193話 魔物の正体
現れた大きな体躯の魔物。
消える事の出来る魔物なのだろうか?
そんな疑問を感じつつ、メル達は戦うが魔物には一切の傷をつけることが出来ない。
そんな中メルはふと一つの答えを導き出す。
もし、消えるのではなく違う姿であったなら? 母から聞いた魔物であればもしや――。
そう思い太陽の魔法を使うと、その魔物は初めてメル達の攻撃を恐れるそぶりを見せたのだった。
姿が変わる魔物を見てメルは確信を得た。
あの魔物はタリムの王が生み出したものだと……。
「い、一体なんだあの魔物は……いや、人が魔法で化けたのか?」
リアスは姿が変わりその場から消えた魔物を探すために見回す。
しかし、彼の目には何も映る事は無かった。
当然だ、いくら作られた魔物と言えど今まで生き残ってきたという事はそれなりの知能がある。
「…………」
メルもまた辺りを見回すが見つけられることは出来ず……。
ど、どうしよう、あの魔物は私を狙って来るよね?
それに私が倒されでもしたら、皆に対処する方法はない。
そう、タリムの王の魔物であれば太陽の魔法以外に対処方法はない。
倒せないことはないが頑丈であり、致命傷を与えるまで時間がかかるのだ。
だというのにメルは一度でも殴られてしまえば簡単にやられてしまう。
「……なら! 万物の根源たる魔力よ、剣に宿りて力を示せ……」
この場でまともに戦えるのはメルだけだ。
だが、例えそうでもメルならば仲間達を戦えるようにはできる。
「エンチャント!!」
その方法を思いついた彼女は魔法を唱える。
すると、リアスの持つ棒とシュレムの盾に淡い光が灯り始めた。
「これは?」
疑問を浮かべるリアスにメルは答えようと口を動かした。
そう、彼の方へと視線を動かした時だ――。
「メル!!」
シュレムの声が響き渡ると同時に物音がし、メルはゾクリとしたものを背中に感じた。
振り返ると其処に居たのは――。
「あ……ああ?」
先程の魔物だ。
魔物は既に腕を振り下ろしており、メルにはそれが酷くゆっくりに見えた。
避けようと思い足に力を入れるが、到底間に合うようには見えず……終わりだ。
そうメルが考えた時――
「シルフ!!」
エスイルの声が響き、メルの身体は大きく後方へと飛ばされる。
その後にメルの頭上を何かが通り過ぎ、魔物の顔へと何かが当たった。
『――ッ!? ガァァァァ!!』
するとどうだろう、メルの魔法でしか傷つけられない魔物は途端に顔を覆い苦しみ始めた。
どういうこと? と考えるメルの後ろで声が聞こえた。
「皮膚は頑丈でも流石に目に刺激物は効くみたいね?」
瓶を投げたのは他でもないライノで、彼はメルの方へと近づくとにっこりと微笑んだ。
魔物は目を擦り、ようやく瞼を上げると再びメルへと拳を振ろうとする。
しかし、それはもう遅く……ライノのお蔭で出来ていた十分すぎる隙を逃すことなくシュレムとリアスの武器は魔物の大きな体に叩き込まれた。
「なるほどな、これが弱点って言う訳か……」
メルの魔法の効果を実際に体験し、リアスは呟く……。
目の前の魔物は二人も脅威だと感じたのだろう、振り返り拳を放つが、リアスには易々と避けられシュレムは盾で防がれた。
当然、陽光の魔法がかかった盾を殴った衝撃も受け苦悶の表情を浮かべた魔物は――そこで自身が不利になっていると気が付いたのだろう……再びぐにゃりと姿を変え始めた。
「メルお姉ちゃん! 逃げてくれるみたいだよ!」
エスイルはそれを見て叫ぶが、メルは逃げるとは思えなかった。
何故なら追い詰めることはできたものの、目の前の魔物はメル達の不意を突くことができる。
エスイルが恐らく考えているだろう、諦めたという可能性も無くはないが低いと感じた彼女は詠唱を唱え――。
「アルリーランス!!」
再びその魔法を唱える、光の槍は魔物へと吸い込まれるように向かっていき、それに気が付いた魔物は避けようとするものの先ほどとは違いその場にはシュレムもリアスも居る。
「オラァ!! そうはさせねぇよ!!」
槍に集中すれば二人に襲われ、二人を止めれば槍を避ける事は叶わない。
先程までは傷を負うことなく優位に立っていた魔物は――。
『ガァァァァァァ!!』
焦りとも取れる咆哮を上げると陽光の槍にその身体を貫かれ、その動きを止めた。
「…………た、倒せたの?」
メルは二人へと近づく、リアスとシュレムは警戒していたものの魔物が動かないことを確認するとほっとしたような表情に変え頷いた。
「どうやら、大丈夫みたいだ」
「流石オレのメルだ!」
メルはシュレムの言葉に苦笑いを浮かべると、シュレムを心配そうに見つめた。
タリムで修理をしてもらったものの、あの魔物の一撃を防いだのだ、心配になったのだが――。
「どうした? もしかして…………」
「うん……」
深刻そうな顔を浮かべたシュレムにメルは頷く。
「結婚の日は何時にするか迷ってるのか!?」
「そうじゃないからね!?」
「盾の事だと思うぞ……?」
リアスが呟くとライノ達もその場へと歩み寄ってきて――
「あんな太い腕で殴ってたのよ? 盾がまた壊れたんじゃない?」
「ん? ああ……」
ライノの言葉を聞き、シュレムはようやく盾の方へと目を向ける。
メル達も盾を見るものの……。
「シュレムお姉ちゃんの盾、大丈夫みたいだね?」
シュレムの持つ盾は傷一つ見られなかった。
「というか、そこまで強くなかったぞ?」
「……え?」
シュレムの言葉を聞き、メルは首を傾げつつおかしい事に気が付いた。
そう言えば、この魔物フィーナママを追い詰めたんだよね?
それも随分飛ばされたって……でもシュレムは耐えてた……じゃぁ、この魔物は話に聞いてたスプリガンとか言うのじゃないの?
だとしたら、これは一体なんなの?
メルは疑問を浮かべるもそれに応えられる者は誰も居なかった。




