209話 ウンディーネとグラネージュ
メルが目を覚ますと其処は雪国……。
傍にはエスイルだけしかいなかった。
不安を感じる彼女の目の前に現れたのは姿を変えた水の精霊ウンディーネ。
そして、ケルムの名を知る精霊グラネージュだった。
洞窟の中で火を焚き、暖を取りつつ服を乾かすメルとエスイル。
そんな二人について来た精霊二人は楽しそうに会話をしている。
こんな状況だというのにメルはその様子を見てどこか心が軽くなった気がした。
少なくともリアス達は無事。
本当は他の人達の事も知りたいけど……それよりも今は……。
メルは弟へと目を向ける。
そこには薄着になった少年が若干顔を赤らめつつ、慌ててメルから目を逸らした。
どうしたのだろうか? メルは首を傾げつつ……。
「ほら、エスイル……寒いからこっちおいで?」
「い、いいよっ!」
メルの言葉にそう答えたエスイルは相変わらずそっぽを向いたままだ。
また不機嫌にでもなってしまったのだろうか? メルが心配していると……。
『きっと恥ずかしがっているんですね』
『そうだね、男の子だもんね!』
ウンディーネとグラネージュの二人はメルにこっそりと話したつもりなのだろう。
しかし、エスイルは兎の森族の血を継いでいる。
慌てて振り返ると真っ赤な顔を更に赤くし……。
「ち、違うから!!」
と反論をする。
その様子がおかしかったのだろうか? 二人の精霊は可愛らしくころころと笑い始め……メルは首を傾げる。
「恥ずかしいって、その……姉弟みたいなものだし、気にしなくても大丈夫だよ?」
そしてそう告げると今度は頬を膨らませたエスイルは再びぷいっっと顔を背ける。
なにか気に障る事を言っただろうか? メルは再び首を傾げるも思い当たらず……。
「もう……風邪ひいてからじゃ遅いんだよ?」
心配したメルはエスイルの後ろへと移動すると座り込み、両手を前へと回す。
「ぅぅ……」
流石に振りほどくのは躊躇われたのか少年は唸り声のようなものをあげ、その顔を地へと向けた。
「服を乾かしたら、この近くの街に行こう?」
まるで湯気が出そうなぐらい、赤い顔をしたエスイルにそう言うと少年は首を縦に振る。
それを見てからメルは精霊達の方へと目を向け……。
「グラネージュ、街の場所は分かるかな?」
『うーん、どうだろう? 元々見える訳じゃないし……でも生き物が沢山いる所は分かる』
彼女の答えはメルの予想内の事だった。
精霊は景色を見ることはできない、また森族以外の人がいる事も分からないのだ。
しかし、それでも彼女に尋ねた理由……それは……。
「じゃぁ、そこに誰か話せる人、居るのかな?」
『うん! ケルムともそこで出会ったんだよ、いきなり結婚しようとか変な事言われたけど』
「そ、そうなんだ……」
メルは引きつった笑みを浮かべ、エスイルを抱く腕に力を込める。
精霊でも女の子なら良いんだ……そう言えば、良くリラーグでも小さい子やお婆ちゃんにデートをしようとか言ってたし……。
『良いか? 俺がオバサンって言うのは迷惑極まり無い奴だけだ! それ以外は皆女性で女の子だ!』
とか、胸を張って言ってたのを思い出しちゃった……。
メルはその事を思い出すと思わずくすりと笑ってしまう。
女性とあらば誰でも声をかける彼の行動は迷惑極まり無い物ではないのだろうか? だが、見た目や年齢を関係としないのは彼らしいと考えた彼女は今はそんな場合ではないと考え頭を振り。
「じゃぁ、後でそこに案内してくれる?」
『勿論!』
グラネージュは頷き、メルは微笑む。
初めて会う精霊だメルの願いを断る可能性だってあった。
しかし、そうでない事にホッとしたのだ。
『メルはなんだかユーリに似てる気がするよ』
「ユーリママに?」
そう言われて初めてメルは先程も自分の事をユーリだと呼んでいた事に気が付いた。
自分がユーリに似ている。
メルはその言葉が嬉しくふにゃりと表情を崩すと……。
「メルお姉ちゃんのお母さんだし、似てない訳がないと思うけど……」
とエスイルはグラネージュへと告げる。
するとグラネージュは驚いたように表情を変え――。
『ユーリがメルのお母さん!?』
「え、えっとなんでそんなに驚いてるの?」
驚くほど目を丸めている精霊に対し訊ねてみるとグラネージュはポリポリと頬をかく仕草をし……。
『だってユーリ、自分を僕って言ってるし……女の子にしか興味が無いと思ってた』
「「『………………』」」
ウンディーネを含めたメル達はキョトンとした顔で互いに目を合わす。
すると……。
『グラネージュの言ってることは当たってるぞ!』
という新たな声にメルは揺れる炎を見つめる。
そこには寒いのか火の傍から離れようとしない精霊フラニスが居り……。
『でも、人間は男と女じゃないと子供が出来ないでしょ? フラニスは脳みそまで炎で出来てるの?』
『失礼な! 本当の事を言っただけだ!』
『炎の精霊なのですから、その通りだと思いますけど……』
喧嘩をしそうなグラネージュとフラニス。
それをおろおろしつつも止めようと試みるウンディーネ。
そんな精霊達に囲まれ、メルもまたどう話を切り出すかと迷っているとウンディーネが事の顛末を説明し……。
その結果……。
『ユーリとフィーナも変態だったのか……』
という答えがグラネージュの中で出てしまった様だ。
「え、えっと……変態ではないと思う……」
メルはそう反論するも強く言えない自分がなんだか悲しくも感じた。




