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217話 冒険者見習い酒場を手伝う

 準備とは服の用意の事だった。

 丈夫で汚れても構わないという服は可愛らしくメルははしゃぐ。

 そして、いよいよ酒場での仕事が始まるのだが……。

 どうやら暴れる者が出た時の対処はメルへと任せるとの事だ。

 冒険者じゃなくて、冒険者見習いなんです。

 そう口にしたかったメルだったが、その後すぐに仕事が始まった。

 その結果、言い出すタイミングを逃した彼女は内心、大丈夫だろうか? と考えつつも作業をこなす。


 机を拭き、床を磨き綺麗になった所で昼の客を迎えるのだ。

 その間もどうにか見習いである事を告げようと思っていたのだが……。


「言う、時間が無いよ……」


 他の3人も勿論、仕事をしておりとてもじゃないが言い出せなかった。


「し、仕方がないよね、依頼を受けたら見習いなんて関係ないし……」


 メルは諦めたように呟くが、本来見習いとはそれほど難しくない依頼をこなす。

 危険度が高い物は優先的に母達や熟練の冒険者に任せているのだ。

 幸い今回は魔物を倒すとかではなく、酔っぱらいの対処。

 メル一人でも出来なくはない。

 そう考える事にし、一人意気込むと……。


「メルちゃん、終わった?」

「あ、は、はい!」


 調理の仕込みが終わったのだろうか? ブランシュが顔を出しメルは今なら言えるのではないか? と考え口を動かそうとする。


「じゃ、こっちも終わったしエスイル君にご飯、食べさせてあげなよ」

「その……はい、ありがとうございます」


 エスイルの名を出され、口をパクパクとさせたメルは頷き、ブランシュから食事を受け取ると部屋へと戻っていく……。


 だ、大丈夫……お店の護衛なら、前に見習いの人がやってたし……私にも出来る事。

 だから、大丈夫……。


 何故こんなに緊張しているのだろうか? 不安なのだろうか? そう思いつつ部屋への道を歩いていたメルだったが……ふとある事に気が付いた。


「あ……」


 それは凄く単純な事だった。

 しかし、それ以外不安になる要素が思い浮かばなかったのだ……。


「そっか、リアスが……皆が居ないから……」


 そう、彼女はこの旅が始まってからずっとリアスやシュレムと一緒だった。

 ましてや旅立つ理由がリアスを助けるためだったのに彼に助けられたことは何度もあった。

 エスイルが居る事は変わりがないが……。


「……皆無事かな?」


 不安を振り払うように呟き、仲間達の顔を順に思い浮かべる。

 最後にリアスの顔を思い浮かべたところで耳と尻尾は垂れ下がり、メルは扉の目の前で足を止めてしまった。

 それだけではない目頭は熱く……涙がこぼれかけていた。

 ウンディーネは無事だと言った。

 しかし、メル自身が確認した訳ではない、彼女の言う通り逸れた所までは無事でもメル達がそうだったように危険な目に遭っていないという事は無い。

 そう考えると押さえていた不安は一気に押し寄せてきたのだ……。


 食事を持つ手が震え、その場で崩れそうになる足を何とか保っていた彼女は遠くから聞こえた物音にびくりと身体を震わせる。

 何気ない生活音、それに反応した彼女はぶんぶんと頭を振ると部屋の中へと入った。


「エスイル、ご飯だよ!」


 声が震えない様に気を配った声。

 しかし、エスイルはメルの方へと向くと心配そうに表情を変えた。

 それを見て、メルはリアスに言われた事……「表情に出る」というのを恨めしく思いつつ……。


「さ、食べさせてあげるね?」


 机をベッドへと近づけ食事をそこへ置くとエスイルの上半身だけを起こし、スプーンで口元へと食事を運ぶ。

 暫くメルの様子を窺っていたエスイルだったが、空腹には耐え切れなかったのだろう……。

 ゆっくりとだが、一口、一口と食事を胃の中へと納めて行った。

 ブランシュの作る食事は余程おいしいのか、夢中で食べていく弟を見てメルは微笑ましく感じ、ようやく柔らかな笑みを見せる。

 すると、エスイルも微笑み……小さな声で……。


「大丈夫だよ……リアスお兄ちゃん達強いから……」

「――――っ!」


 その言葉を聞き、メルは耳と尻尾を一瞬立たせる。


「メルお姉ちゃんだって知ってるでしょ?」

「……そう、そうだね……」


 エスイルの言葉に涙声で答えたメル。

 弟と思っている少年は仲間の無事を信じている。

 不安だろう……怖いだろう……しかし、しっかりと口に出し、信じている。

 それどころか、メルを励まそうとさえしているのだ。


 心配されちゃうなんて……エスイルも……男の子なんだなぁ……。


 メルは心の中でそう呟くと空になった食器を机の上へと乗せ……音が出る程度に自身の頬を軽く叩く。

 そして……。


「ごめんね、エスイル……もう、大丈夫。お金が集まったら私達も探しに行くんだから、こんな所で泣いてられないよね?」


 そう口にすると、エスイルも頷き……。


「うん! 僕も頑張る!」

「エスイルはしっかりと休むの」


 意気込む少年の鼻に嗜めるように指を突きつけたメルはくすりと笑うと立ち上がり、食器を手に扉へと向かう。

 扉を開ける前に振り返り……。


「じゃ、ちょっと行ってくるね!」


 エスイルに告げるとブランシュの待つ調理場へと向かうのだった。

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