284話 ドイズールへ
エルフの言葉では精霊の道具はフォーグにあるという。
しかし、そこに向かうには路銀も食料も足りない。
一旦、ドイズールに向かうとしてもダメだそう判断したのだが……シュレムはリラーグに行き飛龍船に乗ることを提案するのだった。
飛龍船。
それは空中都市リラーグの冒険者の移動手段の一つであり、エルフの使者と言われる者達の翼。
一般的に乗れる訳ではなく、乗ると言って簡単に乗れるものではない事は誰もが知っている。
だからだろう、フィッツとルーイの二人はその名前が出た事に驚いていた。
「乗るって言って乗れるもんじゃないだろ?」
「そうです、いくらそこの冒険者とはいえ依頼では無い限り……」
……乗れるわけが無い。
その後の言葉は続かなかったが自然とメルには分かってしまった。
事実、依頼ではない。
普通であれば飛龍船に乗る事は無理だろう。
だが……。
「……ママ達に掛け合ってみる方が良いかも……もしかしたら、シュレムの案で行けるかもしれない」
本当の事を話し、飛龍船がどうしても必要だと言えば大丈夫かもしれない。
メルはそう判断した。
本来であれば冒険者見習いである彼女達は依頼をして路銀を稼ぎフォーグへと行く方が良いのだろう。
しかし、現状は急いだ方が良い……そう考えれば海より空を行った方が早いのだ。
メルは仲間達へと目を向け――。
「その方法で行こう?」
シュレムの案を後押しする。
すると、仲間達は頷き……。
「うん! 僕はそれで良いよ!」
「ちょっと引き返すことになるけど、方法があるなら良いんじゃないかしら?」
「そうだな、それ言ってみよう」
仲間達もまた頷き答えてくれ、メルはフィッツとルーイの方へと目を向ける。
二人は納得のいかない表情ではあったが……。
「まぁ俺達は海だけの付き合いだしな、勝手にしろ」
「……では針路を変えましょう」
それ以上言う事は無い、そう言いたげな表情で船の針路を変える事を約束してくれた。
「ありがとう! それじゃぁまずは……フロム大陸へ!!」
メルは意気込みそう言うと、仲間達は船を進ませるため、急ぎその場を離れた。
彼女はすぐに風邪の精霊であるアリアに母達に今の話を伝えるように頼みこみ、旅立つ精霊を見送った。
針路を変える事にしてから数日。
ルーイのお蔭もあり、メル達は危険な魔物には遭遇する事無くフロムへと戻ってくる。
すると、見慣れた船に驚く船乗り達。
彼らに事情を話し、食料を買い足した彼女達は再び出航する。
目指すはドイズール……リラーグへと向けメル達は進む……。
母達は戻って来る事に驚きの声を上げるだろう。
だが、今はあのエルフを信じ、進むしかない……そう思った彼女は海を眺め……。
彼女の瞳に映る穏やかな海は急にその表情を変えるというのが信じられない程だった。
だけど、あのオプスって精霊も……突然……。
初めて龍に襲われた時の事を思い出したメル。
彼女はだからこそ穏やかでも安心はできないと考え、見張りを買って出たのだ。
「メル、どうだ?」
リアスの声に耳をぴんと立てた彼女は振り返り、笑みを浮かべる。
「今のところは何も……」
「そうか」
ほっとしたような笑みにを浮かべる彼を見てメルは安心するとその場に座り込む。
「それにしてもなんで急に?」
フォーグに行こうと言い出したのか? そう問われているのは分かっていた。
「……それは」
言おうか悩んでいた。
しかし、言わなければ……そう思った彼女は意を決し……。
「実はエルフって二人いるの……」
「ん?」
質問の答えが返ってこない事にリアスは首を傾げる。
だが、これから答えるためには必要な事だとメルは言葉を続けた。
「私達を襲ってきたエルフ、そしてリアスに剣をくれたエルフ……二人いるの……その二人は互いに違う考えをしてる」
「違う考え?」
繰り返される言葉にメルは頷く。
「そう、片方は数人を残して滅びるべきだって……でも、もう一人、剣をくれたエルフは……私達を信じてくれてる。だから、今ルーフに行っても駄目だって……精霊の力を借りろって言われたの」
メルの話はすぐには信じられない事だろう。
しかし、リアスはエルフに会い実際に剣を受け取っている。
「なるほどな……二人いたから、俺が会ったエルフとは雰囲気が違ったのか……」
彼は納得した様に頷くと、メルの方へと目を向けた。
「それで、信じられるのか?」
「エルフも精霊である以上嘘はつけないよ……」
メルはそうは言ったものの、不安はあった。
確かに嘘を言っているという事は無い、そう言い切れるがもう一人のエルフに影響がないとは言っていない。
ましてや、精霊は本来意志を一つしか持たないのだ。
彼女達に何が起きたのか、そして……世界の危機と言われ、救うには自分の力が必要だとも言われた彼女は……。
私はまだ子供……本当になにか出来るの?
そんな不安が膨れ上がっていく……。
リアスはそんなメルの表情を窺うと優しく微笑み、メルの頭へと手を乗せた。
「ひゃう!?」
「大丈夫だ、俺達が居る」
暖かな手の平とその言葉にメルは体の内側が暖かくなるような気がした。




