210話 街へ
ウンディーネとグラネージュ。
二人を従え暖を取る為にメル達は洞窟の中に入る。
メルはグラネージュにこの辺りに街があるかどうかを尋ね、服が乾いたらそこに行こうと告げるのだった。
そんな中、メルがユーリに似ていると言われ、エスイルはメルの母がユーリだから当然だという。
それを聞き、グラネージュは変な勘違いをしてしまうのだった。
しっかりと服を乾かしたメル達はグラネージュの案内で近くの人里へと向かう。
『それで、私は名前をもらったの』
どこか誇らしげに自分の事を話すグラネージュ。
それをウンディーネは頷いたりしながら合いの手の様に呟いていたりしていた。
メルはその二人の様子を微笑ましく思いつつ、聞いており幾つか分かった事があった。
まず、今いるここはメルン地方から近いフロム地方と言う事だ。
それ自体は薄々分かっていた事ではあるが、飛龍船で上から見る景色でしか知らない地方だったその場所にメルは初めて降り立ったため、グラネージュとは交流が無かった。
二つ目はグラネージュが話す所が意外と近いという事。
そして、その街にはケルムだけではなくナタリアを知る人物がいるとの事だ。
三つ目は外れの屋敷……。
そこはグラネージュにとって特別な場所らしく、何度か足を運んでいるみたいだがどうやらある時を境に怖くなり、近づかなくなったとの事だった。
その三つの情報を聞いた後、グラネージュは自身の出生について話し始め、現在に至るという訳なのだが……。
その屋敷ってナタリアの屋敷の事だよね?
メルはそう思いつつ嘗てフロム地方にあったという屋敷の事を考えていた。
ナタリアの転移魔法によって繋がれた屋敷であり、リラーグへと移る時捨てたあの屋敷と同じ物……。
フロム地方にあるというのは聞いてはいたが、そこをどうしたとは聞いてなかった。
また、ナタリアだけではなくユーリ達もそれを言わなかったため、メルもあえて聞かなかったのだ。
しかし、精霊が恐がっているとなると気になってくる物がある。
精霊は自分に適した住処ではない場合、そこが気に入らず去る事はある。
だが、脅威になるような事はあまりないのだ。
その精霊が恐怖を感じ近づかなくなった場所……メルはそれが気になり……。
見てみた方が良いかな? でも、皆との合流も……それに分からない事はまだあるし……。
迷うメルの瞳が捕らえるのは精霊ウンディーネ。
海辺とは違い大きな川も無くともメルの傍から離れようとしない。
水筒は持っていたことから居る事自体は不思議ではないのだが……。
どうして、急に姿が変わるんだろう?
何か悪いことが起きてるようじゃないみたいだけど……。
ウンディーネの様子を見てもニコニコとしているだけで苦痛等はなさそうだという事は分かる。
しかし、精霊は生まれた時から姿が変わらない。
いや……。
私が見たのは同じ姿の精霊。
もしかして子供時代とかあるのかな?
今まで目にしたことが無いだけで本来はちゃんと子供等の時期があるのだろうか? メルはそう考えたが……。
でも、グラネージュは誰だか分っていなかった。
つまり……少なくとも今の姿は本来のウンディーネとは違うって事だよね?
そんな風に見つめていると当然ウンディーネは自分が見られている事に気が付いたようで、きょとんとした顔をメルへと向けると……。
まじまじとメルの方へと目を向ける。
そして……。
『わ、私の姿が変わっているみたい……ですね?』
慌て始めた水の精霊はメルの服を掴むようなしぐさをすると少し引きつった笑みを浮かべる。
『「「今気が付いたの!?」」』
気が付いていなかったことに驚きつつメル達は声を揃える。
すると驚いたのだろうメルの服へと隠れたウンディーネを見てメルはふと思い出す。
そう言えばウンディーネって怖い事があるとすぐ服の中に隠れてたよね?
不安……なのかな?
「大丈夫?」
『は、はい……ただ、少し驚いてしまっただけです』
ひょっこりと顔を出すウンディーネは何処か可愛らしく、メルは思わず顔をほころばせる。
そしてウンディーネに不調が無い事にほっとした彼女は――。
「分かった、でもなにか変だったらすぐに言ってね?」
ウンディーネへとそう伝え、瞳を持ち上げるとまっすぐ前を見据える。
そこは一面真っ白な世界……息を吸えば冷たく、吐けば湯気の様な物が出る……今はまだ日が昇っているが、問題は山積みだ。
どうやってリアス達と合流するか? 船員や乗客は無事なのか? ルーフへはどう行くか?
そして何より……。
我慢できるような寒さじゃない、早くその街に着かないと……私達の身体が動かなくなっちゃうよ。
慣れない寒さの上、当初寄る予定ではなかったフロム地方の為、装備には防寒の為の物は無かった。
だからこそ、日が高い内にと服が乾いたらすぐに出てきたのだが、思いのほか寒くメル達の体力を奪っていく……。
エスイルも今はまだ強がってはいるようだが、それが持つのも時間の問題だろう……そう考えていた矢先のことだ。
突然横を歩いていたはずのエスイルはがくりと膝が折れたようでメルは少年の方へと目を向ける。
するとその顔は真っ蒼になっており、がたがたと震えていた。
いや、震えていたのは知っていた、自分だってそうだったのだから……。
やはり、洞窟から出て街に向かうのは無茶だっただろうか、そう思いつつメルはエスイルを抱く。
「エスイル……」
「…………だ、大丈夫だよ」
大丈夫と呟いた少年にグラネージュやウンディーネも心配そうな顔を浮かべ近づき、気遣っている様だ。
メルは一刻も早く街に着かなければと考え、エスイルを抱き上げると一歩、一歩と歩を進める。
「メルお姉ちゃん……」
「すぐに街に着くからね?」
考えないようにしていた。
だが、それは間違いだった……その事に気が付いたメルは自身を責め、それでも近くに暖を取れるような場所が無い事に歯がゆさを感じ、最早街に着くしかないとその身体を引きずってでもつこうと考えた。
しかし――。
難破をし、突然雪国に放り込まれた彼女の体力もまた……確実に奪われており……その膝はメルの意志に反しがくりと地へと着くのだった。




