223話 装備を整えよう!
氷狼が人々を襲っている。
そう聞き、メルはそんなはずはないと考えた。
しかし、ブランシュ達が嘘を言っている様には見えない。
そして、よくよく話を聞いて行くとメルの中に疑問が生まれた。
相手は氷狼を名乗ったというが、誰一人戻って来てはいないという。
そう、最初にその名を聞いた者を除いて……。
「さ、寒い……」
依頼を受ける手続きは後にして、まずは装備をと外へと出たは良いがメルは後悔していた。
何か羽織る物ぐらいは借りてくればよかったと……。
しかし、時は一刻も争うだろう……かといって装備がまともにない現状で街に飛び出すというのは危険だ。
それを理解していた彼女だからこそ、先ずは防寒具と考えたのだが……。
「……ここ、どこ?」
そう、彼女一人では迷子になる。
その事をすっかり忘れていたメルは自分の身体を抱きしめながら辺りを見回す。
『勝手に飛び出すからそうなるんだよ!』
『そうですよ、あのお二人に道案内を頼めば良かっただけなのでは?』
メルが困っているのを見てそう言うのは精霊であるシルフとウンディーネだ。
姿の変わった彼女達はメルの傍から離れようとせず、ついて来ているみたいでシルフは定位置である頭の上、ウンディーネは服の中へと潜り込んでいた。
「で、でも急ぎだったみたいだし……早くしないと!」
メルが思わず反論をすると二人の精霊は大きなため息をつき目の前へと移動をする。
『メルが優しいのは知ってるけど!』
『それで無茶をするのは違います!』
二人は怒ったような表情を浮かべるが、見た目が可愛らしいせいかメルは思わずたははと笑みをこぼす。
しかし、怒っている二人は別で顔を合わせると更に眉を寄せ……。
『この前は私達が助けられたから良いけど』
『次も同じだとは限りませんよ!!』
もう助けないから! そう言っているかのような精霊はぷいっとメルからそっぽを向き、それにはメルは慌てて二人に向かって謝ろうと両手を合わせた。
「ご、ごめんね、もう二度としないから……」
そう言うとシルフは片目でちらりとメルを見た。
精霊である以上、見えるのはメルの景色だけだ……恐らくは怒った人のマネをしてるのだろうとメルは考えていると……。
『ユーリも前にそう言って同じ事した』
「ぅぅ……」
以前にも聞いた言葉を聞き、メルはうめき声の様な物を喉から出すと明後日の方へと向き――。
「ほ、ほら、あそこに優しそうな女の人が居るから聞いて見よう?」
『そう言って騙されたりしませんか? メルはお人好しですから』
「ぅぅ……」
ウンディーネにさえ忠告をされてしまったメルはがっくりと項垂れ尻尾を垂らす。
しかし、道は聞かない事には先に進めない。
そう考え……。
「み、道を聞くだけだから……」
そう言って先ほど目を向けた人の方へと歩いて行く……。
「あの……」
メルが声をかけるとその人は柔らかい笑みを浮かべ、メルの背に合わせるように膝を折る。
「どうしたの?」
やはり、優しい人だった。
メルは安堵しつつもすぐに信用してしまう事にそれじゃ駄目だと心の中で自身に叱りつつ、迷子になってしまった事、自分の目的を告げると……。
「そうだったの、じゃぁさっきのは精霊さんとお話ししてたんだね?」
「は、はい」
先程のシルフ達とのやり取りを見られたのだろう、顔を真っ赤にしたメルは頷き答える。
すると女性はうんうんと頷き……。
「良いよ、案内してあげる。こっちだよ」
「ありがとうございます!」
メルは彼女の好意に甘える事にし頭を下げるとついて行く……。
これで装備を買うことが出来る。
そう安堵していると近くからため息が聞こえ……。
『心配だよ……』
『心配ですね……』
二人の精霊はそんな事を呟いた。
勿論メルはこの人は大丈夫だよ! と小声で言うが、二人は更に心配そうにメルを見つめるだけとなった。
暫く歩いた所で女性は一軒の店の前で止まる。
そこには武器と防具が描かれた看板があり、間違いなくメルの求めていた店である事は分かった。
女性はメルへと振り返ると微笑み……。
「じゃ、私は此処で……気を付けて帰るんだよ?」
「ありがとうございました!」
メルは再び頭を下げ礼を告げると女性が去って行くのを見送ってから店の中へと入り、店主を探す。
「いらっしゃい!」
すると店主らしき人はすぐに見つかった。
丁度武器の手入れをしていたらしい男性はメルが入って来るなり、彼女の元へと近づくとにっこりと微笑んだ。
メルは彼の元へと近づくと――。
「あ、あの……ここって素材の買い取りなんかもしてますか?」
「ん? ああ、してるよ」
素材の買い取り、つまり宝石を売ろうと考えたからだ。
勿論、そう言った専門の店はある。
しかし、こういった店でもしてくれるところがあるのだ……それに売ったお金で商品を買うとなるとおまけをしてくれる店も多く、メルがこちらへと真っ先に来た理由がそれだ。
「じゃぁ、これを……それで売ったお金で防寒具や道具が欲しいんです」
メルがそう伝えると店主らしき男性は皺を深めより一層の笑みを浮かべた。
そして、メルから宝石を受け取ると……。
「うん、うん……これなら防寒具を買ってもおつりは出せる。どんな装備が欲しいんだい?」
そう言って一旦メルへと宝石を返してくれた。
それを受け取ってからメルは店の中を見渡し、一つの装備に目が付いた。
「……あ」
色や素材は違う、しかしどこかリアスの装備に似ている。
それへと引き寄せられるように彼女は近づくと……。
「おっ! それか? 見た目は女の子向きじゃないが、暖かくて凍える心配はない。うちのおすすめでもあるし、冒険者に人気の一品だ!」
メルを追って来た店主はそう告げる。
「勿論、お嬢ちゃんに合う物もあるはずだ。これが良いなら裏から持ってくるぞ」
「…………」
伸ばしかけた手はそこで止まり、そんなメルが思い浮かべたのはリアスの顔。
きっと無事だ、大丈夫……そう自分に言い聞かせると店主の方へと向き直り……。
「これでお願いします。それと出来れば道具の方は見繕ってもらえませんか? 使い方も聞きたいです」
「毎度……それ位任せてくれ、ちょっと待ってな」
返事に気を良くしたのか店主は嬉しそうにそう口にし、店の奥へと入っていく……。
メルはそんな店主とは別にその顔には不安の色が出ていたが……。
『『メル……』』
精霊達がメルを心配し彼女の名を呼ぶと、彼女はぎこちない笑みを浮かべた。




