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176話 山小屋

 休憩小屋を後にしたメル達。

 山へと近づくともう一つの小屋が見えてきた。

 果たしてそこにフィオは居るのだろうか?

 小屋までは後もう少し……しかし、メル達が身を隠して近づこうにも今の場所以外には何もない。

 下手に出ても見つかるだけだろう。


「さて、どうやって近づくか……」


 リアスは小屋からは目を離さずに呟く、普通であれば誰かを囮にして何人かにフィオの奪還をしてもらう。

 それで良いのだが……。


「だけど、あそこに本当に居るのか?」


 シュレムの呟きに彼は黙り込んだ。

 そう、本当にフィオが居るかどうかは分からないのだ。

 いる可能性は高いはずだと彼は考えてはいた、しかし、絶対にと言われると違う可能性もある。

 ましてや相手は魔物に対してとはいえ残虐な殺し方をする者だ。

 フィオが居れば勿論だが、居なくても危険な事には変わりない。

 しかし……その場にはメルも居た。


「居るかどうか分からないなら、直接見に行けば良いよ」


 メルがそう口にすると当然リアスは驚いたが、彼女は自分の発言を撤回するつもりなどなく弟であるエスイルの方へと向き直る。


「エスイル、シルフを実体化させてそれで徐々に風を強めて行ってくれるかな? 足音が気にならない位の風を起こしてほしいの」

「足音ならウンディーネの方が良いんじゃないか?」


 リアスの指摘にメルは首を横に振る。

 ウンディーネは確かに足音を消せる。

 だが、それだけでは駄目だとメルは考えていた。


「普通ならその方が良いんだけど、これから姿を消すから、ウンディーネだと雨で私が濡れて気が付かれるとおもう……」

「なるほど、そんな魔法もあって……そういう事かエスイル……」


 リアスは納得をし、エスイルの方へと向く。

 すると少年は頷き……。


「う、うん! 風の精霊よ我が前に姿を現せ……シルフ!」


 メルの希望に答え風の精霊であるシルフを実体化させるエスイル。

 シルフはメルの頭の上から降りてくると笑みを見せる。


『風を起こせばいいんだね!』

「うん、お願いシルフ」


 頷くメルの周りを嬉しそうに飛ぶ精霊シルフ。

 彼女はメルの願い通り、ゆっくり、ゆっくりと風を強めて行き辺りには強風が吹き荒れる。


「こ、これじゃ、相手が窓から見てくるんじゃない?」


 ライノはそう言って来るが、メルには関係が無い事だった。


「大丈夫です、これから見えませんから――」


 そう、例え窓からのぞこうとも見えなければ良い。

 メルはそう考え、魔法を唱え始める。


「我望む、数多の危機を避ける身を――」


 風の音で仲間達にも掠れて聞こえるその詠唱が記す魔法は……。


「クリアトランス」


 メル達の身体を身に着けている物ごと透明にしてしまう魔法。

 そして、シュレムがフィオが居なくなったと聞いた時に原因ではないか? と疑った魔法でもある。


「ほ、本当に見えなくなった、皆はちゃんと居るのか!?」


 初めてその魔法をかけられたリアスは当然狼狽える。


「大丈夫、皆居るよ、さ、小屋に向かおう?」


 そんな彼に対しメルはそう答え、ゆっくりと立ち上がる。


「傍にいるはずだから、気を付けてね」


 そう忠告をしながらメルは小屋へと向かって一歩足を踏み出した。





 透明になったメル達は窓から小屋の中を覗き込む。

 窓と言ってもガラスも木枠もない簡素な物だったが、お蔭で中は簡単に見える事が出来た。

 だが……。


 誰も居ない……奥の扉は開いてるけど、もしかしてあの向こう側に居るのかな?


 メルは疑問を浮かべ、その扉を見つめる。

 すると隣からリアスの声が聞こえた。


「あの奥に行ってみよう……」


 その声の後に続くようにかすかな物音が聞こえ、どうやらリアスは部屋の中へと入ったようだ。


「次行くね?」


 メルはそれに続くように声を発し中へと入る。

 リアスはもう奥に行ったのだろうか? そんな事を考えていると……。


「皆居るか?」


 暫くして彼の声が聞こえてきた。

 その声に一同は小さな声で返事をするとリアスは小さな声で「行くぞ」と口にして歩き始めた。

 扉の奥には地下へと続く階段があり、メル達はゆっくりとそれを降りていく……。

 そして階段を降り切ったその先に見た物にメル達は驚いた。

 ガラスの試験官、それも人一人は軽く入れてしまう物から牛よりも大きな生物が入れそうな物まであるのだ。

 ガラス自体は珍しくもない、しかしタリムでは別の話だ。

 それなりの値段はする高価な物だろう、それがここにあることが不思議なのだ。

 更に気になることは……その中に水のような物が入っており、中には妙な魔物が眠っている様だった。


「何これ……」


 メルは思わず呟いたが、それも無理はないだろう……。

 中に居る魔物は溺れていてもおかしくないはずだ。しかし、どう見ても死んでいる様には見えないのだ。

 不安を感じつつ、メル達はゆっくりと前へと進むすると――。


「――――じゃないか?」

「………………が良い」


 人らしき者達の会話がメルとエスイルの耳に聞こえた。


「待って、誰かいる……」


 エスイルの言葉に仲間達は足を止めると辺りを見回し始める。


「も少し奥か? 行ってみようぜ」


 だが、辺りに何も居ない事を確認したシュレムの言葉でメル達は更に進みその正体を目にした。

 そこに居たのは一組の魔族(ヒューマ)の男女と横たわる女性だろうか? 白い布をかぶせられていた。


「だからさ、王様の様に自我を封じ込めるなんて出来ないだろ?」

「だが、知能を得るには手っ取り早い、あれが失敗したのは知能が無かったからだ」


 何の話をしているのだろうか? メル達は気になりつつも横に寝かされている女性らしき人の方が気になっていた。

 メルは音を立てない様にこっそりと近づき顔を確認する。


「――っ!!」


 思わず声に出しそうになったが、そこに居たのは失踪したフィオと言う女性だった。

 何の目的でここへと連れてきたのか? それはすぐに理解出来た。


「良いか? 知能がある魔物は利用価値がある。これまでのは失敗作だ。奴より遅れているのだぞ?」

「だから言ってるじゃないか、あいつはもう使えない! それにあいつみたいに下手に人間を使うと目をつけられる」


 そう、彼らは人を使い何かを作ろうとしていたのだった。

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