300話 母の決意、娘の決意
城へと戻る途中、孤児院をどうにかできないか……。
そう考え、メルはナタリアにバルドに手を貸してもらえないかを問う。
しかし、ナタリアから帰ってきた答えは彼女の求めるものではなかった。
その日の食事は豪勢だった。
だが、それにもかかわらずメルはその味を覚えていない。
それどころか、ベッドの柔らかさも、自分がいつ寝たのかも覚えていないのだ。
「…………」
いや、もしかして今起きているのだろうか?
少女はそんな事を考えつつも、耳と尻尾を揺らす。
だが、そんな時……ふと違和感に気が付いた。
いつも通りのはずがいつも通りじゃない。
懐かしいその場所は暖かく、眠りを誘う。
暫くたったころだろうか?
「フィーから、先に話して」
母ユーリのそんな声が聞こえたのだ。
「う、うん……そのね? メルのことなんだけど……その一人は、ね?」
メルはそれが夢であり、懐かしい記憶である事に気が付いた。
「シアさん達がいてもやっぱり心配だよね……」
それは母の旅立ちの前の会話。
母ユーリは事前での戦いで怪我を負いメルは母が戦う事無い、行く理由がない。
そう訴えた。
だが、それでも母は立ち向かった……。
旅立ってしまう、そう分って彼女は一人布団の中で声を殺し泣いていた。
「ユ、ユーリ? え、えっとそうじゃなくて、いやその……そうなんだけど……」
「大丈夫落ち着いて、僕も丁度その話をしようとしてたんだ」
その話は今すぐ飛び出して駄目だと言いたかった。
だが、母の意志を変える事は出来ない……。
「そうなの? で、でも……ユーリは大丈夫なの?」
「……不安だよ、今までずっと一緒にいたんだから……」
何故なら、母は言ったからだ。
メル達、家族を守るのは自分の役目……他の誰かではないと……。
「うん……それは私もだよ? だけど、ね……」
「分ってる、だから……もし、旅に出ることになってもここを守ってほしいんだ……帰ってくる場所をシアさんやデゼルト達と一緒に」
だからこそ、メルは歯を食いしばり鳴き声をもらさない様に布団を濡らす。
大丈夫だ、きっと帰って来る……そう信じる事で不安でいっぱいな自分の心を抑え込んでいた。
母達の話は終わり、布団に潜り込んでくる音が聞こえた。
すると母フィーナに抱かれ……。
「大丈夫だよ? ユーリは強いから……」
小さな声で囁かれた……いつもなら安心を得る言葉。
しかし、傷だらけで倒れていた母の姿を思い出すと不安はぬぐえなかった。
メルは真夜中にふと目を覚ます。
「………………」
懐かしい夢……。
でも、あの時ユーリママは……冒険者だからタリムの王を倒しに行ったんじゃないんだ。
私達の為に……自分しかソティルを従えられないから……。
メルは自身の腕にある冒険者の証を見下ろし……考える。
私はただママ達に憧れて冒険者になりたかった。
でも、冒険者になったら以来の毎日で他の事は何も出来ない……そう思ってた。
それでも、ママ達は……自分たちのやりたい事をやってたんだ。
「…………私は――」
皆を……精霊だけじゃないママ達も皆も助けたい。
エルフに言われたからじゃなくて……私自身がそうしたい。
それは冒険者になったらできない事じゃないんだ。
私は……!
「自分の意志で皆を助けるんだ」
少女は決意を固め、窓の傍へと寄る。
その瞳には昼間の迷いなど吹っ切れた様に光が差し……メルは……月を見上げた。
翌日。
メル達は目を覚ますと早速酒場へと向かう。
王シュタークから情報を得たとはいえ、まだ知りえぬ情報がある可能性があるからだ。
「それで、そう言った場所はないか、知りたいんです」
メルは自分に出来る事はしよう、そう思いつつ酒場の店主へと質問を告げる。
すると店主は困った様な表情を浮かべ……。
「悪いな、例の孤児院以外は俺は知らない……」
「そうか、なら情報が入ったら王城に届けてもらえないか?」
メルを気遣っているのだろうリアスがそう願うと店主は口元をほころばせ。
「ああ、勿論だよ……小さな冒険者さん達の為だ」
酒場を後にしたメル達は他にも情報が無いかを調べ回った。
だが、その何処でもこれといった情報はなく……。
「本当に孤児院ぐらいしかないのかしら?」
ライノは深いため息をつく。
しかし、メルは……。
「大丈夫、まだ絶対って決まった訳じゃないから!」
ふぅと息をつくと、再び歩き始めた。
「メル? どうしたんだ? 昨日は……」
そんな彼女の様子が昨日とは違う事に気が付いたのだろうナタリアは彼女に尋ねる。
「私は……私が出来る事をするの、ただそれだけだよ」
メルはその問いに対し笑みを浮かべて答えた。
自分に出来る事、それを教えてくれたのはエルフだ。
精霊を救い、世界を救う……そんな事が出来るとは思ってはいなかった。
だが、メルは尻尾を揺らし前へと進む。
今は……今はただ、彼女は彼女に出来る事をする。
その確かな決意は……仲間達にも伝わったのだろう。
彼女の後を仲間達はついてくる……メルの目の前には精霊アリアが道案内をしてくれている。
シレーヌはメルの形に座り、彼女の方へと目を向けると安堵の笑みを浮かべていた。
そうだ、私は一人じゃないんだから、だから……皆で力を合わせれば、孤児院に加護を受けた道具があってもなんとかなるはず!
小さな少女は口元に笑みを浮かべ真っ直ぐと前を見据えて……歩くのだった。




