306話 ゴブリンの大群
孤児院へと向かうメル達。
しかし、目の前にはゴブリンたちが居た。
知識があり、賢い魔物である彼らが目立つ場所にいるのは陽動のためではないか?
メルはそう考え、まずは目の前のゴブリンたちを倒すことを考えるのだった。
いくら距離があるとはいえ、メルの攻撃が外れた。
仲間達から見ればそう思えただろう……。
だが、メルはそれで良いと思っていた。
いやむしろ、わざと外したのだ。
距離、速度……そして、相手の俊敏さ、それらを考えて放った一撃は彼女の思惑通り空を切った。
まずはうまくいったみたい……何度か外さないと! 相手は警戒して逃げちゃう!
そう、彼女がわざと外した理由……。
ゴブリンは賢い魔物だ。
だからこそ、危険な戦いは避けようと動く、もし、距離が離れている現状で勝てないと判断したら逃げていくだろう。
陽動であればなおさら無理に勝つ必要なんてないのだから……。
「メル……どうした?」
だが、そんなメルを見て心配そうにリアスが声をかける。
メルは尻尾を揺らし笑みを浮かべると……自身の考えを彼を始め仲間達に伝える。
すると……。
「わざとか……? 難しいな……」
「ううん、皆はゴブリンが私に向かって来るようにして? 私が足手まといだって思われるように……」
メルがそう言うとリアスとシュレムは頷き、それぞれ反対の方向へと走っていく……。
エスイルも精霊を呼び出すと願いを告げ、ゴブリンの数を減らし、ライノは薬を撒き散らし、近寄って来たゴブリンの対処をする。
だが、メルだけは……。
「っ!?」
まるで剣に振られているように振る舞ったり。
水の刃を放つもわざと当たらない様にする。
何故そこまで執拗にそうしたのか?
理由は簡単だった……。
『ギギ! ギィィィィ!!』
『アギ! アギギィ!!』
ゴブリン達は騒ぎだすとメルを狙う様に走り出す。
そう……メルの目的は――。
エスイルはともかくシュレムもリアスもあんな沢山の魔物を一度に倒す術はない。
それがあるとしたら……。
「……っ! 焔の風よ狂い吹け、我が敵を焼き払え……」
メルは魔法を詠唱し……。
「フレイム……ストーム!!」
その名を口にする。
普通の魔法とは違う三つの魔法を同時に使い更にはそれを維持する……強力な物であり、現在使えるのメルとユーリの二人だけ……。
以前リアスにも注意され、使う事を躊躇ってはいたが数を倒すのであればこれの方が良いだろうと考えたのだ。
メルが魔法を唱えると魔力が減る感覚を感じ、更には合成魔法を使った代償として体力までも奪われていく……。
だが、倒れる訳にはいかない。
そんな強い意志を持ち、メルは魔法を維持する。
勿論仲間達に被害が出てはダメだ……魔法はただ使うのではなく細心の注意が必要だ。
「……っ!!」
恐らくは疲れからだろう、がくりとする身体を支え尻尾を大きく一回振るった彼女は再び魔物が居るであろう場所を睨む。
そして……。
もう……限界……。
これ以上使っては倒れてしまう。
そう考えた彼女は魔法を解除したが、ぐらりと身体が揺れ……。
「メル!!」
いつの間にか駆けつけてくれていたリアスによってその身体を支えられた。
「ゴブリンは?」
だが、自分の体の事よりも武装していたゴブリンの方が気になったのだろう……リアスに尋ねる。
すると彼は……。
「今の魔法で全滅した……だけど、いくらなんでも無茶をし過ぎだ」
その表情は怒りを隠すことなく、メルは思わず視線を明後日の方へと向けた。
「全くだ! 人には無茶をするなって言うくせに合成魔法なんて……!!」
するとその明後日の方向からシュレムに嗜められ視線をずらすと今度はエスイルが眉を吊り上げている。
無言の弟に何故か母達の影を見たメルは更に視線をずらす。
すると……。
「メルちゃん?」
何時も特徴が違うライノがそこに居り……。
に、逃げ場がない……。
メルはその事に気が付くと引きつった笑みを浮かべ……。
「ご、ごめんなさい……」
謝罪の言葉を告げるのだが、仲間達はどうも許してはくれないみたいだ。
じりじりと寄ってくる他の三人へとメルは顔を向けつつ……。
「えと、その、皆が居たから出来たことだし……その、えっとだから……絶対に無茶とか危ない事じゃ――」
「……メル」
三人の足音に怯える少女は言い訳を始め……それに対し溜息を一つ付いた少年は彼女の名前を呼ぶ。
少女は少年に助けを求めるように瞳を潤ませるが……。
「そんな顔したって駄目だ……」
「ぁぅ……だから、ごめんなさいって――!?」
少女の悲鳴にも似た謝罪の言葉は草原に虚しく響いて行く……だが、仲間達はそれでも彼女を許すつもりはなさそうだ。
暫くし……。
「ごめんなさい……もうしません」
地面へと正座をさせられたメルは縮こまりながら、仲間達へと謝罪の言葉を繰り返す。
「あのね、メルちゃんは一度死にかけてるの! もうしません、なんて今更遅すぎるのよ?」
「そうだな、あの時はもう目が覚めないんじゃないかって心配だったんだぞ!!」
「あの時だけじゃない、他の時も無茶ばっかりしてるんだからな」
「メルお姉ちゃん……皆には無茶するなって言うのに!」
仲間達の訴えにメルはますます身を縮こませる。
だが、彼らは同時に溜息をつくと――。
「まぁ、これ以上ここで言っても仕方がない、メルの言う通りなら先に進まないと孤児院の方が心配だ」
「そうね、そうしましょう」
リアスとライノの言葉にシュレムとエスイルは頷き、メルはようやく終わりを見せたお説教の時間に気付いたのだろう……。
「そ、そうだよ! 早く行かな――ひぅ!?」
顔を上げ、仲間達の方へと向くのだが、彼らがまだ怒っているという事に気が付き、変な悲鳴を上げてしまうのだった。




