212話 風と水の精霊
メル達が倒れてしまった。
精霊ウンディーネはこのままではメル達が死んでしまうと焦る。
大粒の涙を流す精霊はもう一人の精霊シルフと協力し彼女達を守るため氷の家を作るのだった。
「…………んぅ」
暖かい……僅かに回復した意識でメルが思い浮かべた事はそれだった。
「冷たい……」
だが、地面は凍えるような冷たさも感じた……。
なのにどこか暖かさも感じる事に疑問を浮かべた彼女は何とか瞼を持ち上げると、そこには心配そうに顔を覗き込む精霊達が居た。
「ウンディーネ?」
一人は姿が変わった精霊ウンディーネ。
そして、もう一人は見間違えるはずがないが……。
「シ、シルフ?」
メルが知っている顔だが、ふだんは薄いワンピースを着ているはずのその精霊はより活発な少年の様な服へと変わっている。
それだけじゃない、今までは無かった4枚の羽根がありその姿はまるで……。
おとぎ話に出てくる妖精?
そう、シルフの姿は冒険者を導く存在であったり、人を惑わす者である妖精そっくりだった。
前者であればいずれは勇者と呼ばれる者に付き、後者であれば心無い悪戯で死に至らしめる。
彼女が普段一緒に居る相棒シルフでなければメルはすぐに警戒をしただろう……。
それほど似ていたのだ。
『ん? わぁ! 服が変わってる!!』
だが、精霊シルフはメルのそんな考えを知るはずもなく、姿が変わったことに驚きの声を上げていた。
その様子を横に居た精霊ウンディーネも目を丸くし見つめているが、シルフは嬉しそうに辺りを飛び交う。
そんな彼女をメルは目で追っているとある事に気が付いた。
「ここは何処?」
辺りの景色は全く見えず、氷の様な白い壁で自分達は覆われている。
閉じ込められてしまったのだろうか? そう思い不安に思いつつも辺りをくまなく見渡すと、どうやら空気を取り入れる穴はある様だ。
『私とシルフでここを作りました』
「そっか、そう……」
だったんだね。
そこまで言いかけてメルは口を閉ざし、固まった。
ありえないのだ、此処に精霊の力を使えるのはエスイルしかいない。
だが、メルはエスイルが倒れた事は目にしていた。
じゃぁ誰が?
今まで精霊召喚が出来なかったメルもアクアリムの力でウンディーネから力を借りれる事が分かった。
しかし、その方法も気を失っていては無理だ。
『ただ、ちょっと疲れてしまったようです』
「……え?」
メルが考えているとそんな言葉が聞こえ、慌ててウンディーネの方へと目を向ける。
すると彼女はメルの方へと寄って来て服の中へと潜り込むと……。
『なんだか、勝手に瞼が落ちてくるんです、かくんって……なるんです』
そう言ったのを最後に水の精霊は可愛らしい寝息を立て始め……。
『そう言えば私もなんだか……』
はしゃぎ回っていたシルフもメルの頭の上で同じように寝息を立て始めた。
「精霊が寝た? そんな、今まで一度も……」
メルはこれまでに一度も精霊達が本当に寝ている所を見た事は無い。
その事に驚きつつも、まだエスイルが起きていない事に気が付いた彼女ははっとしエスイルを凍えさせない様にと抱きしめる。
ウンディーネとシルフの事は気になる。
姿が変わってしまい、身体に異常が出ているのは寝るという行動からも見て取れたからだ。
だが、メルは自分に解決できる問題ではない事も理解出来た。
「ユーリママが居てくれれば……ソティルの力でどうにかしてくるかもしれないけど……」
だが、現状を打破してくれるだろう母はそこには居ない。
仲間も散り散りになってしまった。
それだけではなく、エスイルさえ倒れ意識が無い……メル自身は何とか意識を取り戻したがウンディーネ達が作ってくれたこの家を出る事は出来ない。
一歩外に出てしまえばまた同じことの繰り返し……それがもう分かっていたからだ。
それに……。
「日が傾いて来てる。このままじゃもっと寒く……」
早く街に着かなければっと焦る気持ちもある中、それは冷静ではないと考えたメルは……。
「ここって火を焚いても大丈夫なのかな?」
そう呟くと地面に積もった雪をどかし始め、土を露出させる。
そこに残っていた枯れ木を淹れ、詠唱を唱えると心臓はバクバクと張り始めた。
もし、氷が解けたらどうしようか? それこそ急いで街に行かなくてはならない。
しかし、道案内をしてくれていたグラネージュの姿はない事から向かう事は困難だろう。
でもこのままじゃ凍えちゃうよね……。
そう心の中で呟いたメルは意を決死ってフレイムボールと口にすると枯れ木に火をつけるのだった。
「……」
ゆらゆらと揺れる炎を見て安堵を感じたメルは周りに変化が無いかを十分に確認しつつ再びエスイルを抱き寄せると……。
「これから、どうしたら良いんだろう……」
どうしようもない現状に対し、不安の声をもらす……。
だが、先程の事を考えると安易に外に出るものではない。
現状ろくな装備も無しに雪道を歩く事は自殺行為だという事は十分に理解出来た。
「ここで助けを待つしかないよね……」
メルは助けが来ることを祈りつつ枯れ木をくべる。
この時彼女は気が付かなかったが、この氷の家の天井には穴が開いており、煙はゆっくりと立ち上っていた。




