291話 母の手料理
事情を話したメル達。
フィーナはその話をただただ聞いてくれた。
エルフのことだというのにメル達を責めることはせずにだ。
どうやら無事船も借りられるようだ。
しかし、まだユーリ達は帰っておらず食事をとることになった。
「じゃぁ、少し待っててね?」
フィーナはそう言うと食事の準備をしに向かう為か立ち上がる。
メルも手伝おうと腰を浮かせたのだが……。
「メル達は休んでて? 長旅で疲れてるでしょう?」
と笑みを向けられた。
「でも、何か手伝いたい……」
「駄目! 自分では分からなくても疲れはあるはずなんだから、ね?」
メルは喰いついたがすぐに母にそう言われてしまい、渋々首を縦に振る。
「分かった……」
久しぶりに会った母なのに、少しは手伝いたい。
そう思っていたのは通じたのか、フィーナは微笑むと……。
「その代わり、いっぱい食べてね?」
と言われ、メルは笑みを浮かべながら……。
「うん! 勿論!」
当然の事だと頷いた。
そして、リアス達の方へと目を向けた彼女は――。
「君達も、ね?」
「あ、ありがとうございます」
リアスは丁寧に頭を下げ礼を告げる。
ライノもまた、頭を軽く下げ……。
「ええ、お言葉に甘えさせていただくわ」
と答えるとフィーナはより笑みを深め、部屋を去って行った。
「えへへ~フィーナママのご飯~」
彼女が去って行った扉を見つめ、メルはへにゃりとした顔でそう呟く。
先程も思った事だが見た目は悪い。
酒場の冒険者であるシュカの話では腐った豆や匂うスープ、生魚とこちらの地方では普段食べられない物ばかりが出てくるのだ。
だが、れっきとした料理であり、また美味しい。
どうやらフィーナの故郷の料理らしく、彼女はミケという女性に料理を教わったらしいがその人もまた料理が上手かったらしい。
「どんな料理か楽しみだな」
メルの喜びようを見て、リアスはそう呟いた。
その時メルは初めて気が付いた。
そう、それはこの地方では大抵のものは食べたことの無い料理……。
「えと……最初は驚く、かも?」
美味しいのは間違いない。
だが、きっと驚くだろう……と……。
「そうなの? それは楽しみね」
ライノはメルの言葉を聞き喜ぶが、メルはそうじゃない……と言いかけ「あはは」と乾いた笑いを上げた。
「もしかして、魔物を使ったりとかするのか?」
「えっと、そうじゃないよ? そうじゃないけど……」
あれは食べなれないと正直どうだろう? と思ったメルはエスイルの方へと目を向ける。
すると弟は……。
「腐った豆とか出てくるよ」
と言い、二人の表情が固まった。
その事に慌てたメルは――。
「え、えっとちゃんと食べられるから! ね!?」
と伝えるのだった。
暫くし、母に食堂に呼ばれたメル達。
中でもメルは恐る恐ると言った様子でリアス達の方へと目を向ける。
先程、二人にはどういった料理かと言うのを説明した彼女はなんとか理解を得られたものの不安だった。
実際に見るのと聞くのでは違うだろう。
そう思ったからだ。
しかし、出てきた料理は……。
「ん? これって……」
「あら?」
熱々の鉄板の上でじゅぅじゅぅと音を立てる分厚く切られたそれは確かにメルの大好物である……。
「お肉?」
「うん! ちょっとユーリに教わった事があってね? 試してみたらメルが喜びそうだなって」
自信満々なのだろう、胸を張る母。
一体どれほど美味しいのだろうか? メルは期待を膨らませナイフを肉へと入れ込む。
すると、いつもなら切るのに苦労をするはずの肉はすっと切れていく、そしてそれを口に運ぶと……。
「や、柔らかい」
シアが焼いてくれた肉も美味しかったのは覚えている。
しかし、フィーナが焼いたそれは同じように見えて柔らかさが全然違うのだ。
驚くメルに対し母は……。
「そうでしょ? 蜂蜜を塗ったんだよ?」
「蜂蜜!? でも変な甘さが無い……?」
蜂蜜と言う言葉にリアスは驚く、言われなければ気が付かない……言われても気が付けなかった。
「蜂蜜はお肉を柔らかくするんだってそれで薄く塗ってみたの」
「そうだったんだ……」
メルはそう言いつつ肉を切っては口へと運ぶ。
恐らくナタリアの言う異世界の技術と言う物だろう……とメルは納得しながらも母の手料理を味わい。
「美味しかったぁ……」
あっという間に食べ終わってしまった。
それを見たフィーナは微笑み。
「口元にソースがついてるよ?」
と注意するとメルは慌てて口元を拭う。
そのやり取りがなんだか懐かしく感じたメルは恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
周り見てみると仲間達も夢中になり肉にかぶりついている。
ここまで柔らかい肉は初めてだったのだろう、いやメル自身も初めてだった。
「メルちゃん、本当にお嬢様だったのね」
そんな中ライノはからかうようにそう口にし、メルは頬を膨らませると……。
「お嬢様って呼ばれるのは嫌だよ……」
と訴えるすると、仲間達は声を出し笑い始め。
メルは戸惑うのだが、つられて笑い始める。
そんな様子を見てフィーナどこか安心した様に微笑むのだった。




