154話 結界との決別
ただ戦うだけでは人型は倒せない。
メルはそれに気が付きリアスとシュレムに指示を出す。
果たして無事結界は壊せるのだろうか?
祈る様にリアスとシュレムの二人を見守るメル。
すると何かが砕ける音とリアスの持つ棒がシュレムの持つ盾に当たる音が辺りに響いた。
キラキラと光る何かがその場に散らばり、人型は徐々に形を崩していく……それを見てメルはようやく息を吐きだす。
「や、やった……の?」
メルが安堵を感じるのとは別にエスイルはまだ不安を感じているのだろう……メルの傍へと歩み寄ると服の裾を掴む。
そんな弟の頭へと手を乗せメルは消えた人型……そして魔法陣を睨むが――それは徐々に光を失い、完全にその光が失われると同時に空気が変わった様に感じた。
「結界が解けたようですね」
「ええ、これでこの街にも旅人や冒険者が立ち寄る事でしょう、ですが彼らが安心して立ち寄れる場所にするためには――」
イリアはメルの達の方へと視線を向け微笑む。
それにメルは気が付くと――
「まずはタリムの人に知らせて来てもらわないと、でも……」
鳥は使えない、直接タリムに行くしかないのだが……それには何か思いついていた事があったのだろう、ライノは笑みを浮かべた。
「ライノ?」
名を呼ばれ、リアスの元へと近づいたライノは――。
「アタシに考えがあるのよ」
「考えって……なにをするつもりなの?」
「何って特別な事じゃないわよ」
彼はそう言うと背中にある白い羽を羽ばたかせる。
その意味に気が付いたメルは耳と尻尾を立たせ驚いた。
「まさか飛んでいくんですか!? でも、私はもう魔力が……」
「駄目よ、メルちゃん達はこの街を守らないとだからお留守番」
「そ、それは……そうだけど大丈夫なの?」
ライノは天族であり、魔族のような魔法は使えず森族の様に精霊の力を借りる事は叶わず、鬼族の様な力はない。
誰に聞いても四種族中、最も戦いに向かない種族と言えるだろう……。
「これでも少しは戦えるって言ったでしょ? そこでリアスちゃんに貴方の使いだって分る物を貸してほしいの」
「それは良いんだが……」
リアスはメルの方へと目を向け困っているような表情を浮かべた。
それを見てライノは微笑むと――。
「他にこの街の安全を確保出来て連絡する手段があるのならその方が良いのだけど……メルちゃんには精霊ちゃんの連絡があるだろうし、一人で行くとなると徒歩のリアスちゃんよりは飛べるアタシの方が早いわ」
「……わかった、でも危なかったらすぐに戻って来て」
メルもそれが最良の手だと考えたのだろう、頷くとリアスへと向かい頷く。
すると彼は腕輪を一つ取り出し、ライノへと手渡した。
「これは?」
「昔タリムにあった眠る獅子って言う酒場の冒険者の証だ……最後までタリムの王に抵抗していた人の遺品なんだ。他にあの酒場の証を持ってるやつは居ないし、これで俺の使いだって分るはずだ」
「タリムにあった酒場って月夜の花だけじゃないんだ……」
母や祖母に聞いていた話に出てくる酒場がそこだけだったからだろう、メルは首を傾げつつもライノが受け取った腕輪を見る。
腕輪に彫られた装飾には酒場の名の通り寝ている獅子のような物が描かれている。
「ああ、他にも何件かあったらしい……とは言ってもタリムが栄えてた時に有名だった酒場は月夜の花だ。知らなくても無理はない」
「そうだったんだ……そう言えば家に居るタリムから来た冒険者は皆、月夜の花の人だったからそれもあったのかも」
自然と酒場は其処だけだと思ってたけど、よくよく考えればタリムも大きな街だったんだよね?
月夜の花だけって事はありえないよね。
メルはそう思うと苦笑いを浮かべた。
二人の会話が終わるとライノは微笑み――。
「分かったわ、借りておくわね」
その腕輪を荷物の中へとしまい、ゆっくりと歩き始めた。
「も、もう行くのですか? せめて少し休んでからの方が……」
「いいえ、領主さんメルちゃん達は確かに強いわ、でもまだ子供……ただでさえ普段の負担が大きいのにこれ以上無理させる訳には行かないでしょ? だから今すぐにタリムへと伝えて来るわ」
「ライノさん……」
しかし、メルもイリアの言った通り少し休んでからの方が良いと考えているのだろう、不安そうにライノを見つめつつその尻尾を丸めた。
「大丈夫よ、危なかったらうまく逃げ切るから、ね?」
「は、はい……」
メルは頷くもやはり、不安なのだろう何か方法は無い物かと考え――。
「そうだ、その……花を買いに行きましょう! 小さな花を」
「花?」
「そうか! ドリアードについて行ってもらえば何買っても僕やメルお姉ちゃんに連絡してもらえるね!」
そう、エスイルの言った通りメルはドリアードについて行ってもらい、ライノの安全の確認をしようと考えたのだ。
「ありがとう、じゃお花買いに行きましょうか」
メルはその言葉に嬉しそうに頷いた。
そのやり取りをみて執事が小さな笑い声を浮かべた。
「やはりイリア様の血と言ったものですね、メアルリース様はお優しい」
「そう言われましても、私はそんな特別な事はしてませんよ? 領主として民が安心して暮らせる街にしたいだけなのです……」
彼女はそう言うと少し寂しそうな笑みを浮かべ――。
「今回の事はこれから償っていきましょう……その為にはまだこの子達の力を借りねばなりませんね」
その言葉に気が付いたメルは曾祖母の方へと近づき……。
「結界を解いたのは私達だから、当然だよ」
そう告げるのだった。




