261話 氷晶の洞窟
エルフを信じるな。
その言葉を簡単に信じることが出来ないメル。
それもそのはずだ。
リアスや母、メルの身近な人物はエルフに救われても居た。
だからこそ、分からないのだ……しかし、リアスに当初の目的を果たそう。
そう言われ、メルはようやく眠れぬ夜を乗り越え、翌日仲間達と共に旅立つのだった。
洞窟までの道のりは問題なく、メル達は港へと向かう為にその中へと入り込む。
「うわぁ……」
洞窟の中に入り暫く進んだ所……メルは目の前に広がる光景に思わず惚けた声をだす。
それもそうだろう、洞窟の中はランタンの明かりで照らされ、それが反射し幻想的な見た目をしていたのだ。
「綺麗な所だね?」
そう素直な感想を述べた所リアス達は首を傾げ……。
「そ、そうか?」
「うーん、あの時は急いでたし何も思わなかったな?」
「雪国の洞窟は氷が沢山ある所が多いし、こんな感じよ?」
と言う返答が帰ってきた事にメルはがっくりと項垂れる。
な、何で皆……揃いも揃って……。
綺麗な景色に目を奪われないのだろうか? そう思いつつ歩いていたメルだが……。
「メル、そうよそ見してると危ないぞ」
リアスに注意をされた時――。
「きゃ!?」
足を滑らせ、わたわたとするメルは耐えることが出来ずその場に尻餅をついてしまう。
「ぅぅ……痛い……」
「だ、だから言っただろう?」
と言いつつも手を貸してくれないどころかそっぽを向いているリアスに対しメルは頬を少し膨らませるのだが、すぐにその理由を察し立ちあがると、スカートを押さえながら今度はしっかりと前を見つつ慎重に歩いて行く……。
その顔を真っ赤にしながらも先へと進んだメルを仲間達は慌てて追いかけた。
更に暫く歩いた所でメルは足を止めた。
そこには穴が開いており、奥には道が続いている様だ。
しかし、穴は人が渡れないぐらい大きく……。
「これがその穴?」
メルの疑問に仲間達は首を縦に振った。
確かにこれでは魔法を使えない限りどうやって向こう側へと渡れば良いかと言われると困るだろう。
橋を作るにもここは洞窟だ。
外になら手頃な丸太を皆で運ぶという事も出来るが、結局大きすぎたら向こう岸に渡す際に落ちてしまいそうだ。
やはり魔法が必要だとメルは頷き。
「分かった! じゃぁ魔法をかけるね」
そう言うと仲間達へと向かい微笑み、詠唱を紡ぎ出す。
「我らに天かける翼を……エアリアルムーブ」
空を自由に移動する魔法をかけると自身もトンっと地から飛び上がり、反対側へと向かって進む。
それに続きリアス達も空を飛び始め……。
「魔法って便利だな……」
リアスは感心した様に呟いた。
メルはそれを聞き「えへへ」と笑うと地面へと降り立ち……誇った様に胸を張る。
そんな彼女の様子を見て仲間達は柔らかい笑みを浮かべ……。
「え、えっとそう注目されるとちょっと恥ずかしいんだけど……」
とたんにメルは顔を赤くし身を縮こませた。
メルとエスイルは順調に足を進める中、リアス達が警戒している事に首を傾げる。
「シュレムお姉ちゃん達どうしたの?」
エスイルがそう尋ねるとシュレムは何やら難しい顔を浮かべ……。
「ああ、危ないんだ!」
「それはそうだから警戒してるんだろうけど……」
何か問題があるなら自分も備えておいた方が良い、そう考えたメルだったが、シュレムの回答では判断が付かずリアス達へと目を向ける。
「ここにはフロスティって言う魔物が居るはずなんだ……来る時は会わなかったけど、居ないとは……」
「限らないわね」
二人の言葉に悪寒が背中を走る。
フロスティと言えばフロム地方の人間でなくとも知っている魔物でもあった。
可愛らしい尻尾を持つ老人の様な魔物で聞くだけなら良く分からない変な魔物、と言ったものだが、性格は獰猛。
血を見ると興奮するどころか何故かその匂いに反応し身体能力が上がるというフロム地方の狩人だ。
そして、もし遭遇してしまったら逃げ切るか、それとも血を見せずに戦い勝利するかのどちらか……。
そのどちらも難しいというのだから、フロスティとは遭遇したくないのだ。
しかし……。
「も、もしこの洞窟に居るなら、他の人達が危ないんじゃ!?」
ブランシュの酒場がある街から港まではこの洞窟を抜ける方が早い。
そうでなくてはリアス達がこの道を選ばないだろう、寧ろ他に道が無いのかもしれない。
その事に気が付いたメルはそう質問を投げかける。
「ああ、だからこの洞窟を抜けるには冒険者を雇う事が多いはずだ」
彼はそう口にしていたが、真剣な表情でなにかを考えこみ……。
「だけど……」
「だけど?」
話に続きがあった事に少し驚きつつ、メルは言葉を繰り返す。
もしかして、無茶をして一人で行く人が居る……とかじゃないよね?
「今は俺達が遭った魔物、あれに追い出された可能性が高い……だからもしかしたら、安全に抜けるのには今が一番かもしれないな」
続くリアスの言葉にホッとしつつメルは耳を澄ませる。
確かになにかが居るような音や気配はしない。
ただ、一つ気がかりなのは……。
もう……私は怒ってないんだけどなぁ……。
隅っこの方でメルの達の様子をうかがう精霊グラネージュの事だった。
精霊はメル達が気がかりなのだろう、しかし逃げた事のある手前怒っていないとは言っても出にくいのか、それとも協力が出来なかった事を悔いているのか?
それは分からなかったが、メルが起きてからというものこっそりついて来てはある一定の距離を取っているのだ。
気がついてはいた、しかし――。
『メル! 放って置きましょう?』
優しい口調ではあったがウンディーネは未だ彼女の事を許していないのだろう、そう口にする。
「でも……」
精霊はメルにとって友人……確かに氷の精霊と会ったのはこの地方が初めてだった。
しかし、それでも放って置くのは気が引ける。
それに……氷狼が言ってた言葉……あの意味ってやっぱり……。
その事を考えるとメルはグラネージュを放って置くなんて事は出来ないと考え、笑みを浮かべ精霊に手招きをするのだった。




