182話 盗まれた首飾り
エスイルの精霊召喚ではなく、アクアリムから実体化したウンディーネ。
彼女はその姿が変わっていた。
また、その力も本来の精霊とはかけ離れた物の様だが?
だが、そんな彼女の忠告は通じる事は無く、首飾りは持ち去られてしまうのだった。
エスイルはその場で呆然としつつ何故自分達を傷つけたり連れて行かなかったのか疑問になり首を傾げた。
だが、その理由にはすぐに気が付くことになった。
今まさに自分を守っている水の膜……それはその場に居る者達フィオも含め全員にかかっていたからだ。
「これは一体なにが起きてるの?」
エスイルはその場で唯一会話の出来る者……ウンディーネへと問う。
すると彼女はゆっくりとその瞳をエスイルへと向け――。
『メルが起きたら伝えてください、あの者達にはすでにシルフとドリアードがついて行っていますっと』
「え?」
水の精霊はエスイルの質問に答える事無く、その姿を消して行く……。
いや、正確には水の身体が崩れ小さな粒となり、それはメルへと集まって行った。
何が起きているのか当然分かるはずもないエスイルはその場で狼狽するも――。
『お願いします、エスイル』
「う、うん」
ウンディーネの願いを聞き入れたのだった。
それから暫くし、メルはようやく目を覚ました。
とは言っても辺りに居る仲間はエスイルを除き、誰もまだ目を覚ましてはいなかった。
「エスイル!!」
弟が無事であることを確認した彼女はほっとしつつも慌てて少年の元へと駆け寄るが、はっと表情を変えると辺りを見回した。
あの騎士は? それに大きなウンディーネも居ない。
疑問を感じる彼女はもう幾つか気になることが浮かんだ。
皆が起きてないって事は私が倒れてからそんなに経ってないはず。
それなのに、魔力がもう戻ってる?
それに皆を囲ってるように見えるあの水は何なの?
メルは騎士が居ないことを確認するとエスイルの元へと歩き、水の膜へと触れる。
すると音も発せず、それは溶けるように消えていく。
アクアリムの力?
彼女はそう考えた時、祖母より貰ったアーティファクトの事を思い出し、慌てて自身が居た所へと目を向けた。
「メルお姉ちゃん?」
「よ、良かった、アクアリムは取られてないみたい……」
剣が奪われなかったことに安堵した彼女はエスイルの頭を撫でつつもう一度辺りを見回した。
しかし、目当ての物は見つかることが無く……。
「く、首飾りは?」
それが盗られた事は覚えていた。
だが、エスイルが無事であったためそれも無事だと考えていたのだ。
「あの人達が持って行った……で、でもそのウンディーネがシルフとドリアードがついて行ってるって言ってたよ」
「え? ウンディーネが?」
そう言えばウンディーネの姿が見当たらないとメルはエスイルと共にアクアリムの元へと辿り着くと手に取り魔力を込める。
「……ウンディーネ?」
普段なら綺麗な水があれば現れる精霊は一向に姿を現す様子が無い。
先程の事から考えてもアクアリムの作り出す水であれば問題は無いはずなのにだ。
「ど、どうしたんだろう?」
「そう言えばおかしいよ、なんで僕に伝言を頼んだんだろう?」
エスイルの言葉にメルは不安になる。
今、エスイルが言った通りなのだ……召喚されている精霊でなければ会話できない母ユーリとは違いメルは森族と同じように召喚されていなくても精霊と会話することができる。
ならばわざわざエスイルに頼む必要なんてないはずだ。
メルは募る不安感を感じつつ、ウンディーネを呼び寄せる為、魔法を唱える。
「ウォーターショット」
本来、攻撃の為に使われる魔法であるそれは上手く利用すれば精霊召喚にも役に立つ。
嘗て母もやった方法だという、しかし――。
「あ、あれ?」
ウンディーネは確かに寄って来た。
しかし、いつも通りの姿ではなく……。
「ウンディーネ?」
それはいつもよりも幼い容姿の精霊だった。
「ど、どうしたんだろう? メルお姉ちゃん……何が起きたの?」
「わ、分らないよ……兎に角、ウンディーネが居なくなったわけじゃないみたい」
最悪の事態は避けれた。
その事にホッとしつつメルは辺りを確認する。
「取りあえず皆を起こして、タリムに戻ろう?」
首飾りの事は心配だけど、このまま追っても返り討ちに遭うだけだよね?
なら、一回フィオさんをタリムに送り届けて話をした方が良いはず。
メルはそう考え、仲間達を起こしに向かった。
リアス達を起こしたメルとエスイルは未だ気を失ったままのフィオを連れ、タリムへと戻る。
「…………悪い、皆を巻き込んだ」
首飾りを取られた事だろうか? それともフィオの事だろうか?
突然誤ったリアスにメル達は首を振る。
「こっちこそ、その……ごめんなさい、首飾り」
申し訳なさそうにメルは謝罪すると、シュレムは彼女を守るかのようにリアスとの間に割って入るが、リアスはそれを見てゆっくりと首を横に振った。
「いや、元々俺が持っていたのに盗られたんだ。エスイルだけでも助かって良かったよ」
「それにしてもどうやってエスイルちゃんを助けたの?」
その事が気になったのだろうリアスとシュレムの二人もメルへと目を向ける。
しかし、本人は――。
「それが、分からないの……ウンディーネに魔法を教わった気もするんだけど……私は精霊魔法が使えないはずだし」
そもそも精霊魔法は時間がかかって攻撃に向かないはず。
「僕見たよ! 大きなウンディーネが僕達を守ってくれた!」
「……大きなウンディーネ?」
メルは先程目にした幼いウンディーネと関係があるのかと考えるも答えには行きつかず。
代わりに、自身が最後に見た光景を思い出す。
「あ……」
大きなウンディーネ、私も見てる。
だけど、一体……あれは何だったの? 何が起きたの?
その疑問は彼女の中でますます広がっていくのだった。




