262話 氷の精霊
メル達は氷の洞窟へと辿り着いた。
そこはまるで氷が推奨のようにも見える氷晶の洞窟だった。
余りの綺麗さに感動するメルだったが、仲間達は違うようで何かを警戒している。
どうやらフロスティがいるそうだが、その気配はなくその代わりメル達の後をついてくる可愛らしい精霊が居るのだった。
呼ばれた事に驚くグラネージュは戸惑った様子を見せつつもメルの傍へと寄る。
『メルは甘すぎます! この前も助けてはくれなかったんですよ!?』
そんな彼女を見て怒るウンディーネはまるでメルを守る様にグラネージュに向き直った。
彼女は氷の精霊を睨み、グラネージュはそれに怯えたかのように立ち止まる。
「ウンディーネ、駄目だよ……?」
だが、メルはそんな彼女を嗜めるとすぐにグラネージュの方へと目を向けた。
確かに助けてはくれていない。
しかし、それは精霊としては正しい行動なのだ。
自分達の危機に敏感で逃げずにはいられない……生き残る為にエルフがそう作ったのだから……。
そう、そのはず……。
だけど、この子はついて来た?
他には精霊の姿が見えない……姿形は他の所に居たグラネージュそっくりだけど……ウンディーネに怒られて怯える様子もどこかほかの精霊とは違う気がする。
まるで……。
まるで、自身を助けてくれたウンディーネやシルフの様な暖かさを氷の精霊に感じたメル。
いや……普段から精霊とは親しい彼女は決して嫌な思いをした訳ではないが、どこか目の前に居る精霊が他とは違うようにも思えたのだ。
「メル? どうした?」
グラネージュと見つめ合ったその時、リアスに声をかけられたメルは――。
「ちょっと待ってね」
と仲間へと伝えると不安そうな顔で見つめてくるグラネージュへと目を向ける。
そして――。
「……一緒に来る?」
微笑みながら問うと二人の精霊は驚いた顔を浮かべ……。
『メル! だから――!!』
「ウンディーネの気持ちは嬉しいよ? だけど、見て……この子は怯えてるのに逃げない、此処には他の精霊は居ないのに……」
普通ならば本当に安全と分かるまではここに入って来る事もしないだろう。
中に精霊が居ないという事は此処はもうすでに精霊たちの住処には適さない何かがあるのだ。
それなのにグラネージュは怯えつつもメル達を追う事を優先した。
『……でも!』
それはウンディーネも気が付いた事なのだろう……言葉が帰って来るまでに少しの時間があった。
グラネージュは二人のやり取りを見つつ、おずおずと辺りを見回し……。
『良い、の?』
出会った時は明るかった精霊は今は何かを気にしている様だ。
その理由は既に察しており、メルは――。
「貴女が決める事だよ?」
とだけ、告げた。
精霊が最も難しい事……ついて行くという事はこの洞窟にある何らかの危険に立ち向かうという事だ。
その危険がすでにリアス達の手で解決されているものの事なのか、それとも別の事なのかは分からない。
だが、精霊にはそんなのは関係が無く危険だから行かないのだ。
しかし……。
『………………』
氷の精霊は震えながらもメルの傍へと寄り、鞄へと寄り添う……そこには氷狼からもらった宝石が大事にしまわれているポケットがあった……。
そう言えば……ウンディーネはアクアリムの傍に良く居た様な? でも……最初は水袋だったし……何か関係があるのかな?
「ねぇ、ウンディーネ……なんでアクアリムが好きなの?」
好きと言うには語弊があるかもしれないが、ウンディーネのお気に入りの場所の一つである事には変わりがないだろう。
するとウンディーネは首を傾げ……。
『そう言えば、何ででしょう? 魔法の道具なのに……不思議と引き寄せられるんです……シルフもなんかメルが持っている首飾りに興味があるって言ってました』
その言葉にメルもウンディーネも首を傾げる。
確かにアクアリムは祖母より海や川を作ったとされる武器だと聞いた事がある。
だが、今の使い道はそうではなく戦うためのものだ。
彼女達が恐れてもおかしくはないのに……そう思いつつ、メルは待つのにくたびれたのだろうこちらへと来たリアスへと目を向けた。
「メル……大丈夫か?」
「あ、ご、ごめん……大丈夫だよ」
メルは謝りつつリアスの持つ剣へと目を向ける。
そして……。
私達が持っているものに興味があるなら、もしかしてリアスの剣も興味があるからあんなにフラニスが集まってるの?
そう考えつつ、メルはリアスの後を追い歩き始める。
一体自分達の周りに何が起こっているのだろうか? そんな疑問を感じつつメルは――鞄へとしがみつく精霊グラネージュへと目を向け、そっと微笑む……。
今、分かることは少ない……氷狼の言ってた事も不安だらけ……だけど、精霊を助けられて皆も助けられるなら……それで良いよね。
メルはそう心の中で呟き、前へと向き直る。
元々、リアスが心配だという事もあったが、精霊を助けるつもりだったのだ……言い換えれば世界を救うという目的には変わらない。
そう考える事で自分がやることが大して変わっていない事に気が付いた彼女はいつも通り歩き始める。
ここで後の事を考えたって先には進めないのだ。
なら、今は……前へと進むしかない、この先にどんな試練が待ち受けようとも……。
私は精霊を仲間達を助けたいだけなんだから……。
少女の意志は強く固められた。




