263話 港町
氷の精霊はたった一人でメルの元へと付いて来ていた。
他の精霊は何処にもいないのにだ……。
メルはそんな彼女に対しウンディーネやシルフに感じた物と同質のものを感じる。
そして、一緒に来るかと問い、氷の精霊は自らの意思でついてくるのだった。
メル達は目的地である港へと辿り着いた。
彼女達は街へと入るなり、港へと向かった……すると一人の男性が慌ててメル達を止め……。
「ま、まった! 何処に行くつもりだい?」
と声をかけてきた。
メル達は首を傾げつつ、男性に港と伝える。
すると男性は……。
「今は辞めた方が良い」
「どうしてですか?」
男性は意地悪でそう口にしている訳ではないのだろう事はメルにも分かった。
その理由は真剣な顔で尚且つ、彼だけではなく他の人達も港に行く人を止めているのだ。
「何か理由があるんだろ? それを言ってもらわなきゃ納得は出来ない」
リアスの言葉に「そうだな」と答えた男性は……。
「今は海に住んでいる龍が暴れているんだ」
「龍!?」
龍とはメル達が出会ったあの龍だろうか?
そんな疑問を感じつつもメルは……。
「ど、どうしよう?」
流石にあの龍が相手では敵わない。
そう感じたのだろう仲間達に問う……すると……。
『わ、私がなんとかするよ!』
その声は目の前に顔を出した怯えた様子の精霊からだった。
『…………』
そんな彼女を見て驚いたのはウンディーネだった。
彼女は氷の精霊をその双眸で捕らえて……いや、正しくはメルの瞳を通し捉えると……。
『い、いくらなんでも無茶です!? だって、相手はドラゴンなんですよ!?』
ウンディーネは思ってもいなかった一言に驚きの声を上げ止めようとする。
しかし、氷の精霊は……。
『で、でも……それでも守れれば、認めてくれるでしょ?』
そうおずおずと口にし、水の精霊はがっくりと項垂れる。
『それとこれとは話が違います! ドラゴン相手ではいくら精霊でも無事ではすみません!!』
初めて聞く言葉にメルとエスイルは瞳を白黒させている内にリアス達は話を続けていたのだろう……。
「メル、とにかく乗ろうとしても今は船は止まってるみたいだ……ってどうした?」
その声に気が付いたメルはほっとしつつ、氷の精霊に伝える。
「船が止まってるみたいだから流石に外には行けないかな?」
ありえない申し出に困っていた彼女だったが不幸中の幸いだと言い聞かせその事を伝えるのだが……。
『なら、私を海が見える場所まで連れて行って!!』
氷の精霊は諦めていない様子だった。
それに呆れたように溜息をつくのはウンディーネ……彼女は氷の精霊をはたくと……。
『いい加減にしてください、メルの手伝いをしたいというのは分かりました……でもそれで困らせるのは違います!』
グラネージュを良く思っていなかったウンディーネも彼女の言葉は無茶だと思っているのだろう、グラネージュを止めようとし……それを聞いていたエスイルもまた頷く……。
「あ、危ない事はしちゃ駄目だと思う……」
『でも、ドラゴンが去るまでここに留まってるの? それこそ馬鹿らしくない?』
確かに早く行ける事には越した事は無い。
しかし、相手はドラゴン……そう簡単に勝てる相手ではないどころか世界で恐れないものなど居ない魔物だ。
メルや、その母ユーリが特別なだけでリラーグのドラゴンであるデゼルトもきっとどこかで恐れられているだろう。
でも、それでも中にはドラゴンを倒せるって言う人が居る。
事実母ユーリはそうしてデゼルトを従えているのだ。
だからこそ、挑みそのまま命を落としていくものだっている……無謀と勇気は違う。
しかし、グラネージュが言っている事も確かだ。
ドラゴンが港の近くから去るまでどの位の時間が必要だろうか?
1日で去るかもしれない、だが、逆にそこに居ついてしまう可能性もある。
王者たる龍には天敵が少ないのだから当然だ……人を恐れる必要すらない。
だけど、その油断が弱点なのかも……。
「取りあえず宿を探そう」
リアスの提案をメルは手で制する。
「どうしたんだよ?」
「まさか無理矢理出してもらうんじゃないわよね?」
「お? 行くのか? オレはメルの行く場所なら喜んでいくぞ!」
三人はそれぞれそんな回答をしたが、メルは――。
相手は海の王者……普通にやったって勝てない。
そもそも人間じゃ海の魔物に勝つのが難しい……特に水の中に引き込まれたらもう勝てない。
生きていたことが奇跡だ、その事は十分理解していた。
しかし……メルはそう考えつつも二人の精霊に目を向けていた。
そこに居るのは水を司る精霊ウンディーネ。
そして……。
氷を司る精霊グラネージュ……二人が姉妹だって氷狼は言っていた。
なら……この子達は協力し合えるんじゃないのかな?
だけど、どうやって戦うの? ウンディーネのあの姿だってどうやったのかも分からないのに……。
今度は腰にある剣アクアリムに目を向けたメルは大きくため息をつく……そう、条件さえ揃えば戦う事は出来る。
だけど、それだけじゃ駄目、確実に勝てないと……。
その先に待っている事、それはメルは十分に理解していた。
龍の怒りを買えばきっとこの港は壊滅してしまうだろう……そこまでリスクを背負い戦う理由なんてないのだ。
だが、確実に勝てる手であれば話は別だ。
大人しく龍が去るのを待つか、それとも策を考え対抗するか……
「メルいくらなんでもドラゴン相手に無策は危険だ」
リアスはメルに念を押すように告げ、それを聞いたメルが下した決断は――。
「ごめん、そうだよね……分かってる。リアスの言う通りまずは宿を探そう? そして、何か手を考えるの」
今は焦るべきではない、じっくりと策を考えるべきだとメルは下し、仲間達へと伝えるのだった。




