299話 城へと戻ろう
王に今日は休むように言われたメル達。
彼女たちはその申し出を受けることにし、ナタリアを迎えに行くことにした。
そして、メルは孤児院が関係するのであれば、バルドの手を借りられるのではと淡い期待もあったのだが……。
その後ナタリアは案内してくれた男性に改めて礼を告げた後、何食わぬ顔で城へと入っていく……。
メル達は慌てて追いかけるのだが当の本人は本当に何も思ってないみたいだ。
「ナ、ナタリア……良いの? あの人」
メルはそう尋ねるもナタリアは振り返ると……。
「良い、私は誰かと添い遂げる気は無い。かわいい孫も居る事だしな、現状に満足している」
そう言われると嬉しいけど……ってナタリア、一応好意には気が付いてたんだ。
そう考えたメルに対しナタリアは訝し気な表情を向け。
「メル……私は無垢な娘ではないぞ?」
「こ、心を読んだの?」
まさか今考えていた事を知られたのだろうか?
メルは警戒するもナタリアは首を振り……。
「お前達全員でそんな顔をすれば分かる」
「へ?」
メルは振り返ると其処にはリアスもライノも……そしてエスイルさえも、驚いた顔を浮かべており……。
「俺は顔には出ないって言われたんだけどな……」
「ほう、メルが私の孫だと言った時、あの男が驚いた顔を見て表情が一瞬変わったぞ?」
たったの一瞬それを見逃さなかったナタリアは胸を張り誇る。
少しだけ膨らんでいる胸を主張するその姿を見て、メルは母ユーリを思い出し……ふと自身の胸へと視線を降ろす。
「…………はぁ」
「メル……私は今何故だか無性にユーリの胸を抉りたくなったぞ?」
「へ!?」
ナタリアの言葉にメルは跳ねるように視線を上げ驚く。
しかし、その理由を察し……。
「えっと、今のはいくらなんでも理不尽、だと思うよ?」
そう言って乾いた笑い声を上げる。
うぅ……心を見てないって言うのになんでそこまで分かるのかな?
それにしてもナタリアに似るのは良いけど……胸はちょっとだけユーリママ似の方が良いな……。
「ほう……あの牛の方が良いというのか」
「う、牛!? って心覗いたの!?」
何故牛なのだろうか? と考えてしまったメルだが、すぐにナタリアが心を覗いた事に気が付くと強い口調で訴える。
「覗かないって約束は!?」
「そんな顔をすれば覗きたくなるに決まっているだろう!?」
そうは言われてもとメルは思ってしまうが、確かに顔に出てしまうのはメル自身理解していた事だった。
だが……。
「でも、牛は無いと思う……」
自身の母の事を悪く言われたからだろう、メルは少し不貞腐れた態度を取るとナタリアは思わず慌て始め。
「こ、言葉のあやと言う奴だ。実際に牛だと思っている訳じゃないぞ……」
メルをあやそうと手を伸ばすのだが、メルはそれをするりと抜けリアスの傍へと向かう。
「メ、メル……?」
リアスはその行動に苦笑いを浮かべる。
すると、メルは彼のローブの裾を掴み……。
「そんな事言うナタリア嫌い」
最も効果のある言葉を告げるとナタリアはぐらりと揺れた。
「ああ……そうか、そうだな……孫はいずれ私の手を離れていくのだな……」
「あらあら……」
がっくりとする、ナタリアを見てライノは微笑む。
そして、一行はそのまま城の中を進み……。
「ねぇ、ナタリア……」
メルが声をかけるとナタリアは表情を明るくした。
「どうした?」
「孤児院の近くに道具があるみたいなの、それを取ったら大変なことになるかもしれない……バルドさんに協力を……」
「しないだろうな」
なんで!? とメルは彼女に詰め寄る。
しかし、ナタリアはため息をつき……。
「確かに奴は経営できている孤児院を助けることはする……だが、崩壊した場合手を出さん……自分で生きていくしかないってな、都合よく誰かが手を貸してくれる。そんな考えで生き残れるほど孤児の人生は甘くない」
その言葉にメルは衝撃を受けたようにがっくりとうなだれ尻尾を丸めてしまった。
どうあがいても無理だろうか? そう思いつつ黙り込んでしまったのだ。
「え、えと……今日はお城に泊まるんだよね?」
そんなメルの様子を見てエスイルは周りの景色を改めて楽しむような仕草をしメルへと尋ねる。
「うん、王様が好意で泊めてくれるみたい、さっきの部屋にいったん戻ろうか? 入口に兵士さんが居たしその人に伝えて……」
メルがそう口にした時、前から騎士らしき男性が現れ……。
「貴方達が、今日お越しになった客人ですね」
彼はそう言うと丁寧な礼をし、メル達の顔を見まわす。
「王シュタークより承っております。お部屋へとご案内いたします」
そう言って彼は顔を上げると……。
「また、明日以降例の孤児院に行く際は私にお申し付けください、馬車を用意させますので」
「えっと……そこまで――」
メルはそこまでしてもらわないでも……と言いかけたがそれをナタリアは止め。
「助かる、だが一人後から合流することになっていてな、その子が来るまでまだ時間が掛かる……出来れば他にも情報があると嬉しいんだが」
「そうですか、分かりました……では部下に孤児院と同じ様に変化がある場所はないか探させましょう」
彼がそう言うとナタリアはメルへと振り返り。
「こういった好意を断るのは王に失礼だ……寧ろありがたく受け取って置け、お前はユーリ娘、聞いたはずだシュターク王はユーリに命を救われたんじゃないか? メルに対する礼儀はユーリに対する礼儀ともなる」
「そう言っても……」
自分は何もしていない、そうメルは言いたかったが、ナタリアはそれ以上何かを話すという事はせずに騎士へと目を向け。
「では案内を頼む」
「はい、畏まりました……では、皆さんどうぞ」
騎士が歩き始めるとナタリアもまた彼の後をついて行く……。
そんな祖母の姿を見て……メルはやはり複雑な気持ちになった。
いくらユーリママが王様の命を助けたからって……そだから私迄特別扱いは違うと思う!
それに、今私がしようとしている事は……世界を救えても孤児院には迷惑をかける事かもしれないのに……。
なのに……ママの娘だから、龍に抱かれる太陽の冒険者だから……エルフの使者だからで許されるのは……おかしい。
メルは心の中で葛藤を思い浮かべる。
だが、その葛藤は誰にも答えを出せない物だった。
ただ一人……その葛藤を抱える少女は……。
冒険者は皆を助ける職業。
だけど、その所為で見えない何処かで不幸になってる人が居るんじゃないかな……。
私は……私は本当に冒険者になって良いの?
もし、そうなれば……そうなったら……私は今の様に考えられないの?
冒険者だから依頼をこなさないといけない、それは分かってるけど……。
それで誰かが傷ついて良いなんて事……無いよね。
メルはそう思い浮かべるとすぐに思い出したのは母ユーリの言葉。
『それにねメル……人の命は天秤にかけられる物じゃないんだ……悪人でも善人でも殺めたら人殺しは人殺し、それを理解して苦しむか、理解してなお楽しむか二通りしかない、例え世界を救ったとしてもずっと裁かれない罪に苦しむしかないんだよ?』
それは母の持つ葛藤。
家族を自身の手で討ったという事だけではないだろう……メルはその言葉を理解していたつもりだった。
殺しは殺し……罪は罪、ただ裁かれるか、讃えられるかの違いだけ……。
でも、本当はそうじゃない。
そうじゃなくて……ママはきっと……私が悩むって分ってたんだ。
だから……冒険者にしたくなかった。
少女は祖母達の後ろを歩きながらふと疑問を思い浮かべた。
それは……今だからこそ、真剣に考えられるものだった。
………………私は今……本当に冒険者になりたいのかな?




