198話 港町ツィーア
スプリガンを倒し先へと進むメル達。
目的の地であるツィーアへと辿り着く。
精霊の首飾りを奪ったあの騎士達はまだ居るのだろうか?
ツィーアの酒場へと向かう途中、シュレムはメルの肩を叩く。
「どうしたの? シュレム」
メルが疑問に思いつつ彼女の方へと視線を向けるとシュレムは大きな船へと指を向けた。
「見ろ! 船だぞ船! 空じゃなくて海を走る船だ!」
「いや、シュレム、船は海を走るのが普通で……」
それを聞いたリアスは思わず苦笑いをしつつそう言うがすぐに言葉を飲み込んだ。
「そうか、メル達は空の船の方が普通なのか」
「うん、海を走る船はあまり見たことが無いの」
メルはそう言うと船の方へと目を向ける。
そう言えばリラーグにある飛竜艇も元は海を走る船だったんだよね。
何度か実際に海の上を走った事もあるけど……なんか空と感覚が違うしちょっと苦手だなぁ……。
「あら、どうしたの?」
「えっと海の船はちょっと苦手なんだ」
メルは小さくあははと笑いつつそう口にした。
「って、それでも乗らないと駄目だよね、それに早く酒場に……」
向かおう、そう口にした彼女ははっとした。
「メル?」
その事にリアスは首を傾げつつ、メルが何を考えているのかを考える、そして、すぐにその理由を察した。
「まだ積み荷が外に運ばれてる……今日の出向はまだで船があるって事は……あの二人があっちに居る可能性があるな」
そう、メルが気が付いた事はまさにその事だ。
「じゃぁ先に船着き場に行くか!」
シュレムはそう言うと船の方へとその身を向け、メル達を待つ。
しかし、メルは首を振りリアスの方へと目を向ける。
「船はどの位で動くのかな?」
「見た所荷物を降ろしてる所だ……交易船かなにかだな、だけどアレに乗る事は出来るはずだ」
「……分かった」
メルは彼の話を聞くとシュレムへと目を向ける。
「シュレム、まずはシルフに見張ってもらおう? 酒場でも情報を集めたいの」
「でも、それじゃ誰が来たかなんて分からないだろ?」
シュレムの言う事は正しく、精霊ではメルが近くに居なければ分からない。
本来ならばウンディーネにも見張ってもらえるだろうが、現状では精霊が幼くなっているため無理だろう。
だからこそメルはシルフが適任だと感じたのだ。
「シルフは風の精霊だから、帆が張れば分かるって事?」
メルはエスイルの言葉に頷く……しかし、それでは間に合わない。
その事もメルは十分に理解していた。
「それは良い案だよ? だけどどの船に乗ってるか分からない。だから……シルフに見張ってもらうのは精霊の首飾り……」
そんなことが出来るのかは分からない、だがメルは首飾りには何かしらの精霊が付いているのでは? と考えたのだ……そして、それをすぐに近くに居たシルフへと今話していた内容を伝える。
『分かった! 任せて!』
いつも通りの笑みを浮かべた精霊を見送ったメルは再び仲間達と酒場へ向けて歩き始める。
「なぁ、精霊だけで……誰かいなくて大丈夫なのか?」
心配そうな顔を浮かべるシュレム。
当然だ、精霊であるシルフは手が出せない、その上……。
「前にメルが言ってたろ? 精霊は嘘をつかないって……」
「うん、言ったよ」
嘘をつかない。
それは何もメルに対してだけではないのだ。
つまり、他の森族には何をしているのかばれてしまう危険もある。
だが、メルはそれが無いと確信を得ていた。
「でも、あの人達は精霊を……エルフを良く思ってない、なら森族や鬼族の事も同じように考えてるはず……例外もあるみたいだけど……」
「つまり、森族の仲間は居ない可能性が高いって事か」
リアスの答えにメルは頷く……そう精霊の事が分かる仲間が居るとは思えなかったのだ。
「でも、雇ってたら分からないわよね?」
「それは……」
可能性としては無くはない。
そう考えるメルは表情を曇らせる。
「メルお姉ちゃん酒場が見えてきたよ!」
「え? あ、うん!」
エスイルの声で顔を上げたメルはぎこちなくも返事を返す。
それに合わせるようにリアスはライノへと声をかけた。
「可能性としては無くはない、けど……今は情報を集める方が先だ」
「それもそうね……一つ一つ上げていたらきりがないわね」
まるで反省したかのように頭をぽりぽりとかいたライノ。
そんな彼を見てメルは思う。
ライノさんの言う通りだ……お金で雇われてたら分からない。
そういう事もちゃんと考えるべきだったよ……。
彼女が落ち込み尻尾と耳を垂らしているとライノは焦った様なそぶりを見せ、リアスはメルの頭に手を乗せる。
思わずびくりとしてしまうメルだったが、おずおずと顔を持ち上げると……。
「今はメルと精霊達の手を借りるのが最善だ。早く情報を集めておこう」
「……う、うん!」
リアスに慰められたような気がしたメルは何故か嬉しくなり、尻尾を振り始める。
理由は分からない、ただ……何となくそう思ったのだ。
「行こう!」
メル自身、頭を撫でられただけなのに……もしかして私って単純なのかな? と思い浮かべたが、今はそんな時ではないとすぐに切り替えると酒場の中へと足を踏み入れる。
そこはメル達が知る冒険者の施設のはず。
しかし、彼女達が目にしたのは――。
「あ、あれ?」
「これって、どういうことだ?」
「どうもなにも……これがこっち側の酒場だ」
メル達が知る、いや……今まで寝泊まりしてきた酒場とは違い。
そこに居たのは数えるほどの客と店主。
それほど騒ぐわけでもなく、どこか静かな印象を受けたメルは本当に酒場なのか? と疑問さえ覚える程だった。




