メルが嘘を言ってるって言ってるのか!?」
シュレムはメルの言葉を否定された事に起こったのだろう、眉を吊り上げる。
しかし、リアスはその言葉には首を振り……。
「そうじゃない、メルの事は信頼してる。だけど、俺達は本当にエルフの事を知ってるって言えるのか?」
「エルフの事? それは知ってるわ豊穣の精霊よね、それに会うことが出来れば幸福になれるとも言われてるわ」
メルはライノの言葉にうんうんと頷く……しかし、ふと思い出す。
この世界を作った者の事だ……エルフがこの世界の精霊達の親であり、そして彼女達が山や森、川や海……空を作ったという話はよく祖母から聞いていた。
その伝説に出てくる大空を作ったとされる龍がアルリードラゴン……つまり、デゼルトだと……。
「…………」
その話からエルフは凄い精霊だって小さい頃から思ってた。
だけど、なんだろう? 何か引っかかる……確かその話を聞いてユーリママが言ってた事があるはず……。
ママは何て言ってたのかな?
メルはそれを必死に思い出そうとする……すると、その言葉は鮮明に蘇って来た。
『まるで神様だよね……エルフがこの世界の神様みたいだ』
「神……様?」
メルが呟いた言葉、それに一行は黙り込む。
「神って……よく物語に出てくる人よね? 世界を作り、見守ってくれているはずの……」
「神ってそんな事をしてるのか!?」
ライノの言葉に驚きの声をあげたのはシュレムだ。
そんな彼女に対しエスイルは呆れた顔で……。
「シュレムお姉ちゃん流石に冗談だよね?」
乾いた笑い声を上げる。
だが……リアスだけは真剣な表情で……。
「いや、メルの言っている通り神なのか……エルフは自分達で世界を作り、世界を壊そうとしてる。そして、もう片方のエルフが言っているのが本当だとしたら……片方はまだ人間を信じてるって事か……」
「……多分そうだと思う……だからきっと、精霊とは違う存在……もしかしたら嘘をつくのかもしれない」
メルが感じていた安心感、それはエルフが精霊であれば嘘が付けないという物だ。
だが、精霊ではなく神であれば嘘をつくことは可能かもしれない。
そんな不安が彼女の中に過ぎったのだった……。




