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220話 ブランシュからの提案

 ブランシュに仕事を貰ったメル。

 それ自体は良かったのだが……。

 メルは仲間達が心配になり普段はしない失敗を繰り返す。

 見かねたブランシュはメルに休むように言い……彼女は仕事から外されてしまったのだった。

 翌日、メルはエスイルの食事を終わらせるなり、すぐにブランシュの元へと向かった。

 一応は謝ったもののやっぱり、もう一度謝っておこうと思ったからだ。

 勢いよく厨房へと駆けこんだメルを見て、店主であるブランシュは驚いたように目を丸め、振り返る。

 

「メルちゃん?」


 そして、彼女の名前を呼び首を傾げた。

 メルは今は怒っていない事にホッとしつつも頭をさげ……。


「昨日はごめんなさい!」


 謝罪の言葉を告げると、一瞬の間を置きブランシュは笑い始めた。

 メルは何が起きているのか分からず、目を丸くし……尻尾を不安そうにゆらゆらと揺らしながらブランシュを見る。

 そこには昨日とは違う優し気な女性が居るだけだ。

 彼女はひとしきり笑うと……。


「もしかして、自分が怒られると思ったの?」

「ち、違うんですか?」


 不安そうに尋ねるメルに向かって頷いた店主は言葉を続ける。


「確かに失敗の連続でこっちは困った。でも、お客さんを怒らせてはいないし……何よりあの二人にメルちゃんの不安に繋がる様な事を言わない様にって言っておいたのに駄目だったわけだか、らこっちの責任だよ」

「へ?」


 予想外の返答にメルは目を丸くし、呆けた声を出す。

 失敗をしたのはメル自身、いくら仲間の危機があったとしてもそれはそれ、これはこれのはずだ。

 そう、メルの不安は関係ないのだ。


「だって、あのナタリアの孫でしょ? 一度心配になったら、ずーーーーーーっと考えて、上の空。ありえなくはないからね」

「え? え?」


 確かに祖母は心配性だ。

 その所為で昔、母ユーリが祖母ナタリアの呪いを解くと言った日には魔法の源でもある魔紋、それが刻まれた右腕を奪おうとしたぐらいだとは話に聞いた事がある。

 勿論、その後の対処は考えていたとの事だったが、例えリスクがあっても魔法を奪えば余計な事はしないと考えた位には心配性なのだ。


「この街は昔は村だったんだけど、その時にケルムが来てね。心配だからって屋敷を立てる程だったの、もし住む場所が無いなら住めばいいとか言われたらしいよ」

「そ、そうだったんですか……」


 確かにフロム地方にナタリアの屋敷がある事を聞いていた。

 しかし、それを作った理由などはもちろん知るはずもないメルは引きつった笑みを浮かべる。

 流石に子供でもない人の為に屋敷一つ建てるとは思わなかったのだ。


「だから、メルちゃんも仲間の方を気にしちゃうと思ったんだけど……予想通りだったね」


 ブランシュはそう言うとメルとメルではない誰かを見ている様で……。

 彼女は近くにあった机に置かれた物を指差した。


「あれは?」

「昔、ナタリアが置いて行った物。ケルムが世話になってるって理由でね……どう使おうか迷ってたけど、貴女にあげる。売ればかなりの金額になるはずだからね」


 そこに置かれているのは見た事もない剣や宝石。

 まさかマジックアイテムだろうか? そんな事を考えつつも近づいてみると……。


「ナ、ナタリア……」


 余程心配だったのだろう、宝の山から見つかったケルム宛の手紙が十を超えていた。

 祖母らしい、そう思いメルは思わず苦笑したが改めてその場にある物を見るとやはりどれも高価な品だということが分かる。


「これは……もらえません」


 一度祖母がブランシュへと渡したものだという事ともし何かあったら、これはきっとブランシュの役に立つ。

 そう思うとメルは貰う事を躊躇い、そう口にした。

 そんな彼女の想いを知ってか知らずか、ブランシュは微笑むとメルの方へと手を置き……。


「確かに高価な品物だよ、私もナタリアにもらった時はいらないって言ったぐらいね……でも、正直貴女がここで働いても仲間を助けに行けるのはどのぐらいかかるか分からないよ?」

「……え?」


 メルはブランシュの言葉に思わず呆けた声を返し、尻尾を大きく揺らす。

 働けば当然賃金が貰える。

 それで装備を買えば仲間を探しに行ける。

 メルはそう考えていた……しかし、現実と言うのはそう簡単に行くわけではない。

 ブランシュはゆっくりと口を再び動かし……。


「あのね、うちも酒場だから滞在にはお金が必要。今はあの小さい子を追い出す訳にはいかないし無料で泊めてあげてるけど元気になったらそうはいかない。そうなったら稼いだ分から引かせてもらう事になる」

「…………あ」


 メルは言われて初めて気が付いた。

 いや、寧ろなぜ今まで気が付かなかったのだろう? と考える程の簡単な理由だったのだ。

 ブランシュの言った通り、今は好意で泊めてもらっているに過ぎず、本来はお金がいる。

 メル達には大した蓄えもない……店主の言った通り、給料から引いてもらう事になるのは当然だ。


「手伝ってもらっておいてなんだけど、こればっかりはね……元気になったら言おうと思ってたんだけどね。その様子じゃやっぱり気になるでしょ? それをお金に変えて身支度を先に整えておいで」


 メルは目の前にある宝の山を見つめるが、なかなか手が出ず困ってしまう。

 ただでさえ、厚意に甘えていて更にこれを貰うとなると気が引けた。

 いや、そうでなくとも目の前の物を受け取るなんて事は彼女は躊躇するだろう……。


 バルドおじさんなら遠慮なく持っていきそうだけど、私には無理だよ……。


 金にうるさい血の繋がらない叔父を思い出しながらメルはわたわたとし始める。

 すると、ブランシュは笑い声を上げ……。


「大丈夫、それにいくらなんでも全部は持って行かないでしょ?」

「そ、それは……そうですけど……」


 寧ろ必要だと理解しつつも一個も手を出せないで困っているメルはもごもごとしつつ答える。

 するとブランシュは溜息をつき机の上にある宝石をいくつか掴むと……。


「ほら、これなら小さいし気にならないでしょ?」


 とメルの手の上にそれを乗せる。


「で、でも!」

「うちの冒険者も使ってるんだ、このまま仲間を忘れて滞在してくれるなら店でも雇えるけど、ああ何度も失敗されても困るよ?」


 全く怒った様子ではない声にメルは押され……今度失敗したら怒られるのではないか? と考える。

 それにリアス……仲間達の事を忘れるという事は彼女には出来る事ではない。

 メルは申し訳なさそうに尻尾を丸め、耳を垂らすとブランシュを見上げるように視線を動かし……。


「あ、ありがとうございます」


 礼を告げるのだった。

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