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207話 海の亡者

 ツィーアの者達の態度は良くなかった。

 そう口にしたシュレムは苛立ちを覚える。

 そんな中、エスイルは迫りくる何かを感じ取るのだった。

 メルにも聞こえない程、遠くの音。

 恐らくそれを聞いたのだろう、エスイルは焦り――。


「早く! あっちから来るよ、今ならまだ間に合う……船を動かさないと!!」


 何が来るというのだろうか? しかし、エスイルの焦りようを目にした上、こんな海の上でまともに戦える訳がない。

 そう考えたメル達は急ぎ近くにいた船員を呼び止める。


「あの、すみません!」


 あからさまに嫌な顔をした男は一応は立ち止まり……。


「なんだ? ツィーアまではまだだ……」

「そうじゃなくて、この船に危険が迫ってる」


 リアスがそう告げると船員は潜めた眉を一瞬緩めすぐにまたしかめっ面へと変わる。


「危険ってなんだよ? 嵐でも来るのか? その理由は? うちの航海士は暫くは晴れそうだと言っているのに」

「そうじゃないわ、恐らくは魔物……エスイルちゃんが何かを聞いたみたいなのよ」

「なにか? なにかってなんだ?」


 船員は鼻で笑いつつ質問をする。

 しかし、エスイルは静かに首を振り……。


「分からない、でも凄い速さでこっちに来る……」

「なぁ、危ないって言ってるんだし、船動かせよ!」


 エスイルの言葉に続き訴えるのはシュレムだ。

 彼女はうんざりしたような表情を浮かべそう頼むのだが……船員の男は今度はその眉を吊り上げた。


「あのな! 航海の道を決めるのは俺達だ! 船長を始めとして、航海士、そして俺達船員、全員で船を動かしてる! それにうちの航海士はそこの坊ちゃんと同じ、兎の森族(フォーレ)だ。嘘を言ってるのがすぐに分かるんだよ!」


 そう怒鳴りつける船員だが……メルとエスイルには彼の言葉が理解できなかった。

 確かに兎の森族は耳が良い。

 事実メルよりもエスイルは耳が利き、それに助けられたことがある。

 だが、それにも個人差があるのだ……エスイルに聞こえる音がその航海士に聞こえているとは考えづらい。

 何よりも……。


「その航海士さんって今外に居るの?」

「ああ? 今頃は船長と話をしてるはずだ」

「それじゃ! 部屋の中って事? エスイルは外に居るんだよ?」


 そう、いくら兎の森族と言えど壁や障害物があればその分、外の音が聞こえ辛くなる。

 だからこそ、エスイルと同じ戸は限らないのだ。


「この船には私達以外にもお客さん乗ってるよね? それなのに――なにかが来るって言われて何も確かめないの?」


 メルがそう呟いた時、青い顔をしたエスイルはその場で大きく息を吸った。

 そして――!!


「早くなった!! もう、すぐそこに居るよ!!」


 大声で叫び、船員は焦った様にエスイルへと近づくが、それはリアスの手によって阻まれる。

 弟が無事であることにホッとしたメルだったが、彼女の耳にもまた……。


 何……? 海の底? ううん、海の中? 良く分からないけど、確かに……何かが近づいて来てる!!


 何かが聞こえ、身構えたその時――海には大きな波が現れ、それを合図にしたかのように男性の森族が慌てて走って来た。


「おい! 進路を変える帆を動かせ!!」

「え?」

「早くしろ!! 何かが来るぞ!!」


 その様子を見て男はメル達へと目を向ける。

 そして、彼女達に向け指をさすと……。


「こ、こいつらだ! こいつらが――!! それを呼び寄せたに違いない!!」

「とにかく早くしろ!!」


 男の言葉に苛立ちを見せたのは恐らく話に出ていた航海士だろう。

 彼はメル達へと目を向けると――。


「お前達はまだ甲板に居る客を中に誘導してくれないか? 人手が足りない!」


 そう頼み事をしてきた。

 勿論、メルは頷き――。


「はい!!」


 それを了承する。

 例え悪人だと言われようが罪人だと言われようが関係が無い。

 メルだけではない、他者を助けるという事に関しては文句を言っていたシュレムも納得したようで反論はなく……。


「さっさと行こう!」


 と意気込んだ。

 その時――。


「もう駄目! こっち()()!!」


 エスイルの悲鳴が聞こえ、船は大きく揺れる。

 メル達は例え船から放り出されようともバラバラにならない様に慌てて手をつなぐ……。

 だが、幸い船から落ちる者は誰もおらず、ほっとしたのも束の間。


「あ? あああ?」


 先程の船員の気の抜けたような声が聞こえ……船には大きな影が落ちる。

 ぞくり……背中にそんな悪寒が走った気がしたメルはゆっくりとその顔を持ち上げる。

 すると、そこに居たのは……。


「ド……ドラゴン……?」


 海の中でどれほど戦ってきたのだろうか? 傷だらけの身体。

 デゼルトの様な綺麗な青ではなく、まるで藻の色が付いたかのように薄く緑がかった鱗。

 そして、まるで血の色の様な赤い瞳。

 そこには海の王者であろうドラゴンが居た。


「こ、こいつらだ! こいつらが呼び寄せたんだ!!」


 船員はメル達を指差し先ほどと同じ言葉を繰り返す。

 だが、当然メル達が呼び寄せた訳ではない、しかし彼女達はその事に反論を言う事は出来なかった。


「馬鹿野郎! こんな海の上で自分達も危険だというのに魔物を呼び寄せる訳がないだろ!!」

「だが、港ではそうだった!!」

「くだらない事を言ってないで早く逃げるんだ!!」


 メル達は怒鳴り声で会話をする二人の声さえ遠くに思えた。


「な、何でドラゴンが?」


 ようやく絞り出した言葉、しかしメルは恐怖に震えていた。


 デゼルトと違う……あの子はこんな怖い目をしてない……。


「メル何とかできないか!?」

「無理だよ……だって、ドラゴンは負けを認めさせないと……」


 懐く事は無い、その言葉を飲み込んだメルはゆっくりと開かれる(アギト)を目にし叫んだ。


「逃げて!!」


 その忠告は悲しくも多々響き渡るだけで無情にも龍の息吹は船へと放たれた。

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