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165話 シュレムの策

 ディ・スペルも通じず、戦いに苦戦を強いられたメル達だったが、シュレムは敵の位置が分かるという。

 景色が揺れているという彼女の訴えに対し、メル達は困惑する。

 そんな中、色さえついていればという言葉を聞きシュレムはナイフを取り出すのだった。

 まさかそのナイフで魔物を指し、血でも流させるのだろうか?

 確かにそれならば例え血が透明でも臭いでメルには判断が出来るようになるだろう。

 珍しくも名案だ! 一行はそう考えた。

 しかし、シュレムの取った行動は彼女達の予測とは違い……。


「これなら、分かるだろぉぉぉぉぉ!!」


 シュレムは自身の左手にそのナイフを突き立てる。

 そして、溢れ出た血を撒き散らした。


「シュ、シュレム!? 何をしてるの!?」


 メルは慌てて彼女の元へと駆け寄り、魔法を唱えようとした。

 しかし、シュレムはそれを止めると腰に身に着けている小さな鞄から薬を取り出しそれを傷へと振りかけると乱暴に包帯で巻いて行く……。


「ちょ、ちょっとそんな大雑把な治療じゃ駄目よ!?」


 それを見てライノも堪らず声を上げながら、シュレムの元へと近づくのだが、本人は気にしていないのだろう。

 笑みを浮かべ――。


「ほら、これなら皆見えるだろ?」


 そう告げる……彼女の視線の先には確かに不自然に血が空中に浮かんでいる。

 魔物は自身へと付着したソレが気になるのだろう、拭っているせいでどんどんと血で色がついて行く……。


「確かに、そうだが……他に方法を考えた方が――」

「これが手っ取り早い! それと――皆」


 魔物が気を取られている内にシュレムは仲間達を見回す。

 そして――。


「あいつには近づくな」


 彼女はそう言うと大盾を再び手に取り、魔物へと向き直った。


「な、何を言ってるの? シュレムお姉ちゃん」


 エスイルは彼女が言っている事に当然の疑問を浮かべた。

 相手は魔物、見えるようになったのならば仲間全員で戦った方が良い。

 しかし、シュレムはそれを拒否したのだ。

 彼女の場合ただメルにかっこいいと思われたいだけだとも言えるが、以前の事がある。

 流石にもうそんな事はしないだろう……。


「あの魔物はオレじゃなきゃだめだ……あの爪、多分当たったら痛いじゃ済まないぞ!」

「それは分かってる事だよね? シュレムだってもし当たったら……」


 シュレムの血で染め上げられ見えるようになった魔物の爪を見つめメルは答えた。

 当然痛いで済まない事は皆分っている。

 メルは思わず苦笑いをしつつ答えるのだが――そんな彼女を守る様に立つと盾を構える。

 すると、轟音が鳴り響き魔物が襲ってきた事が分かった。


「そうだけど、そうじゃなくて……ああ!! 面倒くさい!! とにかく駄目な物は駄目だ! なんかそう思うんだよ!!」


 最早理由になっていない理由を叫びつつ、魔物へと反撃に出たシュレムは――。


「分ったらメルもライノの旦那も早く離れろ!」


 シュレムの盾は見事魔物を捕らえたのだろう、鈍い音が鳴り響く……そして、シュレムが仲間を遠ざけようとする理由をメルは知った。

 彼女の持つ盾は爪の痕が残っていた。

 あの盾が誰が作った物かメルは知らなかったが、一目見ればそれが丁寧なつくりである事は分かる。

 恐らくはリーチェという鍛冶師か、その師にでも頼んだはずだと考えていた。

 それに易々と跡を残す魔物……理由はそれだけで十分だ。


「チッ!!」


 そして、メルは気が付いてしまった……。

 シュレムでなければあの攻撃を受けたら死は避けられないだろう、そのシュレムも長く耐えられないと言う事に……。


 あのままじゃ駄目……なんとかしないと、なんとか……。


 魔物は自身へと危害を加えてきたシュレムを危険だと判断したのか、彼女を執拗に狙い始めた。

 その度に盾はどんどんと傷を増やしていく……。

 メルの目にはそれがシュレムの敗北までの時間を刻んでいるようにしか見えなかった。


「――! 万物の根源たる魔力よ、(つるぎ)に宿りて力を示せ!」


 咄嗟にメルが唱えた魔法、それは母より受け継いだ魔法の一つでありこの場を打破出来るかもしれない魔法だった。


「エンチャント!!」


 メルは願う様に目を瞑りシュレムの盾へその魔法をかける。

 すると、シュレムの持つ盾には岩がまとわりつき――。


「メル!! 助かったぞ!!」


 魔物から目を離さずシュレムは歓喜の叫び声を上げると魔物の爪を盾で再び耐える。

 するとどうだろうか? 先程までとは違い、シュレムはその爪を弾く様に盾を動かす。


「反撃……開始だぁぁぁあああ! オラァァァァアアッ!!」


 シュレムの荒々しい一撃は再び鈍い音を放ち、血のお蔭で辛うじて見える魔物は骨へと叩きつけられ――。


『――ッ!! ――!?』


 今もまだ残り続ける魔物の死骸、それは丈夫で魔物も打ち所が悪かったのだろう……魔物は声にならない声を上げ悶える。


「これで――!! トドメだぁぁあああああ!!」


 シュレムはその隙を見逃さず魔物を追い詰める。

 すると、何かが潰れるような音と共に粘着質な音がメル達の耳へと届く、するとメルは嫌な臭いを感じる。

 しかし、血液らしき物は見えない。


 シュレムがこの事に気が付いてたのかは分からないけど、自分の血を撒いたのは正解だったかもしれない。

 幸いこっちには来なかったけど来た時に私とエスイルだけじゃ対処できなかったよ。


 魔物を倒したことにホッとしつつそんな事を考えたメルはふとシュレムの盾へと目を向ける。

 魔法が解け、あらわになった盾はボロボロでもうとても使える物ではないだろう……。


「参ったな……街の武具店に無理言って作ってもらったのになぁ……」


 シュレムがそんな事をぼやいているのを見て、メルは魔物の骨へと視線を向けた。

 あれ程の衝撃にも拘らず骨は傷一つすらない。


「…………シルフ」


 相棒の名を呼ぶ――。


『どうしたの? メル』


 シルフはメルの頭から降りてくると笑みをこぼしつつ尋ねる。


「リーチェさんにお願いがあるの……トーナにある魔物の骨でシュレムの盾を作って欲しいって」

『分かった、フィー達に伝えるね!』

「メル!? そうか、オレの為に……流石オレの嫁だな!」


 シュレムは満面の笑みを浮かべてメルに歩み寄る。

 そんな様子を見てリアスは苦笑いを浮かべた。


「いや、まぁ……シュレムの為なんだとは思うが……」

「作ってとは言ってるけど受け取る方法はあるのかしら?」


 ライノの言葉にメルは頷く――。


「シルフに頼む事になるけど、届けてもらうしかないよ。ただ問題はそれまでの間は……」


 メルはシュレムに目を向ける。


 あの盾に代わる物があるとは……思えないよね……タリムに何か武器になる者があれば良いんだけど、無かったらまた魔法でなんとかするしかないのかな?

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