199話 ツィーアの酒場
船はまだ残っていた。
だが、情報は多い方が良いとメルは酒場に向かう事を提案する。
しかし、敵が船に乗ったら意味がない、そこでシルフに見張りを頼み彼女達は酒場へと向かうのだった。
タリム近辺の酒場に驚きつつもメル達は店主に二人の騎士の事について訊ねる。
「二人組の騎士ね……悪いがこの酒場には泊ってないぞ」
「そうですか……その、見かけたりとかは……?」
メルは店主へともう一度訊ねるとツィーアの酒場の店主は笑みを浮かべ始めた。
何故笑うのだろうか? メルが疑問を浮かべていると店主は口を開く。
「何か依頼か? だったらこの酒場の冒険者の方がよっぽど役に立つぜ!」
腕を組み、胸を張って言う姿を見てメルはこの酒場に店主が誇りと自信を持っているのだろうと感じた。
しかし、今は依頼をしたい訳ではなく……また、メル達自身も見習いとはいえ冒険者だ。
メルは自身の実家でもある酒場「龍に抱かれる太陽」の冒険者の証を見せる。
「依頼ではないんです……ただ……」
「どうしても探さなきゃならないんだ……情報が欲しい」
メルの言葉に続きリアスも口を動かす。
腕輪を見て目を丸めた店主は慌てた様に酒場の中を見回す。
何かあったのだろうか? メル達が疑問を浮かべる中――。
「お、おい! 誰か今の話は聞いてたろ! 知らないか!?」
店主は声を張り上げる。
そして、メルへと目を向け……。
「こりゃ驚いた。こんなに小さな子なのにリラーグの冒険者とはな……良いぜお嬢ちゃん達、誰も知らなかったらすぐに町中の冒険者に探させてやる」
「……は、はい?」
「この腕輪ってそんなに凄いのか?」
一歩引くメルと腕輪を見て首を傾げるシュレム。
そんな二人を見て店主は大きく頷いた。
「そりゃ、昔は冒険者の街と言ったらタリムだったが、今となってはリラーグだ……そのリラーグでも龍に抱かれる太陽は冒険者にとって憧れだ。勿論、酒場の店主の俺にとってもな……そんな冒険者からのお願いだ断る理由もないだろう!」
興奮気味に言う店主はガハハッと笑うと集まってくる冒険者に目を向けた。
「なんだか、凄いのね?」
「う、うん……」
その様子に圧倒されたらしいライノとエスイルは小さな声で呟くとメル達の方へと向くが、メルとシュレムの二人はそんなに凄い事だったのだろうか? と首を傾げるだけだ。
確かに……龍に抱かれる太陽はリラーグ一番だけど……世界でって訳じゃないし……。
こんなに優遇されるって事はやっぱりエルフの使者を送る翼っていうのが信じられてるんだろうなぁ。
メルが思い浮かべた事は間違いではない。
事実、彼女の母ユーリはエルフに認められた人間だ、彼女を届ける飛龍艇がある龍に抱かれる太陽がそう言われていてもおかしくはないのだ。
しかし、世界で一番とは言い切れない。
どこかにもっと優れた冒険者はいるかもしれない、母達も言っていた事だ。
なによりメル達にとって龍に抱かれる太陽の冒険者というのは家族でもある。
実の両親もそうだがいつも見ていた事から考えると……。
「皆優しいけど、他の冒険者さんと同じだよ? 中には二度と会えなくなった人も居るし」
メルはそう口にする。
そう、この酒場に居る冒険者と何も変わらないのだ。
「いや、そうは言うがな……本人たちには分からないんだよ」
「――?」
なんでだろ? 前までは龍に抱かれる太陽の冒険者は誇りだったし、ううん……今もそう。
だけど、冒険者は皆同じだって思う……お金をもらってるとはいえ、誰かの為に剣を握って力を使う怪我をするかもしれないのに……死ぬかもしれないのに……。
皆同じ……確かにママ達は強いけど、何時そうなるかなんて分からないよ。
メルはそう思いつつも、顔を上げる。
色々と考えごとは浮かんでくるが、今はやることがある。
「お嬢ちゃん、どうするんだ?」
店主の声に頷いたメルはゆっくりと口を動かす……。
「お願いします、どうしてもその二人を探さないといけないんです。だけど見つけても絶対に戦わないでください、場所を教えてもらえば私達が行きます」
「おいおいおい! 俺達が負けるっていうのか?」
近くに居た冒険者はそう言いながら笑い飛ばし、それは酒場の中へと伝染する。
しかし、メルは冗談で言った訳ではない。
「お願いします」
だからこそ、頭を下げて願った。
力を借りれるのは嬉しかった、それ以上にこの酒場の人達に怪我を負ってほしくないという思いがあったのだ。
「え、ええ……分かったわ、此処に戻ってくれば良いのね?」
そんなメルの思いは伝わったのだろうか? 女性の冒険者は優しそうな笑みを浮かべてメルに目線を合わせる。
「はいっ!」
彼女に対しメルもまた笑みを浮かべ尻尾を振りながら答えた。
「よし、じゃぁこれからオレが相手の事を教えてやる!」
「いや、シュレム……説明は俺とライノに任せてお前はメルとエスイルの三人でどう動いてもらうか考えてくれ」
意気込むシュレムに慌ててそう告げたリアスは店主の方へ近づき会話を始める。
「そういう事だから、頼むわねシュレムちゃん」
「え? あ、ああ! 任せて置け!」
不満そうだったシュレムだったが、頼むと言われては断る気にはならなかったのだろうそう答える。
「じゃぁ、シュレムちょっと考えよう?」
メルは一つの机を指差し座るように提案をしつつシュレムとエスイルの二人を連れて行く……平然を装ってはいた。
しかし……。
あの二人は強い……ここの冒険者の実力は分からない。
でも……戦わないなら大丈夫……だよね?
彼女の中では不安が渦巻いていた。




