164話 見えない魔物
廃村トーナへと辿り着いたメル達。
魔物の気配すらしないその廃村でなにかに襲われた……一体なにが潜んでいるのだろうか?
疑問と不安の中、メル達は戦う事になるのだが……。
見えない敵からの襲撃を受けたメル達。
「具現せし、畏怖をかき消せ」
そんな中、メルは仲間達を助けるため一つの魔法を唱える。
「ディ・スペル!」
それはどんな魔法でも魔力次第で強制解除させる魔法だ。
これでクリアトランスの魔法は切れるはず!
だからこそメルはその魔法を使った。
しかし――。
「あ、あれ?」
問題なく魔力は減り、魔法は発動した。
はずだった……だが、メル達の目の前にはなにも現れる事はない。
疑問を感じた少女は当たりを見回す。
だが一行に人が姿を現したと言う事はない。
保護色を持つ魔物だったのだろうか? そう思うもメルはすぐにその考えを捨てた。
メルが襲われたのは透明な何かだ。
保護色ではないのだ。
「メル!! 後ろに飛べ!!」
メルが戸惑う中シュレムの叫び声が聞こえ、その声の通りメルは後方へと大きく飛ぶ。
すると、先程までメルが居た場所……地面へとまるで獣の様な爪痕が描かれた。
「う、うそ……」
そう、メルの魔法は効かなかったのだ。
いや性格にはそうではないのだろう、魔法が効かなかったのではなく……意味が無かったのだ。
その答えに至ったメルだったが、その理由は簡単だ。
メル自身クリアトランスの魔法が使える。
したがってどの程度魔力を消耗するかと言うのは分かっていたのだ。
それでも多めに魔力を込め魔法を消そうとした。
だがそれが姿を現さないと言う事は――。
「メル! シュレム! 何がどうなってる!?」
「み、見えない人?」
「魔法じゃないの? それにメルちゃんがさっき使った魔法はなんなの!?」
仲間達がメルから答えを待つ中、彼女は信じられない事実に冷や汗をかいた。
そう、メルの魔法が効いていない、つまり……メルの予想を超える魔力を使って魔法を唱えたか、元から目に見えない何かだと言う事だ。
そして、前者はありえないとメルは考える。
姿を消すだけの魔法クリアトランスだが、ただそれだけで魔力の消費が激しいのだ。
しかも使い続けている間ずっと魔力を消耗し続けるという魔法であり、魔力の無駄遣いは避けて当然だ。
そこから導き出された答えは――。
「見えない魔物!? それか人!? と、とにかく皆纏まって!!」
メルはそう叫ぶ。
しかし、疑問はまだあった……臭いが無いのだ。
人や魔物には臭いがある、だからこそ狼の森族の血を引くメルは臭いに敏感だ。
だが、それでも気が付かなかった。
足音などは魔物や獣でも気配を消す事が出来る事から仕方ないとしても臭いは無理だ。
川で体を洗っていたとしてたら分からないが、地面は乾いている事からそれが水を浴びた直後とは言えないだろう……そう考えるメルの脳裏にもう一つ疑問が浮かんだ。
でも、何でシュレムは――?
そう、姉と慕う少女シュレムはメルが襲われることを感知し、叫び声を上げた。
そしてそれは見事に的中したのだ。
仲間達も彼女のしたことに驚いているのだが、当人は――。
「さっきからオレのメルばっかり狙いやがって……」
自分が何をしたのか全く理解してないようで辺りをキョロキョロと見回している。
「シュレム……」
「メル! 大丈夫か? 怪我ないか!?」
名を呼ばれたシュレムはメルを心配するが、その場から動く様子はない。
まさか今ここにも敵が居るという事だろうか? メルはそんな疑問を感じ――彼女へと尋ねる。
それを聞いたシュレムは首を傾げ――。
「居るも何もさっきからこっちの様子を見てやがる!」
「見てやがるって見えもしないのに良く分かるな……」
リアスの言う事にメルも頷く……当然だ、臭いも気配もない者をどうやって探すのか? そんなメル達の疑問をシュレムは理解していないのだろう……。
「見えないって……おい! リアス! 本当に言ってるのか!? あの魔物が見えないってさ……」
「「「「ま、魔物!?」」」」
4人が更に驚いた事にどうやらシュレムはそれが魔物だと告げている。
メルやエスイルにさえ分からない敵を魔物だと判断したのだ。
そんな仲間達の様子に訝し気な表情を浮かべたシュレムは何かに気が付くと駆け出した。
「ぼさっとすんな! リアス!!」
叫び声と共にリアスを突き飛ばし盾を構える。
すると、辺りに轟音が鳴り響き――シュレムは何かの衝撃を受けたかのように後ろへとずり下がった。
それは彼女の意志で後ろへと下がった訳ではないのは誰の目から見ても明らかだ。
だが、目を凝らしてもシュレムの言う魔物の姿は見えず。
辛うじて何かが着地したのは分かったぐらいだった。
しかし、相手の正体を掴むチャンスだとメルは地面へと目を向ける。
其処には確かに人ではない何かの足跡があり、シュレムが言っていた事は真実である事が分かった。
つまり、目の前の敵は最初から透明の魔物。
「そんな、じゃぁ……どうやって戦えば良いの!?」
メルは相手が魔法を使っていない事を確信させられ絶望する。
「どうやってって景色が揺れてるだろ!?」
「景色? 景色が揺れてるって……どういうことかしら」
メル達は辺りへと目を凝らすがやはり分からない。
だが、シュレムはどうやら揺れる景色を頼りにして魔物を見つけていた様だ。
「シュレムお姉ちゃん凄すぎだよ……僕達には何か色を付けられないと……」
エスイルは思わずそう呟くがメルはそれも無理だと考える。
魔物を見る事が出来るシュレムならともかく、見えないメル達では色を付けるだけでも一苦労だ……。
「良く分かった! とにかく色つければ皆が分かるんだな!!」
だが、唯一魔物と戦えるシュレムは口角を釣り上げると盾を地へと突き立て腰から小振りのナイフを取り出すのだった。




