227話 精霊の感じた恐怖の先
雪道を進むメル達。
シルフとウンディーネの二人はやはりグラネージュの事は快く思っていないみたいだ。
メルは何故精霊同士に恐怖の違いがあるのだろう? と考えた。
しかし、本来それはありえない事でもあり……考えながら歩いて行くとグラネージュは怖くて先に進めないという。
対し、姿の変わった二人の精霊はそれを咎めるような事を言うのだった。
メルから見てもグラネージュは明らかに怯えており、決して嘘を言っている様には見えない。
しかし、シルフ達も嘘を言っている訳ではない。
属するものが違えど同じ精霊……嘘を言うはずないのだ。
『……あれ? 嘘?』
それを思い出しシルフは首を傾げる。
『……どういうことなのですか?』
感じる事が違う事にようやく気が付いた三人の精霊は困惑していた。
『……え? って……グラネージュは本当に怖いの!?』
それはシルフが声を上げる事で明確になり、グラネージュは震えながら首を縦に振る。
『へ、変ですね? 私達は何も感じません……そう言えば、確かに仲間も居ませんね』
ウンディーネも辺りを見回しつつそう口にした。
確かに彼女が言う通り他の水、風の精霊はどこにも見当たらない。
グラネージュは相当無理をしてここまで連れて来てくれたのが、メルには分かる位だ。
やっぱりこの二人だけが違うの? という事はやっぱり姿が変わったことが何か関係して……。
「…………」
『メル……』
メルは考え込むが不安そうな声を聞きはっと表情を変えると、その尻尾を大きく揺らしながら微笑む。
「大丈夫、この先だね? 後はまっすぐ行くだけだよね?」
そして、指を向けてグラネージュへと問うと……。
『ち、違う、そっちじゃなくてこっち……』
グラネージュは別の意味でその顔を引きつらせ指を向ける。
『ていうか……なんで今まで歩いてきた方へと指を向けるの? やっぱり怖いなら帰る?』
「ち、ちちちちち違うよ!? その……と、とにかくこっちだね?」
メルは顔を赤くしながら歩き始めたのだが……。
『メル! ですからそっちじゃなくてこっちだと言ってましたよ!?』
『そっちは全く違うよ! ついて来て!!』
二人の精霊にもそう言われ彼女はがっくりと肩を落とした。
『その……気を付けて……』
最終的には怯えていた精霊グラネージュにまで心配そうな顔をされて見送られたメルは尻尾を力なく垂らしつつシルフ達について行く……。
うぅ……情けないよ……。
そう思いつつも彼女はゆっくりとその双眸を前へと向け、魔物の正体を探るべく本来ならば精霊が怯える場所へと向かうのだった。
グラネージュと別れてから暫く歩いた所。
メルの目に映ったのは魔物……ではなく……。
「な、なにあれ?」
大きな屋敷だ。
それも誰が見ても真新しいものだった。
何故こんな所に? と疑問に思いつつメルは歩みを進める。
すると……。
「……っ!」
そこに何かがある事に気が付いた彼女は足を止める。
『メル?』
「罠だよ!」
目を凝らさなければ分からないであろう細い糸、それは近くの木々に括り付けられており、メルから見えない場所には恐らく別の物が括り付けられているだろう……。
その事に気が付いた彼女は……。
「こんな事ゴブリンとかならともかく、他の魔物が出来るはずがない……この先に居るのは人? それとも……」
ゴブリンならできる事は誰にでも分かるだろう……しかし、ゴブリンは巣穴を作り生活する魔物だ。
その巣穴に問題があるのならともかく、こんな所に居るはずもない、メルは更なる疑問に首を傾げた。
こんな目立つ屋敷が建ってるならもっと噂になっててもおかしくない。
それなのにそうなってないって事はやっぱり……。
この先に氷狼に関係する何かがあるんじゃ?
怯えていた氷精の事を思い出し、メルは屋敷を睨む……そして、他に罠が無いか注意深く確認し、足を踏み入れた。
その時――――甲高い音は辺りに鳴り響き、メルは驚き慌てて足を引っ込めようとした。
「へ!? きゃ!?」
すると先ほど見つけた罠の方にも引っかかってしまい再び大きな音は鳴り響く……そう、罠は二重になっていたのだ。
どういう理屈だろうか? そう思いメルは目を凝らしてみるが……。
「嘘……」
メルが見たのは先程目に見えた糸よりももっと細い糸。
最初の糸がわざと見つかる様になっていたと言う事にようやく気が付いた彼女はその場でどうすれば良いかと慌て始めてしまった。
『メル! 落ち着いてください!!』
「で、ででででも!?」
ウンディーネにそう言われてもメルはその場でおろおろとし、雪の上に何度も足を降ろす。
『ちょ!? メル、とにかく隠れよう!!』
シルフにそう言われようやく身を隠したメルだったが……。
「どこに行くんだ? お嬢ちゃん……」
身を隠したその場所に響く低い声……しゃがみ込んだメルは咄嗟に動く事も出来ず。
「……あ」
反応した時にはもう遅く……視界が揺れ真っ暗な世界へと変わっていく……。
『『メル!?』』
リアスが……リアスが居てくれたらきっとこんな事にならなかったのに……そう、メルは思い浮かべるのと同時に意識を失った。
意識を失い倒れた少女を見る大柄の男はニヤリと口元を歪ませた。
「ここを探りに来たのか? いや、まさかな……それにしても森族か……運が良い」
怪しい目つきへと変わった男はメルを抱え、彼女の剣は雪の中へと落ちる……しかし、武器には興味が無いのか、そのまま屋敷へと向かっていく……途中小さな小屋に繋がれてる狼へと目を向けると彼は再び口元を歪ませ……。
「そう睨むなよ、魔物もどき……お前にはまだまだ役に立ってもらうんだからな……」
そう言って笑い声を上げながら屋敷の中へと消えて行った。




