156話 襲撃
魔物の襲撃に備え門の前に立つメル達。
すると、匂いを嗅ぎつけた魔物ヴォールクが攻めてきた。
当然メル達は戦うのだが……メルは今戦える状況ではない。
果たして彼女は一体なにをするべきなのだろうか?
魔力が無いメルでも出来る事……それは――。
「ドリアードお願いがあるの!」
『お、お願いってなに?』
メルは自身の手の平に精霊を乗せ、もう片方の手を真っ直ぐ伸ばす。
「ドリアードに道を作って欲しいの、ヴォールクは足が速い上に群れで来る……でも、対処できるように一本道だったら!」
そう、メルが考えた策はドリアードの力を借り、道を作る事。
「でも、そんな事したらリアスお兄ちゃんやシュレムお姉ちゃんも危ないよ!」
しかし、それはエスイルが言う通り一件逃げ道まで失う可能性もある方法ではあるが――。
「大丈夫」
メルは微笑む。
そうはならない、いやさせるつもりはないのだ。
「私の言葉をドリアードに伝えて――それで、三人で手伝うの!」
メルの瞳はリアスとシュレムへと注がれる。
そして、その二人は数が多いヴォールクへと苦戦しており、その一匹はメル達に向かって来ていた。
それに気が付いた二人は――。
「「エスイル!」」
少年の名を呼び、少年は精霊へと願う……。
すると、二人の前には巨大な木の根が現れ――それはヴォールクの動きを阻んだ。
その後すぐに轟音が聞こえると共に目の前の木の根は消え、メル達の視線の先で真横へと吹き飛ばされる魔物の姿が映る。
しかし、魔物を吹き飛ばしたシュレムの後ろには別の魔物が牙をむいて迫るのが見え――。
それを追うのはリアスだ……だが、そんな彼の後ろにも別のヴォールクが居るのが見える。
「ドリアード! リアスの後ろを断って! そしてシュレムまでの道を――!!」
『うん!』
メルの願いを聞き届けた精霊は木の根でリアスの背後を守り、シュレムまで伸びる一本道を作る。
シュレムは一瞬慌てるもののそれがメルの言葉で起きた事だと察し、その身を翻すと大盾で身を守った。
メルとエスイルからは見えなかったが、鈍い音の後に何かが地に伏せる音が聞こえる……恐らく魔物を倒したのだろう。
「道か、確かにこれなら逃げられもしないし対処もしやすい」
リアスの言葉にホッとしつつメルはドリアードへと目を向ける。
すると、木の根の道は消え、唸る魔物が待ち構えていた。
「だ、大丈夫、かな?」
「きっとなんとなるよ」
メルは弟にそう口にし微笑むとリアス達も頷き――。
「ここを必ず守ろう!」
「うん!」
メル達は魔物との戦いを再開するのだった……
そして、それも――。
「これで、最後だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シュレムの怒声と共に終わりを告げる。
メル達の目の前に広がっている光景は幾体も地に伏せるヴォールク達。
「何とかなったな……だが、こう何度も責められたらきついものがある」
リアスはそう呟くと苦虫を噛み潰したような顔をした。
「リアスお兄ちゃんどうしたの?」
「いや、この数……まずいな」
「ああ、そうだなこう多くっちゃオレも疲れてくる……」
シュレムはそう言うが、メルはリアスの言葉の意味がそうではない事に気が付いた。
そう、数が多いのは問題ではないのだ……実体化しているドリアードが居る限り同じ戦い方が出来るのだから……。
「血を流してる魔物が多い、これじゃ餌があるって思われてもおかしくないよ……」
メルはその理由を口にした。
ヴォールクの襲撃から暫くし……メル達は魔物の死体を処理していた、と言っても街の中に入れる訳にもいかず、穴を掘り、その穴の中へと魔物を放り込み燃やす。
しかし、それはそれで臭いが目立ってしまうのだが……。
「ね、ねぇ、メルお姉ちゃん……本当に魔物来るの?」
少年は姉と慕う少女に問う。
そう、先程の襲撃から魔物が来る様子が無いのだ。
「幾ら鼻の良い魔物でも森の中に居ないと難しいと思うけど……」
「その魔物がこの森に来てないとは言いづらい……それに今回はヴォールクだが、厄介なのが居るんだ」
「さっき言いかけてたの?」
メルは先程彼が言いかけていた事を思い出し尋ねる。
するとシュレムは穴の中へと火種を入れつつ首を傾げ――。
「言いかけてた? 何かあったのか?」
「数年前から突然変異だか進化なのか分からないが、頭の良い魔物が生まれた、タリムは襲撃されても追い返したからな、その内来なくなったんだが――」
『ヴォォォォォォォォォ!!』
リアスの説明に突如割り込んできた聞きなれない声。
「な、なに?」
「噂をすればって奴か……シュレム、お前もエスイルと一緒にメルを頼む、アイツを追い払うならオレの方が良い」
リアスはその声に聞き覚えがあるのだろう、棒を構える。
「お、おい! 一人で戦うってのか?」
「そうじゃない、ただアイツは賢いからな……弱ってるメルを狙わないとは限らない、だけど――これから何度か鉢合わせるかもしれないんだ。対策を練られるなら見てもらった方が良い」
彼は振り返らずにそう言うと――メルは何故か嬉しく思った。
それもそうだろう、リアスに信頼されている。
その事実が嬉しいのだ。
「シュレム、お願い……リアスの指示道理にしてもらえないかな?」
「メル……ああ、分かったよ! メルを守りゃ良いんだろ! 最初からそのつもりだ!」
シュレムはメルの言葉を聞くなり、頭をかきつつ渋々と従う。
そんな彼女の様子を感じてかリアスは口元を緩ませ――。
「ああ、皆頼りにしてる」
彼がそう言葉にしたと同時に森の中から現れたのは曲線を描く大きな角を持ち、人間と同じように二足で歩く鹿の魔物。
「な、何アレ? あんな魔物が?」
『ヴォォォォォォォ!!』
その魔物はやけに筋肉質でその身体には無数の傷があり、腕の先にある蹄からはある臭いがしたことにメルは気が付いた。
血の臭い……? っていう事は少なくともこの魔物は他の動物と戦って殺してたり、食べてるって事だよね……
それにあの腕……あんなのに殴られたら――。
メルがそう思うと同時に再び雄たけびを上げた魔物はその強さを誇示するためか近くにある太い木を殴りつけ、それは轟音と共に倒れていく……。
だが……。
「な、なにをしてるの!? ドリアードの住処なのに!」
相手が子供だと言う事を理解しているのだろうか? 確かに普通の子供ならそれで驚き恐怖するだろう。
しかし、その魔物の前に居るのは――。
「さぁ、な? あれぐらいなら親父なら軽々だし、オレでも出来る!」
「メルお姉ちゃん、シュレムお姉ちゃん……魔物がぴくぴくしてるよ?」
子供達が一向に怯えない事に気が付いたのか魔物はエスイルの指摘通り震えており……。
『ヴォォォォォォォォ!!』
三度目になる咆哮を魔物があげた時――リアスはその魔物の元へと駆け、棒で下顎を叩きあげる。
『ォォォォォ――ッ!?』
当然、咆哮は途中で止められ――。
「うるさいな……」
よろける魔物にリアスは躊躇なく振り上げた棒を降ろした。




