201話 水の精霊は何を思う?
町中を探すが騎士が居ない。
まさかもう外に出てしまったのだろうか? 不安になるメルの元へとシルフが慌てて飛んできた。
メル達は騎士が見つかった物だと思ったのだが……そこで見たのは大荒れの海。
そんな海にメル達が近づくとなぜか穏やかさを取り戻していく……。
その所為でメル達は海が荒らした犯人と思われてしまう。
だが、不思議な現象のお蔭でどうやら、二人の騎士も足止めをされていた様だ。
相手が見つかったのは良かった……でも、何で海が荒れてるの?
それに、何で私達が近づいたら穏やかに?
相手は怒りをあらわにしているようだが、メル達には当然身に覚えがない。
メルはどういう事だろうか? と考えつつシルフ以外で海に唯一手を加えられるだろう精霊の方へと目を向ける。
するとそこに居た精霊は――。
「……え?」
普段は穏やかな水の精霊は幼子となった。
大人しく、可愛らしい精霊になってしまったはずだ……。
しかし、今は――。
「ウンディーネ?」
メルさえ見たことが無いほど怒りをその顔に表した精霊ウンディーネはただ一点を睨む。
そう、騎士達をずっとにらんでいるのだ。
しかし、精霊は目が見えない。
メルに近づけば同じものを見ることはできる……その性質は変わらないのだろう、メルが見つめている事に気が付くと表情を変えメルの方へと向くところころと無邪気そうな笑顔を浮かべた。
精霊が怒っている事は不思議ではない。
しかし、メル達の敵だという事だけでは怒る理由にはならないのだ。
精霊達はメル達だけの味方ではないのだから……当然、好き嫌いはあり、メルに懐いているとしても……それは変わらない。
だというのに、水の精霊ウンディーネは騎士を敵視していた。
首飾りの事が原因だろうか? メルはそう思うのだが、その考えはすぐに捨てる。
何故なら……。
シルフはそこまで怒ってない。
首飾りが原因なら……シルフもドリアードもフラニスも皆怒ってるはず。
ウンディーネだけが怒ってるって事はウンディーネにその理由があるって事だよね? 一体どういう事なの? もしかしてこの姿になった原因と関係が?
メルがそう思い浮かべた時、ウンディーネ達は海へと向かう……。
何をするつもりなのか? メルが視線で追うと――。
「メル! 何処向いてるんだ!!」
シュレムの叫び声が聞こえ咄嗟に振り返った。
しかし、時すでに遅く……リアスも騎士の手によりメルから遠ざけられ……。
「あの子娘には驚きはしたが、警戒すべきはお前だけだ……醜き獣」
騎士の剣は真っ直ぐメルの頭の上へと振り下ろされる。
メルは避けようと体を動かすがとても間に合うはずもなく……。
「終わりだ!」
その刃は無慈悲にもメルの身体へと迫った。
『――――ッ!!』
死――――たった一言がメルの頭に思い浮かぶ、その瞬間。
何かが叫ぶような声が聞こえた。
男性の声ではなくシュレムの声でもない、他の誰かの悲鳴か? もしメルが瞼を閉じていたらそれは暫くわからなかっただろう。
「……ぁ……」
その場に現れた声の主はまるでメルを守るかのように水の衣を彼女に纏わせ……二人の騎士を睨んでいた。
「な、なんだ? 何が起きた!?」
その現象をまじかで目にしたリアスはそれを見ながら驚きの声を上げる。
いや、彼だけではないエスイル以外は口を開け精霊を見上げていた。
「お、おい……なんでだよ、何で詠唱も無しに……」
本来ならば召喚の為の詠唱が必要のはずである事を知る人々は誰も精霊を呼び出す詠唱を唱えてない事を驚く、しかし森族の者達は違う事で驚きの声を上げていた。
「なんだ? あれ……まさか、ウンディーネ……なのか?」
そう、そこに居たのは元のウンディーネではなく、幼子でもない。
姿が変わった水の精霊。
「な、何が起きてるんだよ?」
森族の者達は驚き声を上げる……彼らは召喚をせずとも精霊達を見ることが出来、心を交わすことを得意とする種族。
また、半分は魔族の血が流れているとはいえ、メルも同じだ。
しかし、メルは幼い頃から精霊と共に育ってきた。
精霊に好かれていた。
だからこそなのだろうか、今何が起きているか分からずともその精霊の気持ちは何となく理解出来た……寧ろなぜもっと早く気が付いてあげれなかったのだろうか? とメルは思った。
ウンディーネだけではない、シルフ、ドリアード、フラニス、グラネージュ……精霊達はメルの友であり姉妹の様な物でもある。
つまり、家族だ……そう、メルにとっては普通でも精霊達にとってメルは特別だった。
だからこそ、ウンディーネは怒っていたのだ。
敵対した彼女だからこそ持つ感情なのだと理解した……。
「ありがとう……」
そして、やはりあの時助けてくれたのは水の精霊ウンディーネだったことを確信した少女は精霊に礼を告げた後。
「でも、休んでて……今度は負けないから!!」
不安そうな表情を浮かべ実体化を解く水の精霊。
メルは何故か魔力が減ったように感じたが、すぐに祖母より受けついた水の剣を構え魔力を込めるのだった。
彼女のその姿を見た仲間達もまた、今すべきことを思い出しそれぞれの武器を構える。
「首飾り、返してもらうぞ?」
「人様から物を盗むなんて悪い騎士様ね」
「僕だって怒ってるんだよ!」
「人様の嫁に手を出した報いを受けてもらおうか? ぁあ!?」
仲間達の声が重なるなか、メルは目の前の騎士へ向けその手に持つ剣で線を描く。
水の精霊の事で驚いていた騎士ではあったが、メルの攻撃は軽々と避けられてしまった。
「……ふぅ、またもやあの精霊か……しかし、獣は獣か……あの精霊を消して俺達にどうやって勝つつもりだ?」
そう告げる騎士の視線はメルの後ろに居る大きな水の精霊へと向けられている。
メルもそちらへと目を向けちゃんと休んでくれるか確かめたい所だったが、隙を見せる訳にもいかず、騎士を睨みつつ言葉を発した。
「なんとかしてみせる……ママ達だったらきっとこう言うし、そうするから!!」
幼い頃、何度か聞いたその言葉には不思議と安心感があった。
その言葉を発した母ユーリと祖母ナタリアは何時だってなんとかしてくれたからだ。
だからこそ、メルもそう口にする。
逃げるのではない、此処には街の人々が居る、自身を守ろうとしてくれる精霊も居る。
そして、逃げてしまえば救えない者達が居る。
「こっちは引く訳にはいかないの! だから……なんとかしてみせるんだ!」
以前戦った時からさほど時間は経っていない、修行だってできていない。
成長しているかも怪しい……だが、メルは……メル達は一人もかける事無く、騎士へと立ち向かう事を決めたのだった。




