151話 核となる言葉
結界を解く為には核となる言葉を探し出し、それを書き換えなければならない。
だが、その言葉を抜き出したとしてもそう簡単には解くことはできないだろうとメルは知っていた。
果たして、無事結界を解く事は出来るのだろうか?
羊皮紙を目の前にメルは仲間達を頼る。
「少なくとも街から始まる事は分かった、だけどその後が分からないの」
メルの言葉に頷いたイリアは魔法陣と羊皮紙の間に視線を彷徨わせながら呟く。
「恐らくディーネの事ですから、何度か失敗した時点で魔法陣を解かれない様にする工夫がされているでしょう……」
「それって、文字の場所が変わるとかか? 多分だけどさ……」
リアスは口元を引きつらせつつも尋ねるとメルとイリアは同時に頷いた。
二人の様子を見て大きなため息をついた彼は――。
「街から始まるか……街を守護する結界よ魔の力を払え、とかはどうだ?」
「うん……」
リアスの案に頷きつつメルは浮かない顔をした。
確かにリアスの案はしっかりしてる……この言葉もあっているかもしれない。
でも、なんか違う気がする。
「ほら魔法を知らないお前が言っても駄目なんだよ! 結界よ民を護る魔力の壁と成せ! これに決まってる」
「いや、シュレムお姉ちゃん? 街が最初の言葉だよ、それに何か増えてる気がする……」
シュレムの言葉にエスイルはいつも通り、合いの手の様な突っ込みを入れる。
それに思わずメルは和まされるのだが――その時ライノは何かに気が付いたようで……。
「ちょっと待って」
「ライノさん?」
「なんで魔力と魔、力、同じ言葉があるのかしら? だってさっきの説明だと別に魔と力で魔力と読んでも良いのよね? わざわざ分けてるって事はその言葉を使うって事じゃないかしら?」
ライノの推理にメルは頷きかけた。
しかし、それに割って入ったのはシュレムだ。
「だったら、結界もそうだろ?」
「そうだな、シュレムの言う通りだ……それに結界を意味する言葉は他にもある……文字は違うけどな……」
確かにリアスの言う通り結界と似た言葉はいくつかあった。
しかし、メルはライノの言った言葉の方が気になったのだ。
「多分結界の事を言ってるのは一つだけ……でも結界なんて分かりやすい言葉は使わないよ、だけどライノさんの言った通り魔力の方は魔と力どっちか、それともどっちも使うかもしれない……」
メルはそう言うと新たな羊皮紙に文字を書き出していく……。
街を守護する魔力の壁その力を持って魔を払え――。
「だめだ、文字が増えちゃった……これじゃない!」
必要な言葉が多い事に気が付きメルはたった今書いたものを消す。
書いては消し、書いては消し……メルはやがてその手を止める。
だが、メルが核となる言葉を書いている内も仲間達や領主達はメルと同じように核を考えていた。
そして、イリアはリアス達と話し始め……暫くすると。
「ねぇ、メルちゃん……ひとつ試してほしいのですが」
「え?」
曾祖母に名前を呼ばれその顔を上げたメルは尻尾を力なく垂らす。
「街を覆う魔力の膜よ邪なる魔を拒み民を護れ」
「うん……良いと思うけどお婆ちゃん……何でそれなの?」
メルは疑問をイリアへと向ける。
するとイリアは羊皮紙の言葉を指でたどりながら……。
「結界は街を覆っています、それも魔力は膜のような物になっていて、恐らくこれはユーリちゃんの力を指しているのでしょう、そしてあの子は邪なる魔物を寄せ付けない為に……生まれ故郷であるこの街から動く意志を見せなかった私が護りたいと言った民の為に結界を作ったのです」
「話を聞いて文字を抜き出して、組み合わせて見たんだけど、どうだ?」
「う、うん……試してみる」
このままここで足踏みをしている訳には行かないし……結界を解くには考えてるだけよりも直接文字を……式を消さないと駄目だよね。
だけど、そんなに余裕が無いのも本当……無駄遣いは出来ないけど、皆が考えてくれたんだ!
メルは先程の様に文字を書き換え魔力を込める。
「…………よし」
一文字目を書き換えた後、二文字目へ取り掛かったメル。
それが書き終わると同時に魔力を注ぐのだが、彼女の心臓はばくばくとなり始めていた。
また魔法陣が光り出すのではないか? そんな不安の中、変化が無いか仲間達が見守る中――。
「やった!!」
メルの嬉しそうな声が響いた。
「二つ目の文字は覆で良かったみたいね……」
「次をやってみるよっ!」
そうしてメルはそれから順番に文字を書き換えていく……。
祖母や仲間達が考えた言葉で正しかったのだろう、最後の文字である「護」と言う部分を変えるとその光が失われた。
「これで結界が消えたのかな?」
エスイルは光の失われた魔法陣を見つめメルへと問う。
するとメルは――。
本当に解けたの? でも、何かおかしい……だってあのナタリアがこんなに簡単に魔法陣を解けるようにするかな?
魔力が多い人が居れば試すことだってできるし、そうじゃなくても日を置けば挑戦できる……。
最初に文字を抜き出してしまえば、後は何処に文字が移動したかを見つければいいだけ、それも式が大きく変わる様に変わる訳じゃ――。
メルが疑問を浮かべていると――。
「お、おいメル! 魔法陣が!!」
シュレムの叫び声と同時に彼女には変化が起きた。
「ぁ……ぁ!? な、なん……で……っ?」
突如光を取り戻した魔法陣。
そしてメルは自身に起きた変化に嫌でも気が付かされる。
魔力が……抜かれ!?
まるで合成魔法を使った時の様に魔力が失われたメルは思わずその場に膝をついてしまった。
「メル!!」
シュレムが彼女の名を呼び駆けつけ肩へと手を置いた時にはメルの魔力はほぼ失われ、辛うじて起きていると言う状況へと追いやられた。
そうか、この魔法陣を解いた時に解いた人の魔力を使って強制的に結界魔法が発動するようにされてたんだ……だから魔力が……。
「な、なんだ? この光……」
それはメルの少し予想とは違ったのだろう、光の中から現れたのは――。
「ナ……ナタ、リア……?」
それはメルの祖母を模した光の人型……それはメルが書き換えた文字へと指をさすと徐々に元の文字へと戻していく……。
「いけない、結界を再生しようとしています」
執事の声に反応し、リアスは即座に棒を組み立てると人型へと殴りかかる。
しかし、相手は光の人型……実体がある訳が無く――。
「クソ!! やっぱり無理か!!」
焦るリアスだったが、メルはそれを見て別の意味で驚いた。
そう、人型は文字を変えるのを止めるとリアスへとその腕を向け――。
「駄目! リアス逃げて!!」
『我が意に従い意思を持て――』
ナタリアと同じ声で魔法を唱えた……。




