298話 ナタリアの元へ
話を聞いてみると、そこは突然作物が出来ることに気が付いたとのことだ。
それも、いつの間にか孤児院が作られていた。
しかし、追い出さないのは王の心遣いだろう……。
メル達はメルン地方からも力を貸すことを約束し、そこに向かう決意をした。
「さて、出るとしたら今日はもう遅い、城に客室を用意している。休むと良い」
まだ日が高いが、今から出かけるには確かに遅い。
それにメル達はシュレムを待つのは勿論、ナタリアを置いて行く訳にはいかない。
「一回、港の方へと戻ります」
メルが口にした港、空の港の事を指し口にすると王は頷き。
「報告によるともう一人来ているのだったな……食事を用意させ帰りを待とう」
笑みを浮かべるとそう口にし部屋から去って行く……。
メル達は彼を見送ってから部屋を出る。
「それにしても、すぐに見つかるとは思わなかったな」
リアスはメルにそう口にするも、彼女は浮かない顔で尻尾をだらりと下げる。
元々作物が育たなかった土地へと恐らくは恵みを与えたエルフの道具。
それをメル達が取ることにより、多くの子供達が餓死するのではないか? と不安になったのだ。
どうにか対策を考えないと……何か、何かないのかな?
メルは黙ったまま対策を練ろうとする。
そんな彼女に対し、ため息をついたリアスは頭へと軽く拳を落とす。
「ひゃい!?」
驚いたメルは思わず素っ頓狂な声を出し、リアスを見る。
すると彼は優しい笑みを浮かべ……。
「リラーグの王にもかけあうんだろう?」
「それは、そうだけど……」
それは確かに先ほど言った事だ。
だが、かけあった所で駄目だと言われてしまえばそれで終わりなのだ。
メルはもしもの場合を考え心配していたのだが……。
「今最悪の時の状況を考えるのが悪いとは言わないわ……でも、それじゃ前に進めないわよ?」
ライノにも注意されメルは黙り込む。
その通りだ……と……。
でも、それでも気になる事は気になるよ……。
孤児院か……バルドさんなら何か…………。
龍に抱かれる太陽に居る冒険者バルド。
母の話では元は孤児院出らしく、口と態度は悪いが根は優しい。
優しいのはメルなりに理解していた事だが、ふと考え付いたのは……。
バルドさんにお願いすれば、何か行動を起こしてくれるかもしれない。
私達じゃ出来る事も限られてるし、なら……ナタリアが戻る時に!!
場所は違うと言えどバルドが同じ孤児院の子供達を見捨てるはずがない! メルはそう確信し、希望を持つと……。
「ナタリアを迎えに行こう! 早く!」
「メ、メルお姉ちゃん!?」
元気を取り戻し走り出す。
しかし――。
『メル!? 待って待って!』
『違いますメル! そっちはお城の出口ではないです!』
二人の精霊に注意をされ、ピタリと足を止めた。
すると仲間達の笑い声が聞こえ、メルは顔を赤く染めながら振り返る。
ぅぅ……なんで私っていつもこうなんだろう?
そう心の中で呟きながら、自身の家系代々受け継がれて来た迷子体質を恨むメルはふと気が付いた。
「ナ、ナタリア大丈夫かな?」
ナタリアには心を観るという能力がある。
だからこそ、迷う必要はないが……それはあくまで能力を使っていたらの話だ。
「ん?」
仲間達はその事を知らず首を傾げるのだが、半分癖みたいなその能力はユーリとメルが嫌がる為、長年押さえてきたようだ。
それもようやく癖付いて来たと以前言っていた事を思い出し、メルは祖母が心を読むことをせずに街中を歩いているのでは? と考えた。
慌てて駆けだしたい所だったが、メル一人では迷うのは時間の問題だ。
「い、急ごう!!」
メルは仲間達にそう告げる。
「急ごうって……そんなに転移の魔法って簡単に出来る物なのかしら?」
ライノは疑問を浮かべるがメルは力強く首を縦に振る。
何故わかるか……そんなのは簡単だ。
「転移魔法はナタリアが作ったから、自分の魔法で手こずるような人じゃないよ!」
そういってうずうずとするメルを見てリアスは溜息をつくと……。
「分かった急ごう……とは言ってもナタリアさんは大人なんだ、そこは大丈夫だと思うけどな」
彼の言う事は確かにそうだ。
だが、ナタリアの事だ……メルに情けない所を見せるのは嫌だというかもしれない。
そう思っていたのだが……。
彼女達が扉の前まで来た時……聞きなれた声が聞こえた。
「いや、助かった……以前来た時とは随分風景が違って見えてな」
前には口元に笑みを浮かべた祖母の姿があり、その横には……。
「いやぁ……役に立てたようで良かったよ」
やけにデレデレとした男性が居る。
メルが予想できなかった出来事に固まっていると、ナタリアはメルに気が付いたようでその顔に笑みを浮かべる。
「あ、あの……どうですか? 今度食事でも」
男性はメルに向けられた笑みを自分へと向けられたと勘違いしたのだろうか? 顔を真っ赤にしナタリアへと告げる。
「ん? ああ……構わないが、私には孫がいるぞ?」
「本当……え?」
淡々とした返答に喜ぶ男性は指を向けられた先に居る少女を見る。
すると……。
「いや、でも髪の色も……あの子供は確かに美人さんだけど森族……」
「あの子は森族と魔族の間に生まれた子だ」
固まる男性を置いて行きメルへと近づくナタリア。
「どうした、血相を変えて出てきたみたいだが……」
「だ、だってナタ――お婆ちゃんが迷子になってるんじゃ? って……」
メルにお婆ちゃんと言われた事が嬉しかったのかナタリアは彼女の頭を撫で……。
「大丈夫だ迷うと分かっていれば、人に聞く……後で恥をかくより、一瞬の恥をかいた方がましだ」
と答えてくれたのだが、メルはもうすでにその事よりもあの場で固まっている男性の方が気がかりになっていた……。




