243話 絆
屋敷にメルが居る。
そう考えたリアスは普段ならしないであろう行動を取った。
彼の突然の行動に戸惑う仲間達だったが……彼の「リリアの時と同じ嫌な予感がする」と言う言葉に何も言えなかったのだ。
そして、屋敷の中へと忍び込んだ一行は一人の男と出くわすのだった。
「メルを知ってるのか!! 何処に居る!!」
シュレムは叫び、男へと向かいその拳を叩きつける。
だが、男はその小さな拳を避けると……。
「人の家に勝手に入って来るような怪しいガキに教えると思うか?」
男の言い分は正しく、彼女達は口を閉ざす。
だが……。
「随分な言い方だな、人の仲間を攫っておいて家に入るなって言うのか?」
「人聞きの悪い言葉だな……俺はあの娘の事を知っているし、ここには居るが攫ったとは言っていない」
そうは言うがリアス達はメルが優しいとはいえ、いくらなんでもここまで怪しい者達に付いて行くなんて事は考え辛く……。
「なら、会わせてくれてもいいだろう? 俺達は仲間なんだ」
「その証拠があるのか? あの娘を狙う者かもしれない、だというのにわざわざ合わせる必要があるのか?」
男の言い分は最もだ。
しかし……。
「あのな! オレはずっとメルと一緒だったんだ! お前みたいな奴について行くわけがないだろ!!」
シュレムは男の言葉をなんの理由もなく否定する。
いや、彼女の言葉は真実なのだろう。
リアスもまたここが怪しいと確信して尚且つメルが自分から入った訳が無いと考えていた。
しかし、それでも弱いとも思ってしまった。
「お前達が何をしてるかは分からないが、あの剣を落としてメルが気が付かない訳がないんだ! お前達がなにかした証拠だろうが!!」
紡がれたのはシュレムの怒号での答え。
そう、メルが気が付かないはずがない……彼女の答えは何よりも正しかった。
そして、仲間である他の二人が気が付かなくてもそれは仕方のない事だ。
何故なら……。
「あれはナタリアさんの剣だ! メルが大事にしないはずがない!!」
自分さえ知っていればそれで良い、シュレムはただそれだけを思い、叫ぶ――。
「…………そんな小汚い剣と思ったが、なるほど……誰かの形見か? どうやら、面倒な客が来たみたいだな」
そう、男は剣の見た目だけで判断したのだ。
古臭い柄、まだ新しい鞘……ちぐはぐであったが、それがそこまで重要な物だとは誰も気が付かないだろう……。
ましてや多くの人間にとって武器とは愛着もあるが時がたてば使い捨てる道具だ。
だからこそ、彼は失念した。
そして、そのお陰あってリアス達はメルの身に何かがあったと悟り、シュレムはメルが剣を回収できない状況だったと理解した。
「メルを出せ……返せよ!!」
「言っただろうアレは俺の相棒がご執心だ……研究だ終われば返してやる……」
ようやくそう口にした男に対し、ライノは首を傾げる。
「研究……研究って何の……一体なにをしているの?」
「ふむ……俺には分からない、ただ、世界の理を変えると言っていたな……とにかく返してはやる。無事だとは約束できないが……」
男はそう言うと拳を構え、シュレムへと振り抜く……。
その速さは彼女では避けきれるものではなかった……しかし、愚直すぎる程真っ直ぐに飛んでくる拳に対し、シュレムは拳を振りかぶり……。
「オォォォォォラァァァァァ!!」
咆哮を上げた。
「なに!?」
彼女の思わぬ行動に男は驚きの声を上げるが、ニヤリと笑うと……。
「結局子供は子供ということか!!」
その大きな拳は勢いを殺さずにシュレムの拳とぶつかり合う。
いくら他の同年代の者と比べて大きいと言ってもまだ子供のシュレムの方が不利だ。
それは誰の目から見ても明らかな事だった……。
しかし――。
「舐めるなぁぁぁぁあああ!!」
彼女の咆哮はなお続き、拳を弾き飛ばすと……続けて蹴りを繰り出す。
「こ、こんなガキに押し負けた、だと……!?」
「おおおおおおお!!!」
驚く大柄の男は彼女の蹴りをその丸太のような腕で防ぐとその顔を歪め……睨む。
「…………なるほど、厄介なガキだな」
苛立ちを見せた男にシュレムは口角を釣り上げ笑う……そして、仲間の方に振り返らずに告げた。
「おい、リアス! こいつはオレが足止めする……メルを迎えに行ってくれ!!」
「……迎えにって……お前武器もないんだぞ!?」
彼女の言葉はリアスにとって……いや、ライノにとっても予想外の言葉だった。
「そうよ、皆でなんとかしましょう?」
だが、シュレムは首を振り……。
「いや、ここはオレ一人で良い! それよりも変態に襲われてるメルの方が心配だ!!」
「人の相棒を変態呼ばわりか……まぁ、間違いではないが」
拳を構えた男に合わせるように再び拳を握り直したシュレム。
彼女は男へとその拳を振り抜きながら――。
「早く行け!!」
リアス達を急かす。
「行かせるものか!!」
しかし、相手もそう簡単に行かせてはくれない……と、リアス達は思い、事実男はリアス達を邪魔しに来たのだが……。
「こっちは急いでるんだよ!!」
「ガキィィィィ!!」
シュレムは相手の道を塞ぎ邪魔をし、リアス達はその場を抜ける事が出来た。
「へっ……メルを迎えに行けないのは癪だけどなぁ……流石にリアスやライノの旦那じゃその拳は当たったら終わりだ……」
盾が無い少女はそれでも憶する事は無く……。
「さぁ、始めようか……」
ただただ笑みを浮かべるのだった。




