256話 美しき狼
氷狼の元へと向かうメル達。
険しい雪道の中、魔物の牙が付いたものを買わなかった事を後悔するメル。
だが、そんな雪道では不思議な事に魔物に出会わなかった……。
そして、ようやくたどり着いた場所で氷狼に言われた言葉は「エルフを信じるな」と言うものだった。
「どういう、意味なの?」
メルは氷狼へと問う。
すると美しい魔物はその場に座り込み……。
「ちょっと待て、もし本当にエルフを信じるなと言うならこの場で話す事も危ないんじゃないか?」
リアスはそう指摘するとメルも確かにそうだと考えた。
エルフは何処に居るか分からない、つまりこの場の会話をエルフは聞いているのかもしれないのだ。
「それならその子の力を使ってメルちゃんに伝えた方が良いわね」
ライノもまたそう口にした。
しかし、氷狼は静かに首を振った。
『それではその娘が話した時にエルフに聞かれてしまうだろう』
「あ……そっか……でも、それだとここが大丈夫って事?」
メルは更なる質問を続ける。
すると少女が何処か誇った様な表情を浮かべ氷狼の前へと出て、メル達の方へと向く。
「うん、お嬢ちゃん、今日の夜は……」
「いや、シュレムお姉ちゃん!? 真面目な話を所だよ!?」
突然、ナンパをし始めたシュレムを止めつつエスイルは少女の方へと目を向けた。
そして、彼女が前に出た理由を考え……一つの答えに行きついた。
「もしかして、この子……声を届けるだけが力じゃない?」
『その通りだ申し子よ……この娘は声を届ける力以外に此処に結界を張っている……』
声が出ない為かこくこくと何度も首を縦に振った少女を見てメルは驚愕した。
ありえないのだ……何故なら――。
「待って! だって結界って魔法が唱えられないんじゃ!!」
使うことが出来ない。
詠唱無しでは魔法は発動しないそれは誰もが知る常識だ。
それが必要ないというのは何かしらの道具を使っているか、それとも禁術のみだ。
しかし、少女は少なくとも禁術を使うようには見えない。
いや、禁術は攻撃に特化したものだともメルは聞いている結界を作るなんて芸当は出来ないだろう。
「どういうこと?」
『簡単な事だ……その娘は生まれながらにしてあるアーティファクトの使い手だ……その結果有り余る魔力を使い、結界を作れる』
「アーティファクト……?」
だが、その子が身に着けている物には何ら変わったものは無い。
そう思っていたのだが……少女はやはりどこか誇った様な表情で袖を捲り腕を見せ、そこには大きな宝石がはまった腕輪があり……。
少女はそれを見せびらかせるようにしていた。
「それがアーティファクト?」
メルは少女へと近づき、腕輪を確認するも……。
「な、なにこれ!?」
驚きの声を上げるだけだ。
何があったのか? 仲間達も腕輪を見るとそれぞれに驚きの声を上げた。
そう、ありえないのだ……。
「これ、どうやって腕にはめたの!?」
腕に通すための隙間もなく、ベルトも無いそれは少女の腕にしっかりとはまっており、最早取ることはできないだろう。
『不思議な道具だ……我がこの娘に会った時にはもう腕にはあった……そして、この腕輪は彼女と共に成長している』
「…………」
信じられない事ばかりが起きており、言葉を失う一行。
対し氷狼は……。
『そして、その力で結界を張りここに誰も辿り着かせなかった。しかし、今回……お前達と言葉を交わすことを決めた……本来ならば娘よお前の母達と話す予定ではあったが……精霊に愛される娘よ、お前の方がふさわしい……』
「……それで、どういう訳なの? エルフを信じちゃいけないって……」
エルフと言えば世界を創造した者でもあり、神と言っても良い存在だ。
だからこそ、氷狼の言う信じるなと言う言葉をメルは理解できなかった。
それこそ理由が無ければ信じられない……それはリアスも同じだったらしく……。
「そうだな、エルフはこの剣をくれた……このおかげで助かった様な物だ、なのになんで信じちゃいけないんだ?」
リアスは背負っている剣を指差しそう告げる。
そんな二人を見て氷狼はやれやれと言った風に首を振ると……。
『エルフはこの世界を作った者だ』
「それは知ってるわ、だからなんで? って聞いてるのよ」
氷狼の言葉にライノはそう返す。
そんな彼らに対し氷狼は大きなため息をつくと……。
『我が呼んだ以上、考えたらどうだ? と言う言葉は不適切だとは思うが……少しぐらい考えたらどうだ?』
そう言われてしまいメルは出しかけていた言葉を飲み込んだ。
でも、精霊の王でもあるエルフは今までずっと人を助けてくれた。
その証拠にユーリママやリアスの事だって……それが全部嘘だったとは思えない。
なのに、それを信じたらいけないって言われても……。
だが、答えが見つからず、メルは唸るような声を出す。
すると……。
「作った人だから……自由にできるって思ってたり?」
「はぁ? エスイル……お前何言って――」
少年の言葉にシュレムは思わずそう突っ込みを入れる。
しかし、目の前の大きな魔物だけは違った様で……。
『その通りだ賢き子よ……奴はこの世界を作った。だからこそ問題があれば片づける事も出来る』
「そ、そんな……」
氷狼の言葉にメルは驚いた。
確かにメルも幼い頃、組み木という玩具で遊んだ覚えがある……だが、折角作ったそれを最後には片付ける。
氷狼の言う様に作った物を壊して片付けると言う言葉は何となく理解は出来た。
しかし――。
「でも! 世界を片付けるなんて……玩具じゃないんだよ? それなのに……そんな事」
するはずがない。
そう言いたかった。
だが、心の底のどこかで思ってしまった……。
この世界はエルフにとってはただの遊びだったのではないのか? と……。
だからこそ、氷狼が言う事が本当ならば……人が踏み込み過ぎた今だからこそ片付けようとしているのではないか? と……。




