295話 フォーグ地方へ
ナタリアを仲間に迎えたメル達は飛龍艇へと乗り込む。
目指すはフォーグ地方だ。
少女たちの世界を救うという大きすぎる目標の旅は……始まった。
メルは果たして、彼女の求める冒険者になりえるのだろうか?
空の旅は快適と言った物だった。
ドラゴンを相手に襲い掛かってくる魔物は少なく、頭のいいデゼルトは船があまり揺れない様に運ぶ。
最初は怯えていたエスイルも次第に慣れていったのか、今では自由に船内を歩いている。
「メル」
そんな中、ナタリアはメルの傍に心配そうに近づいて来る。
メルは首を傾げ彼女を見るのだが……。
「その様子では大丈夫そうだな」
メルの顔を見るなりほっとしたような顔を浮かべた。
祖母の様子にメルは疑問を浮かべたが、暫く考え合点が行った。
メルの母であるフィーナはナタリアの魔法で空を飛ばされた事から高い所が苦手になった。
そして、メルも自分の責任とはいえナタリアの教えた魔法で怖い目に遭ったのは間違いない。
「私は髙い所嫌いじゃないよ」
だからこそ、そう答えた。
寧ろ、空は好きだった……。
あの時自分を助けてくれた母ユーリのぬくもりを思い出せる気がして……空が大好きだった。
「そうか、なら良い」
だが、その事はナタリアも知っているはずだ。
そう思っていたのだが、気が付いていなかったのだろうか? とメルは不思議に思った。
「いや、やはり聞いてみない事には分からんだろう? メルには心を読むのを禁止と言われてるしな」
それは昔メルがナタリアに言った一言から始まった約束。
それを未だに覚えていてくれてる事にメルは感謝しつつ……。
「ありがとうナタリア」
心配をしてくれた祖母に礼を告げた。
そして、メルの視線は景色へと移る。
私は……私はやっと飛龍船に乗ることが出来た。
見習いではあるけど冒険者として……でも、でも……なんだろう……。
本当にこのままで良いのかな?
不安と疑問を浮かべる彼女の髪を風の精霊アリアが起こした風が撫でる。
『メル?』
『大丈夫ですか?』
二人の精霊はどうやら元気のないメルに不安を感じた様だ。
メルは二人に微笑むとまた空を見る。
冒険者になればいろんな人を救える。
ママ達の様に……だけど、そうなったら……私は私の意志で助けたい人を皆を守れるのかな?
それは今まで考えた事もない事だ。
「メル……」
「大丈夫なんでもないよ?」
祖母の言葉に慌てて答えたメルは振り返ると笑みを見せる。
だが、その笑みはあまりにもぎこちなく……ナタリアは怪訝な顔を浮かべた。
メルはナタリアのその表情を見て、一瞬戸惑ったもののほっとした。
祖母は昔の約束を守ってくれていると分かったからだ。
「今度は何故笑っている……どうした?」
そんな彼女を見てナタリアはなお不安になるのだが、メルは笑みを浮かべ。
「何でもないよ?」
と母フィーナの口調を真似てみる。
すると、少し不安そうだった祖母はメルの笑みを見て安堵したのだろう。
「そうか……」
腕を組み目を瞑ると頷いた。
心配をかけてしまった。
メルはそう反省しつつ……。
今考えても仕方がないよね? 今はそれよりも……精霊を……皆を助ける方が先だよ。
だから……今は冒険者だとか、世界の命運だとか考えない様にしよう。
まだ、幼い少女はそう心の中で答えを出し空を仰ぐ……。
雲はゆっくりと流れ行き、穏やかな風が吹く。
二人の精霊と祖母はメルを囲う様に居て、彼女の事を心配しているようだ。
しかし、悩みを解決したとは到底言えないが答えを出した彼女は――。
「まずは情報収集だね!」
と意気込みながら口にして笑みを浮かべた。
それから数日。
一行は無事リラーグの友好国レライへと降り立つ。
交流の為に作られた飛龍船の停留所には兵士たちが集まり始め、メル達が降りて来るなり礼をする。
「龍に抱かれる太陽の皆さんですね、今日は依頼でいらっしゃったんですか?」
一人の兵が訪ねるとナタリアはメルへと目を向け、メルは頷く……。
するとナタリアは一歩前へと踏み出した。
「少し王と話がしたいんだ。謁見は可能か?」
「シュターク様とですか? ええ、皆様なら喜んでお会いになると思いますが……」
そう言った兵士はメル達を見回し、少し残念そうな顔を浮かべた。
「あの時の方々はいらっしゃらない様子ですね」
あの時とは何時の事だろうか? メルは疑問を浮かべたが祖母にはそれが分かったようだ。
「ああ、私はユーリの母でそこのメルは私の孫、つまりユーリの娘だ」
「そうだったんですか、なるほど、確か見た目がすごく若い母が居ると聞いておりました……それでしたら尚更喜んでお会いになってくださると思いますよ」
兵士は柔らかい笑みを浮かべると、部下に指示をし、船の点検をさせ、デゼルトに食事を与えてくれた。
それを見て驚くメルだったが……。
「な、なんか……メルが遠い存在に見えてきたな」
リアスの言葉を聞きメルは跳ねるように彼を見る。
「そんな事無いよ!?」
そして、焦りながらそう口にした。
二人のやり取りを見ていたナタリアは笑みを浮かべメルの方へと振り返る。
「さて、私は此処で一旦別れよう、シュレムの為にも転移陣を書かなければならないからな」
「あ……うん」
祖母が付いて来てくれた目的はあくまで転移陣の事だ。
残念に思いつつメルは頷き……。
「ほら、案内をしてくれる様だぞ?」
彼女に促され、兵士の後を追うのだった。




