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222話 氷狼

 宝石を貰い旅の準備を進める前にメルはブランシュへともう一度店を手伝わせてもらうように頼み込んだ。

 さぁ、酒場の仕事だ! そんな時……彼女達の元へとやってきた男性は……慌てていた。

 彼が言うにはすでに死んだはずの魔物である氷狼が居るという話だ。

 その氷狼は襲って来たというのだが……?

「詳しく話を聞かせてください……」


 メルは男性にもう数歩近づくと尋ねる。

 もし、本当に氷狼(グラヴォール)だとしたら聞いている話とは違うのだ。

 氷狼は普通の魔物とは違い、知恵比べが好きな魔物とメルは聞いている。

 どう考えても脅威になる魔物とは思えないのだ。

 また氷狼はこのフロムにおいて守り神とも呼ばれた魔物のはずであり、人々が怯える必要もない。

 だが、ブランシュと男性は襲ってきた魔物の事を間違いなく氷狼と言ったのだ。


「……奴が現れたのは数年前だ。奴はこの近辺に現れては手当たり次第に人を襲う……」

「それも、氷狼を名乗ってね……」


 でも、氷狼は……たしか……。


「メルちゃん、そんな顔をしてるって事は皆に聞いたのね?」

「……は、はい」


 また顔に出ていた事にメルは反省しつつ頷いた。

 ブランシュが言った通り、メルは氷狼の事でケルムに聞いた事があったのだ。

 タリムの王の呪いを解く方法をユーリに授けたのが氷狼……。

 そして、その氷狼は呪いに蝕まれていたのだ。

 動く屍となっていた事はフロムの人間は知らないが、その死体を処理するようにケルムが頼んでくれたのだ。

 恐らくはその死体を処理したのはケルムそして、ナタリア達を知っているブランシュが居るこの街の冒険者などで間違いないだろう。

 つまり、彼らは氷狼がもういない事を知っている。

 だからこそ……。


「氷狼はもう居ない……でも、氷狼を名乗る存在は……確かに居てこのフロムの脅威となって再び現れた」

「そして、俺達だけじゃない。氷の精霊も怯えてるって事だ……」

「グラネージュも?」


 いくら恐ろしい魔物と言っても精霊に直接害を与えるのは少ない。

 少なくともメルが知る限りでは片手でおさまるほどの種類と言っても良いだろう……。


 ……けど、ならなんでウンディーネやシルフは私を助けてくれたの?

 もし、精霊が恐ろしいと思う何かがあるならあの子達が逃げてておかしくない。


「…………」


 考えても理由は分からなかった。

 しかし、一つだけ分かることがあったのだ……メルが目を覚ました時そこにはグラネージュはいなかった。

 少なくともグラネージュは恐ろしいと感じ逃げたという事だろう。

 精霊が怖がる……それを聞いてメルは下した決断は……。


「私が何とかします! だからその魔物をもっと詳しく知る人はいませんか?」

「何とかってお嬢ちゃん! 俺は危険だから人を襲うと教えたんだぞ!!」


 男性はメルに頼む気はないのだろう、そう怒鳴り声を上げる。

 しかし、メルは意志を変える気はなくブランシュの方へと目を向けた。

 メルの尻尾はピンと立ち毛は逆立っており、その理由はともかく怒りを感じているのは誰の目から見ても分かった。


「教えたいけど、残念ながら知っているのはそれぐらい……氷狼に出逢った人は皆、身体の一部だけ帰って来るからね……」

「そんなっ!?」


 それでは普通の魔物と変わらない! メルはそう思いつつも言葉を飲み込んだ。

 そして、一つの疑問を思い浮かべた……。


「あれ? でも、それならなんで相手が氷狼だって分かるんですか? 名乗ったんですよね?」


 メルが訪ねると二人は顔を合わせはっとする。

 そう、死体となって戻ってくるのでは何を相手にしたのか分からない。

 しかし、相手は氷狼と名乗っている事は分かっていた。

 それが意味するのは少なくともそれを聞いた誰かが生きて戻ってきているという事だ。


「名前を聞いた人は誰なんですか?」

「いや、それが……」


 もしかして分からないのだろうか? メルはその事も疑問に思いつつ首を傾げ尻尾を揺らす。

 すると彼女の疑問に答えたのはブランシュだった。


「旅の人……今は街にもう居ないけど、氷狼を名乗る魔物に仲間を喰われたってここに来たの……血塗れでね」

「なんかおかしいな……あれから誰も戻って来たことが無い」


 この街の人ではない。

 メルはその事が気になりつつ、魔物を倒すのではなくその正体を探ろうと思い立ち。


「やっぱりこの依頼は絶対に受けます……」

「ええ、やっぱりあなたに頼んだ方が良さそうね……どう? この子は私達が気が付かなかった事に気が付いたみたいだけど?」


 今度は違和感に気が付いたからか、男の方も言葉は無くとも頷きメルに頼む事を決めた様だ。


 メルはそれを見て「はいっ!」と元気よく返事をするとすぐに尻尾を大きく揺らし、考え始めた。


 氷狼と言うのは嘘……これは間違いない。

 誰かが氷狼を名乗って悪さをしてるのか……それともまたキメラが生み出されてるのか……。

 とにかく、この街の人や精霊にとっても悪いことが起きてる。

 それだけは間違いないよ……何とかしなくちゃ!!


 そうメルは一人意気込み、暫く考え事を続けていたが何かに気が付いたように表情を変えると慌ててブランシュへと告げる。


「あ、あの! 私が居ない間、エスイルの事!!」


 そう言うとブランシュはメルが何を言いたいのか気が付いたのだろう、すぐに笑みを浮かべ、手のひらを迫るメルへと見せる。


「大丈夫、ちゃんとお世話するから、ね?」

「あ、ありがとうございます!!」


 メルは彼女に感謝の言葉を告げるとまずはエスイルにその事を伝える事と装備を整える為に昨日貰った宝石を取りに向かうのだった。

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