211話 倒れたメル達
服を乾かしたメル達はすぐに洞窟を出て街へと向かった。
街は意外と近かったのだ。
しかし、寒さは確実に二人の体力を奪っており……。
二人は倒れてしまうのだった。
メル達が倒れてしまった銀世界……。
ウンディーネは慌てて辺りに人が居ないか確かめようと辺りを見回すが、肝心の瞳はメルが倒れているため意味を成さない。
視界を失った精霊はどうする事も出来ず、がっくりと項垂れ……。
『メル、メル!』
少女の近くにより名を呼ぶも起きる気配もない。
このままでは人間であるメルは死んでしまうだろう、その事を理解したウンディーネは――。
『何か方法はないんですか!?』
もう一人の精霊に尋ねるが、グラネージュはいつの間にかその場から居なくなっていた。
『そ、そんな……』
辺りは雪……氷の精霊であるグラネージュが居なくなるという事は無い。
先程まで一緒に居た事から危険な場所ではないはずだ。
それでもグラネージュが去った理由……それは恐らく危険だと判断する何かが近づいて来ているという事だと考えたウンディーネは……。
思わずその場から逃げたいと思うよりも早く必死にメルにしがみつき助けなければと考えていた。
だが、周りの隠れていただろう水の精霊ウンディーネ達は逃げて行っているのは感じた。
しかし、彼女一人だけはそこに留まり……。
『なんで……メル達が大変なのにシルフが居ないんですか!?』
混乱しつつもいつも仲良さそうにメルと一緒に居た精霊の名を呼ぶ。
しかし、風の精霊は何も答えず……その場にシルフが居ないせいなのか、それともグラネージュが居た場所であるからかそこには冷たい風だけが吹く……。
一人残った水の精霊は一粒の涙を流しつつ自分が無力である事を嘆く……。
何故もっと早くメル達を助けられなかったのか? 何故この大陸へと運んでしまったのか? 何故自分はこの状況を変える手が無いのか……。
自分が水ではなく火の精霊であったならば良かったのに……そうとさえ思った精霊は冷たくなっていくであろうメル達を何も捕らえることが出来ない瞳で見る事しか出来ず。
『メル……』
少女の名を呼び……ぽろぽろと大粒の涙を流す。
その時――。
『ウンディーネ! 水で膜を張って!!』
聞き覚えのある声が辺りに響き……思わず顔を上げると涙は玉になって辺りに舞う。
『…………シルフ?』
『早く! 何かが来るメル達を隠すよ!!』
姿を見ることはできない、だがそこに間違いなくシルフが居ると確信したウンディーネは頷き、動こうとする。
しかし……。
『でも、メルもエスイルも倒れてますよ!? どうやって助けるんですか!?』
そう、冷静になって考えてみれば無理なのだ。
いくら水を司る精霊と言っても森族の声を借りるか、それによって実体化させてもらわなければ本来の力は扱えない。
だからこそ、ウンディーネ達精霊は世界を支える存在であっても、弱い者達だった。
それは同じ精霊であるシルフも同様だ。
彼女の考えではウンディーネが水でメル達の周りを囲み、冷たい風で凍らせるつもりなのだろうが倒れている二人の力を借りてもそれは難しい。
後一人、氷を司るグラネージュが居れば話は変わるだろうが、今はここにおらずそもそも肝心の二人は倒れている。
ましてや、精霊二人を同時に実体化できるほどの力を持つ森族など稀だ。
しかし、帰ってきた返答は……。
『ウンディーネはメル達をどうやって運んだの?』
『そ、それは必死で……あまり、覚えてません』
その時の事を思い出そうとしても口にした通り覚えていなかった。
ただ剣にくっ付いていたらメル達が落ちてしまい、龍に怯えながらも助けなければと思っただけだ。
『私も必死だったよ? そうしたら海が荒れ始めた! 風も使えた、だから……いつもみたいにすればきっと使えるはずだよ!』
シルフの根拠のない言葉に困りつつふと気になる事があった。
『風も使えた?』
どういう意味だろうか? 分からず涙にぬれた顔を傾げるウンディーネだったが……。
『早く! もう時間が無いよ!!』
『――――っ!』
シルフの言葉に焦りの色が見え、ウンディーネは彼女の言う通り水の膜を張ろうと試みる。
だが、そこに水があるとすれば水袋の中に入っているものと何故か安心できるアクアリムと言う武器だけだ。
出来る訳がない、そう思っていた彼女だったが……。
『……え?』
本人も驚いたが、地は震え辺りからはメル達を覆い囲む様に水が噴き出る。
温泉などではない、冷たい凍えるような水だ。
何故力を使えたのだろうか? そう思いつつもウンディーネは水を操り半円状にメル達を囲むと傍に誰かが居る事を感じ――。
『後は任せて!!』
傍に来た彼女はそう言うと辺りに冷たい風を吹かせ始めた。
すると、音を立て水はどんどん固まっていく……その様子は目が見えないウンディーネにも分かり……水はあっという間に一部を除いて凍り付いた。
『…………』
シルフとウンディーネは互いに目を合わせるかのように顔を動かす。
そこに居るのは分かっていたから出来たことだ。
彼女達は少し暖かくなったその場所でメル達の傍へと寄ると――以前自分達を救ってくれた時の様にメル達を助けてほしいと願うのだった。




