253話 氷狼の声……
魔力を取り戻し目を覚ましたメル。
彼女は仲間の窮地を救い、ともに街へと戻ろうとした。
そんな中、彼女の頭に直接語り掛けてくる声があった……。
その声は自らを氷狼と名乗っており……?
街へと戻った一行はブランシュの酒場へと向かう。
そして、辿り着いた酒場では笑顔で迎えてくれたのは勿論ブランシュと二人の少女だった。
「メ、メルちゃん!! 大丈夫だった?」
心配そうに近づくブランシュにメルは困った様な笑みを浮かべ……。
「な、なんとか……」
「何がなんとかだよ……かなり危なかっただろ!? 今度は誰か雇うかどうかしてくれ」
いつも通り、リアスの呆れた様な声にメルは尻尾と耳を垂らし項垂れる。
そんな彼女を見てライノは肩に手を置くと……。
「こっちはかなりハラハラしたんだからね? もしメルちゃんに何かあったらご両親に何て言えばいいの?」
「ぅぅ……ごめんなさい」
素直にそう謝るとライノは満足した様に笑みを浮かべ頷いた。
だが、そんな中一人の少女は頬を膨らませ……。
「メルなら何とかできると思うけどな?」
「いや、事実危なかっただろ?」
リアスは困り果てた顔でシュレムにそう言うとメルへと向き直り、一つ溜息をつくと……。
「それで、メル……さっき言ってたけど、どうするんだ?」
「あ、えっと……そのブランシュさん、実はまだ氷狼の問題は解決出来てないんです……」
メルは慌てて顔を上げるとブランシュへと話を切り出し……。
「そう、なら……他の冒険者に頼むしかない、かな……」
店主も心配になったのだろう、そう判断を下すのだがメルは首を振る。
何故なら他の冒険者では駄目だ……そう感じていたからだ。
「でも、今回も危険な目に遭ったみたいじゃない……それなのにこれ以上慣れない雪道を行かせる訳にはいかない。それにそもそもこれは此処の住人の問題だしね」
メルはその言葉を聞いても頑なに首を横に振った。
違う……そう彼女は考えた……メルが氷狼に会うのはもう街の為ではない。
だって、あんなに優しい声で語り掛けてきた子が悪さをするはずがない。
だから、きっとこれまでに襲われた人達は……私を襲った人の仕業だ。
メルはそう確信し、ブランシュへと向けた瞳を逸らす事無く告げる。
「恐らく、今回の氷狼騒ぎには氷狼は関係ないよ……それにその原因ならリアス達が何とかしてくれた。でも……それでも、私は氷狼に会わないと! 呼ばれたから……行かないと!」
遠く離れた者に意識と声を伝える事は不可能だ。
しかし、それでも氷狼の子供と名乗る者からは声を伝えられた。
何かしら細工はあるのだろう、だがそんな事は今はどうでもいい。
何故か分らない、でも……会わないといけない気がする。
この出会いを見逃したら、なんかよくない事が起きるんじゃないかって……。
メルは不思議とそう思ったのだ……。
「だから、教えて欲しいの……かつて氷狼が居た場所を……そこに彼は待ってる」
「ま、待ってる? 待ってるって一体……」
メルの発言に眉をひそめながら問うブランシュ。
だが、メル自身それは分からない事であり、ゆっくりと首を横に振った少女は……。
「分からないけど、待ってるの私達が行くのを……だから、教えて欲しい」
この一言では怪しく信用されないであろう事はメルも理解していた。
だが……。
「俺からも頼む……今度は俺達もついて行くんだ、問題はない」
「リアス?」
メルは彼の方へと目を向け、頬を少し赤く染める。
すると、リアスは頬を人差し指でかきながら……。
「それに放って置いたら一人で行こうとする……場所何か分からなくても自力で探そうとするはずだ。だから、頼むよ」
そう言われてしまいメルは思わず項垂れる。
するとブランシュは大きな笑い声を上げ……。
「そうかい、あのナタリアの孫だもんね! なんか納得できる言葉だね……それなら行かせた方が安全かもしれない。良いよ、教えてあげる」
そう言うと地図を取り出し、場所を記す。
「雑で悪いね、もうすぐお客が来る時間なんだ」
「いえ、ありがとうございます!」
メルは礼を告げた後、申し訳なさそうな顔を浮かべた。
それに気が付いたブランシュは困った様子など微塵も見せずに口を動かす。
「あの子の事なら気にしないで良いよ、大丈夫ちゃんと預かっておくよ」
「す、すみません」
メルは謝るもブランシュは「謝らなくていいよ」とだけ口にし……暫く黙った後。
「でも――」
「でもなんだよ?」
付け足された言葉にシュレムは首を傾げながら問う。
「必ず戻っておいで、じゃないとかわいそうなのはあの子だよ」
「そうね、必ず戻って来るわ、ね? メルちゃん」
二人にそう言われメルはその表情を明るくすると――。
「はいっ!」
と元気よく答えた。
「よし、それじゃさっさと行こう……その氷狼が待っているって場所に」
「うん!」
リアスに促され、メルは頷くと酒場の入口へと向かい歩く……。
果たして、メルに語り掛けてきた氷狼の子とは何者なのだろうか?
何故メルに語り掛けてきたのだろうか?
そして、なにより……どうやって語り掛けてきたのだろうか?
それは誰にも分からない事だが、不思議とメルは怖いとは思わなかった。
ただあったのは……。
氷狼の子……本当にそんなのが居るなら、なんで私に声をかけてきたんだろう? それになんで他の人は知らないんだろう……。
氷狼と言う言葉は出てきた。
しかし、それに子供が居るという事は一切聞いていない。
もし、本当に居るのであれば、何らかのうわさがあっても良いはずだ……しかし、メルが耳にした情報は氷狼が暴れており、犠牲者が出ていたという事だけだった。
その事に首を傾げつつもメルは仲間と共に嘗て母達が氷狼と戦ったという場所へと向かうのだった。




