301話 情報を集めよう
かつてメルの母、ユーリがタリムへと向け旅立ったあの日。
そのことを夢に見た少女は静かな決意をする。
そう……それはこれからの運命を変えていくものだった。
メルが決意を固めてからも一行は精霊の道具に関する情報を集めた。
しかし、どうしても孤児院以外には情報らしき情報が無く……。
諦めかけていたその時。
「そういや、最近孤児院とそう、離れた場所じゃないんだが……」
偶々食事を取ろうとしたお店の店主に何げなく聞いてみた所、彼は顎に蓄えた髭をいじりながら口にする。
「何か知ってるのか?」
リアスは食い気味に尋ねると手に持っていた器の中身を落としそうになり、慌てて器を持ち直し、机へと置く。
そんな彼の様子を心配そうに見ていたメルは食事を落とさなかった事にホッと息をついた後、尻尾を揺らし彼の方へと向いた。
「何かあったんですか?」
「ああ、最近ある洞窟でカノンドが取れるようになったらしい」
カノンド……それは薬草の一種であり、かつてメルが解毒剤の為に取りに行った薬草だ。
確かにカノンドであればドリアードの住処になっており、精霊の加護を受けた道具があるかもしれない。
そう思ったメルだったが、首を傾げ……。
「でも本当にカノンドなんですか?」
と尋ねる。
それに続く様に言葉を続けるのは薬師であるライノだ。
「そうね、本当にそうなのかまだ分からないわ……カノンドは確かに優れた薬草よ、だけど……」
「分ってるイラニウムだろ?」
ライノの言葉に頷き、答える店主。
彼はその危険について知っていた様だ。
そう、カノンドという薬草は綺麗な水、そして暗い場所と言った所で見つかる。
しかし、同じような場所にはイラニウムという毒草が生えているのだ。
見た目では判断しずらい薬草なのだが、イラニウムは光に弱くルクス等の魔法で照らすとすぐに枯れてしまう。
そして、精霊達の住処にはならず……その毒性故動物達でさえ近づかないのだ。
「じゃぁ……」
だが、そのイラニウムの事を知る店主にメルは何かを訪ねようとした。
すると……。
「ああ、森族や魔族の力を借りて、それがイラニウムではないって事は分かった」
「そうですか」
メルはそれを聞き安堵の溜息をつき、スープへと口を付ける。
銀貨一枚もしないそのスープは安い値段の割には味がしっかりしており、疲れた身体に染み渡った。
もし、イラニウムだったら駆除しないと危ない所だったよ……。
でも、本当にカノンドなら……。
メルはそう考え、隣にいるナタリアへと目を向ける。
「行ってみる価値はありそうだな?」
彼女はメルの視線の意味に気が付いたのだろう、そう口にしメルは彼女の言葉に頷いた。
「だが、私はここまでだ……そろそろ、向こうの準備も終わっている頃だろう、一度リラーグへ戻ってシュレムの様子を聞いて来よう」
「うん、お願いナタリア」
祖母と一緒に旅が出来ないのは寂しいとメルは思ったが、それが約束だったのだから仕方がない。
少しでも一緒に旅が出来たことを喜び、メルは祖母に笑みを向けた。
メル達は食事を終え、港へと向かう。
目的は勿論祖母ナタリアが言った通り、彼女にシュレムの事を見て来てもらうためだ。
「転移門を作るなんてすごいな……でも、そんなものを勝手に作って大丈夫なのか?」
必要とはいえ、勝手に作ってしまった事が気がかりだったのだろう、リアスは遠慮がちに口にする。
「大丈夫だ、私が居なければ使えない門にしてある、それに繋いでいる場所も私達の屋敷だからな」
屋敷……というと酒場の事でもあるのだが、ナタリアが居なければ使えない門であればさほど問題はないだろう。
そう思っていたメルだったが……。
「いや、門兵達も驚くだろ? それに、ちゃんとした入り方じゃ……」
無い、そう言いたいのだろうリアスは口ごもる。
メルも確かにそうだと思い始め……。
「だ、大丈夫かな?」
と疑問を持ち始めた。
すると不安は伝染しエスイルもおろおろとし始め……。
「あのな、私が門を作る時に許可を得ないとでも思うか? もうすでに兵には伝えてある。王も知っている何か問題があるか?」
若干不機嫌になったナタリアはリアスを睨む。
そして、立ち止まりメルへと視線を送り溜息をついた。
「メルもそんなに私は信用無いか?」
「そ、そんな訳ないよ! ただ……リアスが言った事もそうだなって……思っただけで……」
次第に小さくなっていく声を発するメルに悲しそうな瞳を向けるナタリア。
メルはそんな視線を受けると更にもごもごとし始めた。
ぅぅ……ナタリアが悲しんじゃった……悪いことしちゃったよ……。
「で、でもナタリアの事は信じてるよ?」
咄嗟に浮かんだ言葉は声に出され若干うわずってしまったものの、ナタリアは満足気に頷いた。
「なんだか、メルちゃんが妹ちゃんを気遣っているみたいにも見える光景ね……?」
ライノの感想はナタリアが若いからだろうが……メルは彼に対し……。
「ナタリアは背が高いし、妹ってよりは姉なんじゃ?」
困ったように笑うメルは否定をしない。
何故なら度々そう言う事があったからだ。
「……こほん、では行くぞ?」
ナタリアは咳ばらいを一つすると、再び歩き始め……。
「あ……そっちは!」
「ナタリアさん! 港はこっちだよ!?」
歩き始める方向は全く違った方であり、ナタリアはその白い肌を赤く染め……リアス達が指を向ける方向へとすたすたと歩き始めた。




