169話 シュレムの盾
エルフの使者……。
それはメルの母達を指す言葉でありユーリを示す言葉でもあった。
しかし、メルは娘とはいえ、本人ではない。
特別扱いは要らないというのだが……。
ようやく武具店へと辿り着いたメル一行。
彼女達は壊れた盾に代わる物を探しに来たわけだが――。
そこにある数々の武具を見て驚いた。
「おいおいおい……」
「これ……」
そう、そこにはメル達の予想を超えた物が置いてあったのだ。
リラーグなどには遠く及ばないものの、見るからに丁寧に作られた武器や防具。
良質とも言えないが、粗悪品ではない物。
「あら、意外としっかりしてるわね」
「すごい! ね、これも立派だよ!」
エスイルが手にした小振りのナイフは目立った装飾は無い。
しかし、その刃は良く磨かれており作られた後も手入れをちゃんとされている事が良く分かった。
「そうか? 色々揃ってはいるけどやっぱりリラーグ何かと比べるとな」
リアスは苦笑いをしつつそう言うが、メルは彼の言葉にはそれは違うと言いかけた。
だが、彼女よりも早く……。
「リアス! そう言うな、こっちだって作る時には手を尽くしてはいるんだ!」
彼女達の会話を聞き、たまらず近づいて来た店主はリアスの頭へと軽く拳を落とし訴える。
「あ、あの!」
メルは店主に声をかける。
もしや……という想いがあったからだ。
いや、寧ろこの店を見てシュレムの盾を作る事が出来るのではないか? 問題は材料があるかどうかだが……。
「なんだ? お嬢ちゃん」
「実は盾が一つ壊れてしまって――」
シュレムへと目を向けつつメルは話を切り出す。
その意図に気が付いたのかそうじゃないのかシュレムは自身の背負う盾を店主へと見せ――。
「これだ」
「またでっかい盾だな」
驚いた表情を浮かべた店主に対しメルは――。
「その盾は身を守る為というのもあるんですが、実は武器として使っていて」
「武器だぁ!?」
盾を受け取った店主はそれを見つつ――。
「材料が足りないな……」
予想できた答えにメルはがっくりとうなだれる。
「どうにかならないか? 親父さん」
しかし、リアスが喰いつくと――彼は自身の顎髭へと触れ。
暫く考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「一から作り出すならさっきも言ったが材料が足りないな。だが以前と同じ強度って訳には行かないがある程度の修復ぐらいなら出来るだろうよ」
「本当か!?」
その言葉にシュレムは表情を明るくする。
「ああ、だが、今言った通り元通りって訳にはいかない、それで良いなら、だ」
「お、お願いします!」
メルはすぐにそう答える。
盾が無くてはシュレムは丸腰だ。
ただでさえ子供だらけの旅、戦力が大きく削られるのは好ましくないのだ。
「分かった、じゃちょっとばかしこいつは預かる。リアスの知り合いなら優先して直しておいてやるよ!」
「頼むよ、親父さん」
リアスが店主に礼を言った後メル達は店から去る。
これでシュレムの盾は大丈夫だろう……。
「悪いな、足止めされることになって……」
そんな中シュレムは突然謝り、メルはゆっくりと首を左右に振った。
「悪い事無いよ、武器は手入れをしてても壊れる物だし」
「そう言ってもメルの剣は全然平気じゃないか!」
「確かにずっと使ってるけど大丈夫みたいだね?」
確かにメルの持つアクアリムには一切の傷がない。
血も水で洗い流す事が出来るのにサビすらないのだ。
そう言えば、確かにこの剣は不思議だよね。
メルはその事実に気付き、腰にあるアクアリムへと手を添えた。
分かる事はその剣がリュミレイユ家に伝わる物であり、母ユーリには扱えなかったものだと言う事とアーティファクトという事だけだ。
しかし、アーティファクトと言えど壊れる事はある。
「理由は分からないけど、何か強化の魔法でもかかってるのかな?」
メルがふと思ったのは母ユーリが作り出したアダマンタイトという魔法鉱石で出来た武器。
恐らく現状では最も丈夫で壊れにくい物だろう。
でも、この剣は違う……もうとっくに魔法が掛けられてるものだし、一つの道具に掛けられる魔法は一つだけ。
だからこれがアダマンタイトだっていう可能性はないんだけど……。
「手入れは欠かしてないけど、それだけじゃ説明が出来ないよね、何か特別な素材を使ってるんだと思う……」
メルはそう答えを出すとシュレムは納得がいっていない様だったが、そうなのかと口にした。
でも、本当にこの剣は何なんだろう?
水があふれ出す剣……しかも魔法みたいに水の刃を飛ばす事も出来る。
だけど、不思議と魔力が多く取られることはないのはなんでだろう?
「それについては不思議だけど、メル……あまり外で話さない方が良い。タリムはこんな場所だけど一応盗みをやらかす奴は少ない、だけどいないって訳じゃないんだ」
「そうね、メルちゃん気を付けた方が良いわよ?」
「うん、分かってる」
メルは彼らの言葉に頷くと身に着けているアクアリムの柄を大事そうに握りしめた。
「さ、皆宿に向かおう? 店主さんも待ってるだろうし」
彼女はアクアリムへと落としていた視線を仲間達に向け笑みを浮かべるとそう提案する。
「そうだな」
リアスはメルの言葉に頷くとシュレムの方へと目を向けた。
「盾が壊れたのはシュレムのお蔭で俺達が助かったんだ。少しぐらい待つだけなら、誰も気にしないさ」
「それはそうだろうけどよ……」
何処か不満……いや、不安そうにする姉を見てメルは首を傾げた。
いつものシュレムではない、そう感じたからだ。
「どうしたの?」
「いや、何かこう……もやもやってするんだよ! 村がとかじゃなくてあの魔物……普通はいないんだろ? それにメルやエスイルにも分からなかったんだ……勝てたとは言っても何かこう分からないけどなんていうか……」
それは彼女が言っている通り、本人にも分からない不安なのだろう。
確かにメルもあの魔物の事は気がかりであり、不安でもある。
だが、今は何も分からない。
そう、あれが首飾りを狙う者達の罠なのかすら分からないのだ。
「調べる事は大切だけど、今はしっかり休もう? ね?」
だからこそ、万全な状態にしておきたい。
メルはそう考えシュレムに今は休息の時だと伝えるのだった。




