273話 ドラゴン
旅を急ぐ事にしたメル達。
しかし、まだ脅威であるドラゴンは居座っている。
依頼をこなし路銀を稼ぐかとも思ったがメルは休息を得る事を選んだのだった。
「さて……それでどうする?」
まだ三日目、もう三日目と言っても良いだろうか?
足止めされてしまってから、メル達はまだやることがあったとは言っても時間は無情にも過ぎていく……。
「どうする? ってリアス……」
「確かに此処から船が出てくれればそれが一番いい、だけど現状は無理だ」
ドラゴンがどの程度、近辺の海に居るのか分からない。
ましてや気に入って住み着くなんて事もあるだろう……。
「でもよ! 戦うなって言ったのはリアスだぜ?」
シュレムはそう口にするとムスッとし、腕を組む。
「そ、そうだね、こればっかりは僕もそう思う……」
エスイルも頷き、リアスも頷くと……。
「それに関しては意見を変えるつもりはない、戦うとしても住民の避難が必要な時だけだ……問題は」
「これ以上足止めされる事ね?」
ライノの言葉にもまた頷くリアス。
まだ三日……そう思っても良い時間ではある。
しかし、先を急ぎたい気持ちはあるのだ。
だが、それは……。
「でも、もし私達が居ない時にドラゴンが襲ってきたら? ここの人達は……」
メルはそう言いつつも自分達があのドラゴンに勝てるとは想像が出来なくなっていた。
しかし、逃げる事は出来るはずだ……そう信じても居たのだが……。
「分ってる……だから、その件はシルフだったか? 彼女にユーリさん達に伝えてもらえるように――」
そう彼が呟いた瞬間だ。
外からまるで雷が落ちたかのような爆音と悲鳴が聞こえたのは。
「皆、外に!!」
ぞくりとするものを一同は感じつつ、慌てて外へと出る。
すると、そこに見えたのは……。
「丁度話してる時にってか?」
シュレムは舌打ちをし……それを見上げる。
そこに居たのは紛れもなく海で出会ったドラゴン。
魔物は咆哮を上げ、龍の息吹を街へと向ける。
「リアス!!」
「ああ、避難の時間を稼ごう!!」
メルの声に頷いたリアスはそう叫び、一人も反論する事無くメル達はドラゴンへ向け走っていく……。
「っ! 我が意に従い意思を持て……マテリアルショット!!」
メルは注意を引くために近くにあった樽を魔法でドラゴンへと飛ばし、それは見事に当たると音を立て壊れ、中身の果物達が宙をまう。
ぅぅ……も、勿体ないけど、そんな事言ってる場合じゃないよね!
樽を当てられたドラゴンはその瞳を鋭くし、ゆっくりとした動作でメル達の方へと向く。
「ぅぅ……」
するとメルの脳裏に過ぎるのは初めて海で出逢った時の事だ。
全く歯が立たず、メル達はあっけなく海の中へと飲み込まれた。
今、生きているのは奇跡だ。
だからこそ……メルの中には恐怖と言う物が刻み込まれていた。
だが――。
怖いからって逃げられない! 逃げるのは簡単。
でも……それをしたら他の人達が――!!
「――っ!」
メルはアクアリムを鞘から滑らせ構えると願う様に魔力を込める。
「お願いシレーヌ!! 力を貸して!!」
今の私達じゃ敵わない……だったら!! あの龍を生み出せれば!!
そう、メルは精霊の力を借りあの水の龍を生み出そうとしていた。
彼女が何かをしようとしている事には気が付いたのだろう、リアスはナウラメギルを構えるとメルの目の前へと立つ。
「ライノ! シュレム! 二人は住民の避難を優先してくれ!!」
普段ならメルを守る役はシュレムなのだろう……しかし、盾が無い今それが出来るとは思えない。
リアスはそう指示すると龍をその双眸でしっかりと捉えた。
瞬間――龍の口から解き放たれたのは水の息吹。
それを目にしメルは一瞬たじろいでしまうが、目の前に居るリアスを見てすぐに持ち直す。
その理由は……彼の持つ剣にあった。
赤く燃え上がった炎は剣を突き立てると火柱が上がり、龍の息吹を蒸発させる。
これなら――間に合う! メルはそう思った。
しかし……相手は龍……その息吹は何度でも使えるだろう。
対しリアスは魔法を学んだことすらない。
幼い頃から魔法を学び魔力が多いメルならばともかく、リアスは違う。
「ぐぅ!?」
一回目の息吹の終わりと共に魔力が切れたリアスは膝をつき――剣を杖代わりにし立ち上がろうとする。
しかし、それは敵わず……。
『…………』
龍はそれを見て――まるで笑うかのように目を細め、口元を歪ませた。
リア……ス?
そして、ゆっくりと息を吸い込み顎を開き息吹は再び解き放たれる。
メルにはそれが酷くゆっくりに見えた。
だが、身体が動かず……やっと動いたと思った時にはすでに息吹は目の前に来ていた。
「駄目……」
間に合わない、そう理解した時。
メルの脳裏に浮かんだのは血塗れのリアスの姿。
自分自身も死ぬかもしれないという時に考えたのは彼がこのままだと死んでしまうという事だった。
「駄目ぇぇぇえええ!!」
シレーヌは一向に変化を見せず、絶望を感じたメルは彼の元へと駆けつけると庇う様に抱き着きながら叫びをあげた。




