180話 選択は一つ
二人の騎士相手に戦う事になったメル達。
だが、その実力の差は歴然としていた。
騎士はメル達であれば迎え入れても良いと提案するのだが……。
メルは倒れている仲間を見渡し決意をするのだった。
「人を……人を犠牲にして実験なんかする人達について行くことはないし、エスイルもその髪飾りも絶対に渡さない!!」
メルの目に映ったのは横たわるフィオの姿だった。
「王の民ではない者達がどうなろうと関係ない」
「それに我が国の兵となれるのだ、これ以上の誉れは無い」
二人の言葉を聞き眉を吊り上げたメルはアクアリムをしっかりと握る。
皆はもう戦えない。
だからと言ってエスイルを見捨てる事なんて出来ない! 首飾りも取り戻さなきゃ……。
私が、私がやらないと!!
「勝てもしないのに立ち向かう気?」
そんなメルを見てうんざりとした表情を浮かべたアシェリーは懐に首飾りをしまい込み、武器を構える。
勝てもしない……そう言われたもののメルはそうは思わなかった。
確かに実力の差はある。
しかし、勝てないという事はない。メルはそう思ったのだ。
私の剣はママ達に教わった。
ママ達は強い冒険者だっていうのもある。
だけど、この人達の剣には癖がある……そこを狙えば!!
「アシェリー、早く済ませろ」
「はぁ……面倒くさい」
脅しが効かないことにうんざりした様子のアシェリーを睨むメル。
「さっさと済ませるか……」
そう呟いたアシェリーは大地を蹴りメルへと迫る。
そして剣を振り下ろすのだが――。
「くっ!」
メルはその刃をギリギリのところでかわす。
やっぱり変な癖がある……それも、何とか避けれたぐらいだけど……。
強い魔物相手じゃ致命的な位の隙が出来てる!
「へぇ……」
以外そうに表情を変えたアシェリーに対しメルは冷静に対処をしようと考えていた。
最早戦える者は自分しかおらず、だからと言って焦ってはいけない。
エスイルの安全は勿論、首飾りの事も自分の両腕にかかっているのだ。
「ならこれならどう?」
ニヤリを口角を上げた女騎士は予備動作無しで剣を振るう。
「――え?」
これまで癖のある一撃を放ってきていたからだろうメルは呆けた声を出しつつ慌ててアクアリムでその刃を受け止めた。
しかし――。
「くぅ……っ……」
剣が重い、押され……このまま、じゃ……。
敗北、その一言がメルの脳裏に過ぎる。
そして、その言葉が意味することは――。
エスイル……皆……。
弟が攫われてしまうのは勿論、精霊も助ける事が出来なくなり、この場に居る仲間達もなにをされるか分からない。
駄目、だ……なんとか、しないと――!!
諦めることはできない! 少女の心に強く響いた思いは手に握るアーティファクト・アクアリムへと伝わったのだろうか?
「あ、あああああああああ!!」
「な!? み、水!?」
少女の咆哮に答えるかのように溢れ出た水は激流となりて、アシェリーと言う騎士の刃を弾いた。
「はぁ……はぁ……」
無意識の内に魔力を使ったからだろうか?
メルは自身の身体から魔力が無くなっていくのを感じた……しかし、どういう訳かアクアリムから噴き出る水の勢いは減らず、それどころか増すばかりだ。
だが、それはメルにとって幸運だったのだろうか?
『メル!!』
剣にまとわりつくように集まってきたのは水の精霊であるウンディーネだ。
「…………」
最早魔力は無く気力だけで立っているようなもののメルはゆっくりと水の精霊へと目を向ける。
『メル――聞いてください! 今から言う言葉を繰り返してください』
大人しい精霊のはずであるウンディーネの鬼気迫る表情を見ても反応をしなかったメルであったが――。
『水の精霊よ――』
その言葉が紡がれるのを聞くと――。
「我が呼び声に答え……我が願いを受け入れたまえ……」
「魔法……? 嫌な予感がする、アシェリー!! そいつを止めろ!!」
自分で動く気はないのだろうか? 男の騎士はエスイルを抱えたまま女の騎士へと命令を飛ばしつつ、呟いた。
「こんな情報は無かったぞ……」
っと……その呟きが聞こえたのか聞こえなかったのかは分からないが、アシェリーも一粒の汗が線を描くと刃を振るう。
しかし、メルはアクアリムで辛うじて身を守りつつ――言葉を紡ぎ続けた。
「我願うは大いなる海の裁き、我が前に立ちはだかる邪なる者達へ水の恐怖を与えん……我が声を聴く精霊よ、今ここに水の王の力を具現せよ!!」
ウンディーネの言葉を繰り返し、紡いだその言葉は魔法ではなく――。
「この少女、精霊魔法も使えたのか……アシェリー!!」
「分ってる!!」
二人の騎士の焦る声が辺りに響き渡るのとほぼ同時――。
メルの唱えた精霊魔法はその形を表し始めた。
『メル――ありがとうございます』
アクアリムから溢れ出る水はやがて大きな塊となり、人型へと変わっていく……。
自分で何をしたのか、何が起きたのか理解が出来なかったメルは呆然とそれを見つめるだけだったが、唯一分かった事があった。
「ウン……ディ……ネ?」
それは精霊ウンディーネの姿を模り、ゆっくりとメルへと顔を向けると微笑んだのだった。




