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224話 確認を酒場に

 氷狼を討伐するため、まずは装備をと飛び出したメル。

 だが彼女は筋金入りの方向音痴だ。

 当然迷う結果となり、通りすがりの人に道を尋ね、武具店までようやくたどり着いたのだった。

 装備を整えたメルは一旦、酒場へと戻る事にした。

 歩けば迷子になるリュミレイユ家と言っても、メルは精霊であるシルフやウンディーネが居れば話が別だ。

 彼女達に道を覚えてもらい案内をしてもらえばいいのだから。

 事実、メルは今度は迷うことなくブランシュの酒場へと辿り着いた。


「メルちゃん!」


 すると、ブランシュが青い顔をしメルの元へと近づいて来る。

 どうしたのだろうか? メルが不思議に思っていると……。


「良かった、変な所はナタリアに似なかったんだね」

「へ、変な所?」


 メルが思わず聞き返すとブランシュは何度も頷き……。

 どんな所だろうか? とメルは考える。

 すると、その答えはすぐにブランシュの口から露わになった。


「迷子癖……何度言っても近い距離で迷子になってね、ここに来るって言っても一向に辿り着かなくてケルムが慌てて探しに行ったことも何度もあるのよ」

「そ、そそそそそ……ソウナンデスカー」


 ナタリアはユーリ程ではないが、迷子になる。

 しかし、彼女は思考を読み取る力を持っており、街や村に居る人の中から目的地が一緒の人物さえ見つかれば迷うことなく向かう事は出来るのだ。

 つまり、酒場に行こうとした人物がたまたまブランシュの酒場へと向かうのではなく、別の場所へと向かったのだろう……。

 メルはそう何となく理解し、また迷子癖と言われ明後日の方向へと目を向けながら尻尾を丸め答えた。

 すると、ブランシュは瞼を半分降ろしメルをじっと見つめ始め……。


「そう言えばユーリも確か迷子になるって聞いたけど……」

「…………」


 そう、母の一人ユーリも迷子になる。

 しかも彼女の場合メルやナタリアの様に特殊な力は持っていても迷子をどうにか出来る物ではない。

 母フィーナの言う事ではよく迷子になっては泣いている。

 そんな事を聞く位には酷く、また……仲間達からは絶対に一人での行動をしない事を強制されるぐらいだ。

 本人はうっかりしている所がある為、今でもたまにリラーグの中で迷子になり、街の人々に送られてくる……なんて事も珍しくはない。

 普段ならメルにも仲間がいる為、迷子癖ぐらいは別にばれても良い。

 そもそも、精霊に道を覚えてもらえばいいのだから、メルはそれを克服してるとも言っても良いと思っていた。

 だが、依頼を受けるなら話は別だ。

 一歩外に出れば迷子になる。

 そんな人間に安心して依頼を任せる事は出来ない。

 そう思っていたのだが、メルは隠しているつもりでも顔に出てしまうという事も弱点であり……。


「そう、やっぱりあなたもなのね……はぁ、この依頼は受けさせられない……」

「ま、待ってください! その実は――!!」


 それではまた危険にさらされる人や精霊が増えてしまう。

 メルは慌ててブランシュに詰め寄ると、少し悩むそぶりを見せ会話を切り出した。


「ユーリママには内緒なんですけど、実は……私は精霊に景色を見せてあげることが出来るんです……それで、彼女達に道を覚えてもらって案内をしてもらったり……だから、その……初めての場所以外でしたら大丈夫……」

「……精霊? でも、精霊は危ないって分ったら逃げるんでしょ?」


 ブランシュの言う事は最もだ。

 恐らくケルムから聞いた情報だろうとメルは察したが、自身の近くに居るシルフとウンディーネの事を思い出し首をゆっくりと振る。


「逃げない精霊も中には居ます」


 それが特別な精霊だろうと分かってはいた。

 しかし、事実でもあるその言葉をメルはブランシュへと告げる。

 すると彼女は疑うような視線をメルへと送るが……。


「自分の身の事もあるんだし、嘘は言わないか……」


 ふぅっと息と一つ吐くとそんな事を呟き、真剣な眼差しでメルの事を見つめ――。


「じゃぁ、依頼内容を伝えるわね」

「は、はい!」


 ブランシュは地図を持ち、それを机に置き広げる。

 そして、一つの街を指差し……。


「これがこの街スノウガルド……そして、ここから……」


 つぅーっと指を動かし、湖らしき場所をとんとんっと叩く。


「今回氷狼(グラヴォール)が見つかったのは此処」

「……巣とかの予想は立っているんですか?」


 メルは気になった事をブランシュへと尋ねる。

 しかし、彼女は首を立てには振らず。


「全然……ただ唯一分かってるのは」


 再び指を動かし始め、それは山の方へと向かう。

 メルはしっかりとその指を追うと頭の上と肩からは『ふんふん』と何処か納得したような声が聞こえた。


「死んだほうの氷狼は此処に巣があって此処で彼に知恵を求める者を待ってた」

「じゃぁ、最初に目撃されたのは?」


 更なる質問をメルは重ね、答えを待つ。

 すると今度は湖の近くではなく、真逆の方へと指を向けるブランシュ。

 彼女はその次、その次と指を動かし始めたが……。


 ぜ、全部バラバラだ! それに街からもそう遠くない。

 これじゃ確かに皆が怖がってもおかしくないよ……でも、これだけ出てるなら何で……。


「なんでここまで放って置いたの?」

「……氷狼はこのフロム地方の守り神、それが戻って来たんだ。ほとんどの人間は神の怒りだってずっと言っていてね、手を出すのは躊躇われていた。だけど、このところずっとでね、流石におかしいって討伐体は出したけどね誰一人として……」


 戻って来なかった。

 そう続く言葉は飲み込まれ、メルは地図を睨みつける。


 氷狼……というにはやっぱりただの魔物みたいだよ。

 とにかく、おじさんが来てから時間が経ってるしこの地図から次に氷狼が出るような場所を予測しないと……。


「……ん?」


 メルはそう考えているとふとある事に気が付き地図を取りまじまじと見つめる。


「メルちゃん?」


 そして、そっと地図を置くと……ブランシュへと目を向け。


「氷狼はどの位の頻度で現れるんですか?」

「へ!? それは一度出てから大体……もう一度二、三日程度で別の場所に、それからは暫くは大人しくしてるよ」


 なるほど……つまり……。


「次は二、三日後ですか?」


 メルが何度目かになる質問をするとブランシュは頷く……。

 それを確認したメルは再び地図へと目を落とす。


 じゃぁ、次に出る場所は……恐らく、此処!


 そう思考を巡らせ地図に指を近づけた。

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